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めまいの対症療法

  • 2025年1月16日
  • 2025年1月16日
  • 神経

もちろんBPPVは耳石置換法などetiologyに準じた治療が最も大切ですが、実臨床ではきちんと対症療法薬を使いながら問診や診察をすすめる必要があります。めまいのレクチャーをすると必ず最後の質問でここのめまい対症療法薬の質問がでるのでエビデンスに関してまとめます。

抗ヒスタミン薬

・急性期のめまい対症療法薬として第1選択でありヒスタミン受容体H1, H3が重要。
・BBBを通過する必要があるため、第1世代の抗ヒスタミン薬が推奨され、ジフェンヒドラミン(トラベルミン®)、ヒドロキシジン(アタラックス®)などがよく使用される。ただ鎮静の副作用がある。
・慢性期に関して効果があるかどうかは不明。また中枢の代償機構に悪影響を与える可能性が示唆されており(充分なエビデンスとはいえないが)、長期間投与は推奨されない(急性期にとどめる)。
・ベタヒスチン(メリスロン®)はH3阻害薬なのでH1を阻害しないため鎮静作用に弱く副作用に乏しい。急性期に関して確立しておらず(H1を弱く刺激する作用の点から急性期は逆に悪影響である可能性も指摘されているがエビデンスに乏しい)、メニエール病の慢性期に関しても効果は確立していない。

“Efficacy of Benzodiazepines or Antihistamines for Patients With Acute Vertigo A Systematic Review and Meta-analysis” JAMA Neurol. 2022;79(9):846-855.

・急性(発症2週間以内)のめまい患者に対して抗ヒスタミン薬またはベンゾジアゼピン系を投与して2時間後のVAS(vertigo or dizziness visual analog scale)を評価(Secondary outcome: nausea VAS 2時間後、1週間後、1か月後のめまい改善)
・結果:抗ヒスタミン薬はベンゾジアゼピン系に比較して有意に2時間後のVAS改善あり、非ベンゾジアゼピン系とは有意差なし
*1週間後、1か月後のめまい改善に関しては抗ヒスタミン薬、ベンゾジアゼピン系いずれもプラセボと比較して有意差なし
・結論:ベンゾジアゼピン系は急性めまいの対症療法として使用するべきではない

ベタヒスチン(メリスロン®)

作用機序:presynaptic H3受容体阻害(ヒスタミンのautoregulationを阻害, H1, H2受容体阻害作用なし)
*postsynaptic 弱くH1受容体作動
①血管作用:内耳の微小循環改善改善
②神経作用:H3受容体阻害⇒その他の神経伝達物質放出⇒内耳機能調整
副作用:少ない
*H1,2受容体に作用しないため鎮静作用など副作用が弱い
*運転機能に悪影響なし ”The effects of two anti-vertigo drugs (betahistine and prochlorperazine) on driving skills” Br. J. clin. Pharmac. (1991), 32, 455-458
承認:日本、ヨーロッパなどあり(アメリカは当初承認後もその後取り消されて現在に至る)
禁忌:なし

Efficacy and safety of betahistine treatment in patients with Meniere’s disease: primary results of a long term, multicentre, double blind, randomised, placebo controlled, dose defining trial (BEMED trial) BMJ 2016;352:h6816

まとめ:メニエール病におけるdouble-blined RCT(ベタヒスチン high dose vs low dose vs プラセボ)で30日間の発作回数(7~9か月後の3か月間を毎月評価)
背景:既報は観察研究やlow quality RCTであり、ベタヒスチンの効果に関して分かっていない
結果:ベタヒスチンとプラセボで発作回数に有意差なし(ベタヒスチンもプラセボ群もどちらも発作頻度は有意に低下)、副作用上の問題なし(high doseでも)

“Betahistine for symptoms of vertigo” Cochrane Database of Systematic Reviews 2016, Issue 6. Art. No.: CD010696. DOI: 10.1002/14651858.CD010696.pub2.

・ベタヒスチン vs placeboのRCT(17研究、1025例)に関して解析(メニエール病に限らない)バイアスが多い(BPPV例は耳石置換法がされているなど)
・結論:症状改善 risk ratio (RR) 1.30, 95% confidence interval (CI) 1.05 to 1.60; 606 participants; 11 studi
・副作用:プラセボと比較して有意差なし 16% vs 15%(重大な副作用も稀)
・low quality evidence ベタヒスチンはめまい症状を改善させる可能性あり

メトクロプラミド

“Comparison of efficacy dimenhydrinate and metoclopramide in the treatment of nausea due to vertigo; a randomized study” American Journal of Emergency Medicine 40 (2021) 77–82

・概要:救急外来でめまい+嘔気で受診(18~65歳)患者(n=200)をジフェンヒドラミン50mg vs メトクロプラミド10mg 15分かけて静注のめまい症状と嘔気症状それぞれVAS(visual analog score)で投与分後に評価したdouble-blinded RCT(placeboはない)
・結果:めまい、嘔気症状いずれもVASの低下はジフェンヒドラミン群とメトクロプラミド群で有意差なし、副作用に関しても差はなし

炭酸水素ナトリウム(メイロン®)

エビデンスに乏しい 質の高い研究なし

ジフェニドール(セファドール®)

エビデンスに乏しい 質の高い研究なし

私(管理人)のプラクティス

あくまでも私(管理人)のプラクティスですが(強調します)、救急外来での急性めまい診療において私は「抗ヒスタミン薬(ジフェンヒドラミン orヒドロキシジン)+メトクロプラミド」をいきなり投与してから診療を開始することが多いです。抗ヒスタミン薬は確立しているので絶対投与します。RCTは前述の1つだけですがメトクロプラミドも抗ヒスタミン薬と同様に効果をもつので、私は投与しています。ただ、両者の併用が単独使用よりも効果があるか?に関しては前向き研究はないため有用性は不明です。

めまい診療ではとにかく患者さんはしんどく、病歴を聴取することも満足な診察をすることも難しいことがしばしばあります。なので「とにかく迅速な対症療法」でまず評価できる状態にすることを私は優先しています。確かに安静時自発眼振はすぐにわかるけれど、症状がつらいと患者さんは開眼も維持することが難しいです。

唯一のデメリットは抗ヒスタミン薬投与により前庭が抑制されて眼振が減弱する点ですが、Frenzel眼鏡を使用すれば眼振は必ず確認できるのでここはFrenzel眼鏡さえあれば懸念にそこまでならないと思います。

めまい診療で炭酸水素ナトリウム(メイロン®)を投与したことは医師人生において一度もありません。ジフェニドール(セファドール®)を処方したことも一度もありません。今後も処方することはないです。

ここで難しいのがベタヒスチン(メリスロン®)の位置づけで、急性期には不要とおもいますが、慢性期のめまい症例(特にメニエール病)において有用な例があるのかもしれないです。いかんせん副作用自体は少ないですし、病態生理的には理解できる側面も大きいです。ただここもまだ確立していないところと思います。

参考文献
“Management of peripheral vertigo with antihistamines: New options on the horizon” Br J Clin Pharmacol. 2019;85:2255–2263. めまい対症療法における抗ヒスタミン薬の包括的なreview articleでとても勉強になります