いわゆる精神疾患や心理的なストレスなどが神経症状に現れる変換症(機能性神経障害)は神経内科外来では日常茶飯事であり、器質的神経疾患との鑑別が重要です。精神科にぽいと投げてしまい、その後の経過がわからないというケースも多いかもしれないですが、内科の先生がこうした例をどう扱うか?というプライマリケア・ジェネラリストにとって重要なテーマを扱っています。
優れている点1:実臨床ではcommonで困るが、極めて「教えづらい」テーマを積極的に扱っている
・医学では書きやすい、教えやすいテーマと書きづらい、書きづらい、教えづらいテーマがあります。例えばガイドラインの紹介や薬の解説、エビデンスの紹介などは「書きやすい」テーマです。なぜなら客観的に書きやすいですし、エビデンスの内容を記載していれば人から批判されることが少ないからです。
・その一方で本書で取りあげている「心因性」というテーマは客観的根拠を提示しづらく間違いなく「教えづらい、書きづらいテーマ」です。にもかかわらずcommonであり、実臨床で困るケースも多いです。
・こうした扱いづらいテーマを積極的に取り上げて単著で著作にされているということがまずとてもすごいことです。私には到底できないです。類書もおそらく乏しいのではないかと思います。
優れている点2:理想論ではなく「行きつ戻りつ」という実際の診断プロセスが反映されている
・本書の後半は実際の症例をもとに、指導医と研修医の対話を通じて診断にせまるプロセスが書かれています。よくあるのは「診断までのルートができており、それをただ辿る」という理想論の出来レーススタイルですが、本書は実際に「こうではない、ああではない」と実際の臨床で悩みながら進んでいく過程が「正直に」そのまま記載されておりとても好感が持てます。
・この考え方なら自分も明日からの外来で使えそうだな!と読み進めることができます。
優れている点3:症例が豊富
・本書では症例が30例紹介されていますが、その中に器質的疾患と非器質的疾患が混ざっています。
・沢山の症例が分かりやすく解説されており、理解がすすみます。また同時にこれだけ沢山詳細に検討された症例を経験されていらっしゃるということにも驚きます。
非常に勉強になりました。プライマリケア・ジェネラリスト・総合内科医・脳神経内科医にとてもおすすめの書籍と思います。