ハンガーにコートをかける部位、つまり後頸部~両肩(僧帽筋の部位)に立位になると疼痛を認め、臥位で改善する症候を“coat-hanger headache”と表現します。変な表現ですが、私この症候かなり好きです。
自律神経障害の起立性低血圧による僧帽筋や脊柱起立筋の虚血が原因と推定されており、立位で誘発され、座位や臥位になると改善することが疑うポイントです(自律神経障害についてはこちら)。本病態は知識として知らないと「原因不明の頭痛、後頸部痛」として片づけられてしまうことがあるため注意が必要です。特にpure autonomic failure(以降PAF:こちら)、MSAでの報告が多いです。起立性低血圧による失神の前駆症状となる場合もありますし、また対症療法の治療効果判定メルクマールとしても活用できます。Curr Pain Headache Rep (2018) 22: 54
「立位で出現し、臥位で消失する頭痛」は「脳脊髄液減少症(こちら)」が代表ですが、この”coat-hanger headache”も忘れてはならず重要です。起立試験で血圧を測定すれば両者の鑑別は容易です。
“coat-hanger headache”はNeurologistには有名な症候ですが、GeneralistやPrimary careでも知っておくべき重要な症候と思います。
最初に起立性低血圧と頭痛の関連性に関して検討した文献:Clin Auton Res. 1994;4:99–103.
25例の重度OHと起立性頭痛に関して検討 92%の症例で臥位で改善し立位で誘発される連日の頭痛あり
疼痛部位:頭部全体 92%, 後頭部 64%, 後頚部 56%, 肩 28%
PAF 93%, MSA 51%に認める J R Soc Med. 1998;91:355–9.
起立性低血圧での症状を検討した文献(PAFとMSA) J Neurol (1999) 246 : 893–898
・dizziness PAF84%, MSA83%
・失神 PAF 91%, MSA 45%
・視野障害 PAF75%, MSA 53%
・coat-hanger headache PAF 81%, MSA 53%
・胸痛 PAF 44%, MSA 13%
・軽快因子:坐位または臥位になると症状が改善する
・増悪因子(特にめまいとcoat-hanger headache):朝(脱水)、気温が高い(皮膚血管拡張)、いきみ(排便や排尿など)、運動、上肢の動作(髪を櫛でとかす、アイロンがけ、皿洗い)、食事(腸管血管拡張)
・発汗や動悸といった代償性の自律神経症状は出現しなかった