とあるセミナーで神経疾患の周術期管理について話す必要があり、神経疾患ごとに調べています。てんかんに関しては特別な管理が必要ということはなさそうです。「きちんと発作頻度を普段から管理して、手術当日の朝もASMはいつも通り内服してもらい、術後はできるだけすぐに元の内服をしてもらう」ということに尽きるかと思います。
項目 | 解説 | |
周術期Seizure頻度 | 3.4% | |
手術によるリスクの上昇 | 不明 | |
リスク因子 | 原疾患 | 術前のてんかん病勢コントロール不良(ASM多数、最終発作が近い、発作頻度が多い) |
術式 | 関係なし | |
麻酔方法・薬 | 関係なし | |
周術期管理 注意点 | 手術前 | 当日朝までASM内服する |
手術中 | 特記事項なし | |
手術後 | できるだけ早期のASM再開(できるだけ中断しない) |
てんかん患者は周術期にどのくらいSeizureを生じるのか?
“Perioperative Seizures in Patients with a History of a Seizure Disorder” Anesth Analg 2010;111:729 –35
・てんかん患者の周術期(術後≦3日)発作リスク3.4%(てんかん患者641人中22人・後ろ向きコホート研究)
・リスク因子:まとめると術前のてんかん病勢コントロール不十分
⇒術前Seizureが頻回、Seizureが直近に生じている、ASM内服が多い
・最終発作から手術までの日数:0-7日 17.4%, 8-28日 20.7%, 29-180日 8.9%, 181-365日 5.6%, 365日- 0%
・発作頻度:毎日 37.5%, 週1回以上 18.2%, 月1回以上 9.4%, 年1回以上 8.1%, 年1回未満 0.2%
・ASMの数:1種類 1.3%, 2種類 7.5%, 3種類以上 17.8%
*術式や麻酔の方法(全身麻酔、脊椎麻酔など)、麻酔薬はリスク因子にならない
術前・術後の管理
・ASM(anti-seizure medication):そのまま継続=手術当日朝に予定通りきちんと内服する、また術後もできるだけ早期から普段通り内服する
・術後消化管が使用できない場合:点滴へ置換
*例えば元々レベチラセタムの内服であれば、そのままレベチラセタムの点滴へ切り替える
*ただ点滴薬が無い薬剤の場合(カルバマゼピン、バルプロ酸など)は決まりはない。つまりASMにおいて等価換算式はないので(つまりカルバマゼピン200mg=レベチラセタム〇〇mgなどはない)、その都度検討が必要 最も置換しやすいのは相互作用がないという点ではレベチラセタムであるが、投与量は決めることが難しい
・電解質管理や薬剤相互作用に注意:ASMは特にCYP450と関連するカルバマゼピンやフェニトインなどを使用中では相互作用が多いのでちゅい
麻酔管理
・鎮静薬:ベンゾジアゼピン系やチオペンタールはSeizureを抑制する(てんかん重積の3rd line therapyであるように)
・鎮痛薬:Sieuzreのリスクは報告されているが使用を控えるものではない(Meperidineが最も高い)
・筋弛緩薬:影響なし
参考文献
・British Journal of Anaesthesia 108 (4): 562–71 (2012) 麻酔とてんかんのreview article あまり目新しい情報はありませんでした
・BJA Education, 15 (3): 111–117 (2015) これもてんかんの一般的解説ばかりで新しい情報は得られず
・Anesth Analg 2010;111:729 –35 具体的なデータを提供してくれる素晴らしい文献(たぶんこの領域で最もきちんとした疫学研究)