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Gerstmann症候群

Gerstmann症候群を呈している患者が入院し、そういえば今までGerstmann症候群の記事を作っていなかったなーと調べてみると混沌たる世界に足を踏み入れてしまいました、、、。まだまだ文献の読み込みが浅いのですが、少しずつ足していければと思います。

はじめに

・元々は左頭頂葉角回の障害(angular gyrus syndrome)による身体認識障害 body schemeの障害(特に手指)の4徴(手指失認、純粋失読、失算、左右失認)をGerstmannが提唱しました(1940年)。


・しかし、この概念には反対派の意見も多いようです。その理由としては①そもそも4徴を完全にそろえるものが稀である(つまり不全型が多い)、②Gerstmann症候群以外の神経症候(失語、失読、その他の失認など)を伴うことが多い(つまりGerstmann症候群を独立した症候群として扱うことはできないのではないか?)、③病態の面からこれらの症候がバラバラ(つまり共通した認知障害の病態やネットワークが背景にない)といった意見が挙げられます。
・最後の共通した病態に関しては「言語を介する身体認知(verbally mediated spatial operations)の障害」を病態とする報告もあります。 Archives of Clinical Neuropsychology 29 (2014) 828–833 A Proposed Reinterpretation of Gerstmann’s Syndrome
*4徴のうち純粋失書が欠けることが多く、失書はこのスキームでは説明しきれないことと関係があるかもしれないと記載されている
⇒失書はapraxic agraphia(失行性失書)を呈することが多く、その場合は頭頂葉の上頭頂小葉の障害であり、病変が拡大している例にのみ認める


障害部位・病巣

・障害部位に関しては左角回・その皮質下白質が推定されており、大脳皮質の電気刺激による症状の再現もされています。同部位は色々な感覚情報のハブになっており情報を統合する機能を担っています。
・しかし近年は、皮質ではなく皮質下白質の障害によって(つまりネットワークの障害によって)pureなGerstmann症候群は生じると報告されています。 Ann Neurol 2009;66:654 – 662. A Disconnection Account of Gerstmann Syndrome: Functional Neuroanatomy Evidence
・つまり、皮質下白質が色々な情報(計算や書字など)の交差点になっており、そこが障害されることで一見関係なさそうな症状が同時に障害されるという仮説も推定されます。
・左前頭葉の脳梗塞によるGerstmann症候群(4徴全て揃う)の2例報告 Lee, et al., J Neurol Disord 2016, 4:7
・原因としては脳血管障害が挙げられますが、Gerstmann症候群を呈したのは1%のみと報告もされています。

Gerstmann症候群の4徴

手指失認 finger agnosia

・身体部位失認が手指に限局したものとも解釈できる(そうではなく独立しているという報告もある)
⇒指を指と認識はできるが、個々の指の認識や識別ができない
⇒診察上は指の名称を答えることができず、複数の指から1本の指を選ぶこともできない(自己の指も他者の指も同じ)、口頭指示で指を適切に動かすことができない(しかし慣れているピアノの動作などは可能である)
・中央3本が母指や小指よりも悪いといわれている
・障害を肯定しない(否定することもある)
・Gerstmannが最初に指摘した中核的な障害とされている

左右失認 right-left disorientation

・診察上は口頭指示で左手(または右手)で自分の右眼(または左眼)や右耳(または左耳)などを指さしてもらう・触れてもらうことで評価する
・病態は解明されていない、水平方向のマッピング障害とする報告もある

純粋失書 agraphia

・言語機能としては会話、読字はほとんど正常であるが、書字障害が前景に立つ(失読も随伴する「失読失書」とは別の概念)
・書字の要素:自発書字・書き取り・模写(写字) これら3点を評価する
・失書のパターン
 ①、②:文字の形が思い出せない(漢字または平仮名に強い) 病巣:
 ③:文字の形や筆順の間違い(失行性失書*言葉で説明してもらうと理解できている) 病巣:左上頭頂小葉
 ④:仮名の位置や濁点の位置の間違い「ひがし」→「ひかじ」 病巣:左中前頭回後部
・病識は有している

失計算 acaliculia

・計算のみにとどまらず「数字」全般について混乱をきたす(書き取る、加減乗除ができないなど)
・診察上は何個か答えてもらう、簡単な計算課題を提示するなどで評価する
暗唱としての九九はできることがある(音として記憶されており,厳密に数字を扱っている訳ではないから)
・計算では左の頭頂間溝(intraperietal sulcus)が活性化することが指摘されている

参考文献
・平山神経症候学
・Archives of Clinical Neuropsychology 29 (2014) 828–833 A Proposed Reinterpretation of Gerstmann’s Syndrome