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Anti-GQ1b antibody syndrome

私は現在の施設でなぜかFisher症候群とBickerstaff脳幹脳炎を沢山診療します(地域性ってあるのでしょうか?)。その経験を通じて私のようなしょぼNeurologistが言うのもあれなのですが、この”Anti-GQ1b antibody syndrome”という概念が実臨床に最も合致していると思います。“Anti-GQ1b antibody syndrome”のcore featureがあり、その表現型が軽いものがFisher症候群とよばれ、重いものがBickerstaff脳幹脳炎とよばれ、両者は明確な境目がある訳ではなくスペクトラムになっていると思います。

よくGQ1b抗体陰性のBickerstaff脳幹脳炎と呼ばれるものが報告されていることがありますが、これは全く別の病気だと思います(なので一緒くたにした報告は解釈に注意が必要と思います)。つまりGQ1b抗体陽性と陰性で全く別の病態と思った方が良いと考えています(あくまでも私見です)。

近年“anti-GQ1b antibody syndrome”という概念が確立してきており、ここでは以下の論文を読み、core featureももちろんあるのですが、それよりもその臨床像の広がり(つまりatypicalな例に関して)について調べた内容を簡単にまとめます。

Lee SU, Kim HJ, Choi JY, Choi KD, Kim JS. Expanding Clinical Spectrum of Anti-GQ1b Antibody Syndrome: A Review. JAMA Neurol. 2024 Jul 1;81(7):762-770. doi: 10.1001/jamaneurol.2024.1123. PMID: 38739407.

病態・臨床像

・GQ1b発現部位 Brain Res. 1997;745(1-2):32-36.(剖検検討の超重要文献)
Ⅰ 5.7%, Ⅱ 11.4%, Ⅲ 13.2%, Ⅳ 11.9%, ⅴ 6.6%, Ⅵ 11.6%, Ⅶ 5.4%, Ⅷ 8.4%, Ⅸ,Ⅹ 5.7%, Ⅺ 5.2%, Ⅻ 5.8%
・GQ1b抗体自体が病原性を有する(pathogenic) *epiphenomenonではない、健常者では検出されない(ただ別の自己免疫疾患に不随して陽性になる場合はある) Neurology. 1993;43 (10):1911-1917.

Fisher症候群こちらを参照

Bickerstaff脳幹脳炎こちらを参照

眼球運動障害:外転制限障害が最も多い、進行することが特徴 左右非対称の単眼障害 27% 正中固定(全方向性眼球運動障害) 50%以上で認める INO、one-and-a-half syndrome,単一神経障害などを認める場合もある
*”Acute Ophthalmoplegia Without Ataxia”:失調や腱反射消失を伴わずに眼球運動障害のみを呈する例がある

瞳孔異常 42-55%:散瞳42%, 対光反射減弱 42%, 瞳孔不同 毛様体神経節や短毛様神経の障害が示唆されている
*管理人はこの瞳孔異常が他疾患との鑑別上非常に有用だと思っています

非典型的(外眼筋障害を伴わない)

AVS(acute vestibular syndrome):内耳神経にもGQ1bは発現しているため急性前庭障害を呈する場合がある
*Acute unilateral peripheral vestibulopathy(AUPV)の11%(12/105)に抗GQ1b抗体陽性 “Clinical features and neurotological findings in patients with acute unilateral peripheral vestibulopathy associated with antiganglioside antibody.” Neurology. 2023;101(19):e1913-e1921.

視神経障害:GQ1bは視神経に豊富 小数例報告がある(片側または両側、眼球運動障害改善の過程で生じる、乳頭浮腫を伴う) *視神経乳頭浮腫のみを呈した症例報告 Optic disc edema as a sole manifestation of anti-GQ1b antibody syndrome. J Neurol. 2021;268(6): 2263-2266.

acute sensory ataxic neuropathy

検査

・GQ1b抗体は発症時が抗体価ピークであり、その後低下してくる(発症1週間はほとんどの場合陽性)
・髄液中の測定は臨床的意義はない
・Fisher症候群診断において感度92%, 特異度97%

鑑別

・Wernicke脳症:最も臨床像が似ると個人的に思う(ビタミンB1を投与しながら経過をフォローした症例も個人的にはある)
・多発性硬化症:左右対称性・画像所見
・重症筋無力症:瞳孔所見が鑑別上重要(MGは内眼筋が障害されない)
・神経ベーチェット病
・Tolosa-Hunt症候群
・下垂体卒中
*上記鑑別疾患リストは論文上のものを記載している

治療

・確立した免疫治療はない well-designed RCTはなし(プラセボと比較した)
・自然経過で改善する病態であることが関係しているかもしれない
・血漿交換は効果なし MFS50例の報告(千葉大学病院) J Neurol Neurosurg Psychiatry. 2002;72(5):680.

予後

・ほとんどの例が4~12週間で寛解することが多い
・寛解までの期間は失調は4週間、眼球運動障害は12週間程度かかる
・改善の程度は年齢、性別、先行感染、最重症時の状態に依存しない
・基本的には単相性の病態、再発14%と報告もある Eur J Neurol. 2012;19(7):944-954.