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HHV-6と中枢神経

私は今まで造血幹細胞移植を行っている施設での勤務歴が乏しい関係で、移植関連の中枢神経疾患にとても弱いです。先日造血幹細胞移植を行っている施設で短期研修をした後輩から「移植後でちょっとせん妄かなーという患者さんに指導医がすかさずHHV-6脳炎を疑ってホスカルネットを投与して、実際にそうだった」と話しを聞いて、かなり驚きました。髄液multiplex PCR(こちら)の登場により髄液中HHV-6 DNAを測定しやすくなりました。勉強した内容を少しずつ追記していきます。

基礎知識

・HHV-6AとHHV-6Bの2種類が存在する。
・ほとんどが幼児期(6か月~2歳)に初感染(突発性発疹)し、免疫を獲得して、成人期に初感染となることは稀。初感染後に宿主体内に潜伏感染する。
造血幹細胞移植後・固形癌移植後・HIV患者再活性化で問題となるのはHHB-6Bがほとんど(PCR測定系の多くはA, Bを鑑別できないため、PCR検査結果ではHHV-6 NDAと表記)
・臨床では造血幹細胞移植後再活性化での辺縁系脳炎が問題になる(免疫正常者では稀) post-transplant acute limbic encephalitis(PALE)
・その他DIHS/DRESSで再活性化が生じる場合がある。
・PCR検査:活動性感染・潜伏感染・ciHHV-6いずれも反映するため、DNAが検出されるからといって活動性感染を示唆する訳ではない
・造血幹細胞移植後のHHV-6B再活性化の評価:血漿検体の使用を推奨(全血ではなく)
*全血は白血球中の潜伏感染を反映して長期間陽性が持続する
・髄液multiplex PCR(こちら)での偽陽性は1.4%(n=1/73) Clinical Microbiology and Infection 2020;26:281-290.

ciHHV-6に関して

chromosomally-integrated HHV-6(ciHHV-6)は人の全ての有核細胞の染色体にHHV-6が組み込まれた状態のことであり、生殖細胞を通じて親から子にメンデル遺伝を呈し、欧米では約1%が有するとされている。これ自体の病的意義は不明。
・real time PCR法では潜伏感染やこのciHHV-6も陽性となる。問題となるのはciHHV-6では髄液PCRが陽性となる。これを活動性HHV-6感染症と誤診して、不要な治療につながる可能性がある。
全血DNA量が5.5log10 copies/mLを超える場合はciHHV-6を示唆する(血清や血漿ではなく)
・ciHHV-6に対して抗ウイルス薬での治療介入を行うことでメリットがあるかどうかは不明

参考文献:Rev. Med. Virol. 2012; 22: 144–155.

免疫正常の場合

・現時点でデータ不十分であり髄液中から検出された場合に病的意義があるとして治療すべきかは不明である

カルフォルニア脳炎レジストリーで(California encephalitis project)免疫正常HHV-6陽性の4例報告 Clinical Infectious Diseases 2005; 40:890–3

・4例(4/1000例 0.4%)の報告でありいずれもホスカルネットは使用なし(アシクロビル)
この報告ではciHHV-6に関する言及や考察はされていない
・1例目:38歳女性MRI左側頭葉内側信号変化、経過途中でHHV-6陽性からバルガンシクロビル投与、軽度神経後遺症(詳細不明)が1年後あり
・2例目:66歳女性頭痛、MRI特記異常所見なし(軽度gliosisとのこと)、自然と改善
・別の研究では10/31例の健康な脳組織からHHV-6が検出あり、病的意義とは関係ないかもしれない J Med Virol 2001; 63:45–51.

造血幹細胞移植後

・HHV-6B脳炎は移植後中枢神経合併症の最も多い原因
・臍帯血移植:5-10%, 末梢血幹細胞移植 0.5-1%、HLA不一致非血縁者間移植も多い
移植後2-6週に多い、臨床像としては短期記憶障害が多い
・HHV-6B脳炎の診断:1.中枢神経症状,2.髄液検査でHHV-6 DNAが陽性,3他に中枢神経症状症状をきたす明確な原因がない
・MRI上の側頭葉内側信号変化は発症初期には認めないことが多い
・髄液細胞数も正常を呈することが多い
治療はPCR結果を待たずに開始する必要がある(治療の遅れは予後不良)
・ホスカルネット 60 mg/kg, 8 時間ごと 1 日 3 回(腎機能に応じて調整)
・ホスカルネット投与困難な例はガンシクロビルを使用

参考文献

・造血幹細胞移植ガイドライン HHV-6 第2版
・日本造血幹細胞移植学会誌 9(3): 77—82,2020