それぞれの分野で最も重症度が高い病態を把握しておくことは重要です。中枢神経の脱髄疾患であればAHLE(こちら)、そしててんかんの中で最も重症な病態がCryptogenic NORSEです。ここではCryptogenic NORSEを中心に、NORSE全般の免疫治療に関してまとめます。
はじめに
・NORSE(new onset refractory status epilepticus)は「病名」ではなく様々な原因による病態の総称です。Cryptogenic NORSEの病態は解明されていないですが、免疫機序(特にproinflammatory cytokine)の関与が推定されており、免疫治療が有用とされています。
・治療において最も重要な点はtherapeutic windowが極めて狭く、発症直後から疑い積極的に強い免疫治療(具体的には2nd line immunotherapy)を開始する必要があります。1st line immunotherapy(ステロイド、血漿交換、IVIg)は治療抵抗性であることが多いです。
・このためにはまずNORSEを速やかに疑うことが重要な訳ですが、元々てんかんや中枢神経疾患の既往がない方が、数日の発熱後に、突然超難治性てんかん重積を発症する場合に疑います。なんとなくプロポフォールやミダゾラムが持続で流れて、「難治だねー」と時間がダラダラと経過すると時を逸します。NORSEに関してはこちらをご参照ください。
・以下が2022年に発表された”consensus recommendation”(NORSEに関してこうしたrecommendationは初である)です。
“International consensus recommendations for management of new onset refractory status epilepticus (NORSE) including febrile infection-related epilepsy syndrome (FIRES): Summary and clinical tools” Epilepsia. 2022;63:2827–2839.
・発症3日以内にステロイド、血漿交換またはIVIgの開始を推奨
・2nd line immunotherapyを発症7日以内の開始を推奨(以下薬剤選択)
・抗体介在性が同定 or 疑われる場合:リツキシマブ
・cryptogenic NORSEの場合:IL-1R阻害薬(アナキンラ)またはIL-6R阻害薬(トシリズマブ)
“Trends in management of patients with new-onset refractory status epilepticus (NORSE) from 2016 to 2023: An interim analysis” Epilepsia. 2024;65:e148–e155.
・77例、年齢28歳、cryptogenic NORSE 79%, 成人77%(多施設、多国籍)
・1st line immunotherapy 88% 導入3日(IQR:1-5日) スロイドパルス84%, IVIg 66%, 血漿交換 40%
・2nd line immunotherapy 52% 導入12日(IQR: 7-19日) アナキンラ29%, リツキシマブ25%, トシリズマブ 19%, シクロフォスファミド 8%, デキサメタゾン髄注 4%
・ケトン食 35%
・consensus statementが発表された2022年の前後で治療トレンドに変化があるかどうかを検討している
*以下pre 2022 vs 2022-2023での比較
・2nd line immunotherapy 40% vs 69% 導入時期 19日 vs 9日
・アナキンラ 13% vs 50%
・トシリズマブ 11% vs 31%
・リツキシマブ27% vs 22%
・シクロフォスファミド 9% vs 6%
まとめ:上記2022年のconsensus recommendationが発表されてから、トシリズマブ、アナキンラの使用が増加しており、投与時期もより早期になっている
2nd line immunotherapyに関して
・現状2nd line immunotherapyとして確立した治療はない
・早期投与が重要である Epilepsia Open. 2025;10:307–313.
シクロフォスファミド
・DNA合成阻害で性腺機能障害や骨髄抑制による血球減少、感染症、その他出血性膀胱炎や膀胱癌といった副作用が多い点が問題(こちら)
・Cryptogenic NORSEの5例にシクロフォスファミド投与で、4/5例(発症~投与までの期間は20-59日)で改善(mRS=0-2)、予後不良は投与が遅れた例(173日)Neurology(R) neuroimmunology & neuroinflammation 2017;4:e396.
・上記のconsensus recommendationには推奨の記載なし
・日本では保険の問題でシクロフォスファミドが使用されることが多いかもしれないが、副作用の点から積極的には推奨されず他の薬剤を考慮
リツキシマブ
・抗CD20モノクローナル抗体であり、B細胞除去による抗体産生抑制効果
・副作用として最も注意が必要なのはHBV再活性化である
・上記consensus recommendationでは抗体介在性の場合の2nd line immunotherapyとして推奨される
トシリズマブ
・トシリズマブはIL-6受容体阻害薬(モノクローナル抗体)
・IL-6の一般的な作用:①B細胞の分化,成熟、②IL-17を介したhelper-T細胞産生、③regulatory T細胞の分化抑制、④CD8+T細胞分化促進、⑤形質細胞を保つ
・IL-6自体にSeizureを誘発または抑制する効果があるかははっきりしない
・IL-6はBBB透過性があるが(IL-6受容体も神経に発現している)、トシリズマブのBBB通過性は低い
・てんかん重積(NORSEに限らず)において髄液IL-6は上昇する
・NORSEにおいて髄液のサイトカインでIL-6が著増することから、IL-6を抑制することで効果があるのでは?という仮説の元、特にCryptogenic-NORSEに効果があるのではないか?と報告
NORSEに対するトシリズマブ投与7例報告 ANN NEUROL 2018;84:940–945
・既に他の免疫抑制薬(リツキシマブ投与5例、シクロフォスファミド使用例なし)を投与されているが改善に乏しいNORSEの中でも重症な7例(内訳:Cryptogenic 6例、NMDAR抗体 1例)
・発症からトシリズマブ投与までの期間:25日(6-73日)
・6例がトシリズマブ投与後中央値3日でStatus epilepticus改善
・mRS=5,5,5,3,3,6,2と予後良好は1例のみ
・トシリズマブ投与による合併症は重度の感染症2例発症(うち1例は投与後6日後に敗血症で死亡)
アナキンラ
・IL-1βはSeizureを強力に誘発することが分かっている
・IL-1R阻害薬(アナキンラ)を髄注することでSeizureを抑制する効果が動物実験で報告されている Proc Natl Acad Sci U S A 2000;97:11534–9.
・これらの点から機序としてはIL-6阻害薬よりも理にかなっている
・NORSE(FIRES小児)に対して最初に報告されたアナキンラ投与の症例報告 ANN NEUROL 2016;80:939–945
・46例の後ろ向きコホート研究は42/46例が小児であり、45/46例はFIRESに分類、44/46例はcryptogenicに分類 Ann Clin Transl Neurol. 2020;7(12):2467–74.
・現状はほとんどが小児例に関する報告であり、まだ成人投与例の報告は少ない
2nd line immunotherapyの効果を比較検討したreview article “Second-line immunotherapy in new onset refractory status epilepticus”Epilepsia. 2024;65:1203–1223.
・2nd line immunotherapyに関して非常に詳細に検討しているreview article(下図はこの文献より作成)
・過去のアナキンラ、トシリズマブ、デキサメタゾン髄注が実施された報告75例を検討
アナキンラ | トシリズマブ | デキサメタゾン髄注 | |
作用機序 | IL-1R阻害 | IL-6R阻害 | ステロイド |
投与方法 | 皮下または静注 | 皮下または静注 | 髄注 |
半減期 | 4-6時間 | 6-18日 | 8時間 |
BBB通過性 | 良い | 低い | – |
投与例 | 52例 小児 91% | 21例 小児 30% | 8例 小児 100% |
効果 | -73% | -70% | -50% |
副作用 | 48% 感染 35%, 血球減少 10%, DESS 10% | 69% 感染 15%, 血球減少 38% | なし |
長期予後 | 62% 中等度以上障害 | 63% 中等度以上障害 | 不明 |
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