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尿毒症性脳症 uremic encephalopathy

尿毒症性脳症は除外診断です(この後の議論上誤解がないようにここで強調します)。ただ「透析を1回まわしてBUN下がったけど意識が改善しなかったので、尿毒症性脳症ではない」という議論は間違っていると思います。以下ほとんどの内容をKidney International 2022; 101: 227–241.を参照に記載させていただきます。

病態・診断

・病態は単一ではなく、複数の要素が関与するとされています。
・①腎機能障害によりneurotoxinが貯まる(Guanidino compounds, AGEs, Tryptophan metablitesなど)、②BBB透過性の変化、③AQPチャネルの不全?、④炎症や酸化ストレスによる影響 など

BUNは意識状態の程度と相関しません。BUNは血液中で測定できるsurrogate markerみたいなもので、BUNだけがneurotoxinではないので、相関関係がないことは納得がいきます。厳密には少し違いますが肝性脳症でのアンモニアの議論に近いと思います。

・またeGFRの絶対値だけではなく、時間経過が重要です。AKIの場合はCKDとは異なり代償機構が不十分であり、同じ程度の腎機能障害であったとしても脳症が重度になりやすいです。

・尿毒症性脳症(uremic encephalopathy)の明確な定義や診断基準は存在しません。除外診断です。背景に腎機能障害がある患者では純粋に薬剤性の脳症(最多)、電解質異常、PRESなども重要な鑑別になります。

治療:透析

何回透析を回せば意識は改善するのか?

一番最初の議論に戻ります。確かに軽い尿毒症性脳症は1回透析を回せば意識がすっと改善することもあります。ただそうではない例も多々あります。

実際に文献上(Kidney International 2022; 101: 227–241.)も尿毒症性脳症以外を考慮する条件を以下のように記載しています
“When considering uremic encephalopathy as an etiology for CNS symptoms, we recommend that patients with delayed, incomplete, or no neurological recovery after the initiation of dialysis, for at least 3 to 5 sessions, should have a careful examination for other possible explanations of their symptoms”

つまり透析を3-5回実施しても意識状態が十分に改善しない場合はその他の原因をきちんと考慮すべきとしています。同じ論文での別の部位の記載は以下です。
“Effective solute removal typically leads to improvement in CNS symptoms over several dialysis sessions with further improvement over time when adequate dialysis clearance is obtained.”

透析1回では判断せず、複数回実施して意識状態がどうか?から判断します。

透析をした後の意識状態の”natural course”はどうなのか?

・AKIKI2 trial(ひとことでは、AKI患者にRRT導入を遅らせることで予後がどうなるか?を検討したRCT Lancet. 2021 ;397:1293-1300.)で意識状態が悪い患者に限定したhost hoc analysisの研究でのsupplemental figureに透析により意識状態がどう変化したか?の経過図がありとても勉強になります(現在東京ベイで内科専攻医に来てくれているI先生に文献を教えていただきました)。Intensive Care Med 2024; 50:385–394.

・この図を見てわかる通り、開始していきなりすとーんと意識状態が良くなる訳ではなく、数日かけて(この図でみると10日くらいでプラトーになっている)意識状態は改善してくることがわかります。

改善までに少し時間がかかる病態生理は?

1:透析は小さい分子量の除去に優れているが、大きな分子量の除去は効率的に行うことが難しい
2:尿毒性脳症はneurotoxinが貯まるという単一の要素ではなく、BBBの変化が生じるなど複合的要素によって生じている
3:そもそも1回の透析で全てのneurotoxinを除去できる訳ではない
4:透析で除去できるのは血液中のneurotoxinであり、BBBと血液の平衡関係が達成されるにはタイムラグがある(つまり、血液中のneurotoxinが除去され、中枢神経側のneurotoxinが濃度勾配によりBBBを通過して血液側に移動するのにはタイムラグがある)。

強調しますが、安易に尿毒症性脳症と診断して良いという議論をしたい訳ではありません。そうではなく、透析を1回まわして良くならないからといって安易に尿毒症性脳症を除外してもいけないということを言いたいです。

参考文献

Kidney International 2022; 101: 227–241.