意識障害で生じることがある垂直性の眼球運動として“ocular bobbing”があります。水平性眼球運動の”ping-pong gaze/rovig eye movement”はこちらをご参照ください。典型的なocular bobbingは橋の障害(特に血管障害や腫瘍など)で生じることがどの教科書にも書いてあり有名です。しかし、橋の障害以外でも生じることがある点には注意です(つまりそれだけをもって局在診断ができる訳ではない)。
*”bobble”という言葉は馴染みがあまりないですが、上下に動くことを意味する単語のようです。ちなみにメジャーリーグで野球選手がモチーフとなったカラカラと動く首振り人形がありますが、あれを”bobble head”と呼びます。平山神経症候学には”bobble”は釣りの浮きの動き(魚が食いつくと浮きが水中に引き込まれる動き)から表現されていると記載がありました。
元々Fisherが1959年に”ocular bobbing”という名称を用い、その後橋の脳血管障害3例によるocular bobbingの症例を1964年に報告したことに端を発します(Arch Neurol. 1964 Nov;11:543-6. )。
“ocular bobbing”は①急速に②下眼瞼向きに眼球が偏倚し、その後正中位に戻る眼球運動です(通常、水平性眼球運動障害を伴う)。数秒の休止期を伴い、この眼球運動を繰り返します。この①急速または緩徐、②最初の眼球偏倚が上眼瞼向きまたは下眼瞼向きの2×2で4パターンの眼球運動がその後報告されています。reverseとinverseという言葉がありとてもややこしいです。
意識障害患者で眼球の上下方向の運動を認めた際には参考になるかもしれません。

reverse ocular dippingの動画:Neurologyのこちら
その他垂直性眼球運動の鑑別は以下です。
・垂直性眼振:緩徐相と急速相があり、通常はintervalがない
・オプロクローヌス(opsoclonus):opsoは注視という意味だり、眼球という意味ではない。両眼が共同性(複視はない)に激しく方向やリズムが不規則に動く運動。眼球運動で誘発され、閉眼時には消失する。ミオクローヌスの要素があるため、両者を合併するopsoclonus-myoclonus syndromeもある。原因は薬剤や自己免疫性、傍腫瘍性などが挙げられる。
参考文献
The clinical spectrum of ocular bobbing and ocular dipping JNNP 1988;51:725-727. 非常に優れたocular bobbing, ocular dippingの分類に関してのreview
平山神経症候学