脳梗塞急性期は血圧が上昇し、その後数日かけて自然と低下していくトレンドを辿ります。従来脳梗塞では脳血流量が体血圧依存性になっているため(autoregulationの破綻により)、脳梗塞の急性期は血圧を下げるべきではないとされていました。ではいつから降圧薬を導入すべきか?という点に関しての臨床研究を紹介します。ここでは再灌流療法(rt-PA、血管内治療)を実施しない場合をとりあげます。
- 1 “Early versus delayed antihypertensive treatment in patients with acute ischaemic stroke: multicentre, open label, randomised, controlled trial” CATIS-2 BMJ2023;383:e076448
- 2 “Early Versus Delayed Antihypertensive Treatment After Acute Ischemic Stroke by Hypertension History” 上述CATIS-2のサブグループ解析 Stroke. 2025;56:00–00.
- 3 管理人のひとこと
“Early versus delayed antihypertensive treatment in patients with acute ischaemic stroke: multicentre, open label, randomised, controlled trial” CATIS-2 BMJ2023;383:e076448
Design: open label, RCT (多施設共同106施設、中国)
Patient:急性期(発症<24-48時間、NIHSS<20点、再灌流療法なし)の脳梗塞(病型は心房細動、頭蓋内・外血管狭窄≧70%を除外)、収縮期血圧140-220mmHg
*患者背景(n=4810):64歳、発症からランダム化まで約36時間、血圧SBP約160mmHg、高血圧既往79%、NIHSS=3点、病型内訳アテローム血栓性 約50%、ラクナ梗塞約40%強
Intervention(早期降圧群):降圧薬により24時間以内に10-20%収縮期血圧を下げて7日以内に<140/90mmhgを達成する
Comparison(後期降圧群):7日間降圧薬フリーで管理して8日目から降圧介入⇒最終的に<140/90mmHg目標
Outcome:90日後mRS≧3 12.0% vs 10.5% OR 1.18(0.98-1.41) P=0.08
結論:早期降圧薬の介入により神経学的予後改善効果はなし
血圧の推移
・24時間:early ΔSBP=-16.4 mmHg, -9.7% vs late -8.6mmHg, -4.9%
・7日後:early 139.1 vs late 150.9 mmHg P<0.001
・90日後:early 133.1 vs late 134.0 P<0.001

サブグループ解析

本研究の特徴
・発症7日目以降は両群ともに同じ管理になるため、本当に「急性期の降圧管理のみ」が両群の違いを反映することになる
Limitation
1:primary outcomeの10.5%が想定よりも低い(25.0%と推定)
2:早期降圧群の血圧低下が弱い
3:double blindedではない
4:再灌流療法館患者を除外している
管理人のひとこと
・確かに有意差はついていないのですが、本当にぎりぎりのところで早期降圧群が極めてHarm寄りの結果である点に要注意です。
・本研究はinclusion, exclusion criteriaが実臨床とマッチしており良いです。特に病型を絞っている点が優れています。きちんと心房細動を除外していることで心原性を除外しており、実際に降圧管理が問題となる非心原性に病型を絞っている点が実臨床と合致しています。またきちんと頭蓋内外血管狭窄例を除外している点も実臨床とマッチしている点で、これらの例は降圧ですぐに症状が悪化します。
・NIHSS中央値3点ということで確かに軽症例が多い印象ではあることと症状が変動している例ではどうか?(ここをサブグループで抽出することはなかなか大変かもしれないですが)が気になります。
・結論としては今までのプラクティスを変えるものでは全くないです。
“Early Versus Delayed Antihypertensive Treatment After Acute Ischemic Stroke by Hypertension History” 上述CATIS-2のサブグループ解析 Stroke. 2025;56:00–00.
まとめ:上記CATIS-2のサブグループ解析で、既往に高血圧が「ある群」と「ない群」で比較検討した研究です。
90日後mRS≧3
・高血圧既往あり OR=1.11 (0.91–1.36)
・高血圧既往なしOR=1.38 (0.92–2.08)
⇒ordinal logistic regression(順序ロジスティック回帰分析:非連続変数の回帰分析)
・高血圧既往なし OR=1.35 [95% CI, 1.01–1.82] P=0.04
・高血圧既往あり OR=0.95 [95% CI, 0.82–1.10]
⇒高血圧既往がない患者の急性期脳梗塞での早期降圧管理は神経学的予後を悪化
管理人のひとこと
・結論は急性期脳梗塞の早期降圧管理による神経予後のメリットは示されておらず、逆に神経予後悪化の懸念もある。このため降圧管理は急性期を過ぎてから開始する。となるかと思います。
・私(管理人)は元々「降圧薬は一旦全て中止して、神経学的変動が落ち着く+7日程度経過してから降圧薬を導入」としていました。これらの研究結果を踏まえて、このプラクティスが変ることはないです。
・長期的な二次予防という観点からいうと、別の高血圧緊急症(例えばCS1心不全など)を合併していない限り、超急性期も降圧薬介入することで長期的な大血管合併予防につながるとは思えません(ほんの数日の降圧薬の有無が影響を与えるとはおもえない)。
・短期的な90日後の神経機能予後に関しても降圧薬が良い影響をもたらすとしたら病態生理的には何になるのだろう、、、と正直思います。なので無理に急いで急性期から降圧薬を導入する必要はないと思っていました。