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てんかん重積の管理で”burst-suppression”を目指すべきなのか?

てんかん重積の管理でEEG surrogate(つまりEEGでの管理目標)は3択で①electrographic seizure頓挫、②burst suppression達成、③isoelectric curveです。どれを目指すべきか?結論は「現状わからない」です。以下で色々論文の紹介をしますが、どれも釈然としないところです。すっきりとした回答ができずごめんなさい。忙しい方は読まなくて大丈夫です。かなり激しいテーマなのでまだ未完ですが、今後修正・追記していきます。

<参考>ACNS2021での“burst-suppression”の定義:EEG記録全体のsuppression≧50%(suppressedの定義は振幅<10μV)
*そもそもこの定義が適切なのかどうか(つまり50%以上という閾値が適切か?)もわかっておらず、50%以上は暫定的/operationalな定義

全体を統括する”Balancing the risks and benefits of anesthetics in status epilepticus.” Epilepsy & Behavior 138 (2023) 109027を元に文献を紐解きながら解説します。

burst-suppressionを目指すべきなのか?

まだ分かっていないこと

①そもそもburst suppressionを目指すべきなのか?≒burst suppression自体がtherapeuticな意義を持つのか?

②burst suppressionの持続時間はどうすべきなのか?⇒一般的には10秒以上のintervalをもつburst-suppressionを24-48時間とされているがそれを支持する文献的根拠はない Lancet Neurol. 2011;10:922-930.

“Association Between Induced Burst Suppression and Clinical Outcomes in Patients With Refractory Status Epilepticus” Neurology® 2023;100:e1955-e1966.

3rd line therapy導入のRSE147例(単施設9年間のコホート、低酸素脳症45例を除外した102例)の後ろ向き研究
・incomplete burst suppression(suppression20-50%):14% 持続期間23時間
complete burst suppression(suppression>50%):21% 持続期間 51時間 *ACNS2021の基準を満たす


*交絡因子:年齢、Charlson comorbidity index, motor symptoms随伴, SESS, 昇圧薬必要
・結果:burst suppression達成群はてんかん重積頓挫、院内死亡、元の神経予後獲得いずれにおいても改善しない ICU滞在期間(19日 vs 8日)、入院期間(25日 vs 20日)、人工呼吸期間(13時間 vs 3時間)は有意に延長
・limitation:後ろ向き研究なので重症例やetiologyに応じてburst suppressionを目指したのかもしれない(burst-suppressionを目指した理由がわからない)、breakthrough seizureが評価されていない

(管理人の私見):そもそもburst-suppressionをACNS2021の基準で満たす例が全体の20%と少ないです。これはdiscussionでも考察されていますが、burst-suppressionを達成することがそもそも難しいことを示唆します(ここでは全例でburst-suppressionを目指していた訳ではない点に留意が必要であり、治療不十分であったかどうかを判断することはできないです)。そして後ろ向き研究ではありますが予後改善効果は示せていません。この研究結果をもってburst-suppressionを導入すべきという結論は全くもって得られません。

“A Randomized Trial for the Treatment of Refractory Status Epilepticus” Neurocrit Care (2011) 14:4–10

・RSE患者(低酸素脳症を除く)の36-48時間EEGでtitrationしながらburst-suppression(interval 5-15sec)を目指し、プロポフォールVSバルビツール酸でてんかん重積のコントールを比較検討したRCT(しかし症例数24/150が集まらずearly terminationになっている)

・そもそもearly terminationになっている訳であるが、SEコントロール、死亡、機能予後に関して有意差はない、バルビツール酸投与群で有意に人工呼吸器装着期間が長い結果

(管理人の私見)early terminationなので結果の解釈はさておき、両群ともにそもそもburst-suppressionを達成できなかった例が3例ずつ(計6例)ある点には注意が必要だと思います
⇒つまりburst-suppressionを達成する前提のRCTにも関わらずかなりの割合で達成できていない訳です。そのくらいそもそもburst-suppressionを達成することは難しいです(これは実臨床でもそのように感じます)、burst-suppressionに達するまでの全身合併症のリスクを冒してまで到達すべき目標なのか?(合併症などの労力に見合う価値があるのか?)が気になります。
・余談ですが、この領域の権威であるRossetti先生がdiscussionのところで今回recruitが集まらなかった点に関して今後前向き研究をする上でのどうすべきかを色々書かれており苦労が伝わります

“Ultra-short burst suppression as a “reset switch” for refractory status epilepticus” Seizure: European Journal of Epilepsy 64 (2019) 41–44

・超短時間のburst-suppressionを導入し管理が上手くいった症例報告(ここでは2時間 burst-suppressionをプロポフォールで持続脳波管理下で導入した例)

(管理人の私見)この症例は元々てんかんでレベチラセタム内服中の74歳女性が血糖値457mg/dLが誘因になったとされており、そもそも管理に難渋する群(いわゆる fatal etiology)ではないため、この方法が上手くいっただけの可能性がある。脳炎では絶対に無理であると思う。

早期の3rd line therapy導入は有用か?

・現行のガイドラインは1st line⇒2nd line⇒3rd lineとescalationしていく治療法が推奨されていますが、1st lineの次にいきなり3rd line therapyを導入するのはどうか?という議論が最近挙がっています。
・この点に関しては前向き研究はなく以下の文献(後ろ向きコホート研究)が最新の重要文献です。

“Safety and Efficacy of Coma Induction Following First-Line Treatment in Status Epilepticus” Neurology® 2021;97:e564-e576.

1st line therapyの次に3rd line therapyを導入することの後ろ向きコホート研究(2nd line therapyをすっとばす)

てんかん重積で1st line therapyの次(2nd or 3rd line therapy)を要した205例
①72.7%(n=149):2nd line therapyへ移行(ガイドライン通りの治療)→そのうち16.6%は2nd line therapyでは不十分であり3rd line therapyへ移行
②27.3%(n=56):3rd line therapyへ移行(2nd line therapyをすっとばす)

結果:3rd line therapy(coma induction) SE持続時間とICU/入院期間の短縮、合併症増加なし(Primary outcomeの神経学的予後元の状態に戻る、院内死亡はいずれも有意差なし)

サブグループ解析(神経予後):nonfatal etiologyではcoma inductionの方が有意に改善/fatal etiologyでは有意差なし
*また院内死亡に関しては有意差なし

*nonfatal etiologyの定義:AED withdrawal, an acute symptomatic aetiology, and such remote or progressive symptomatic conditions as previous trauma, stroke, CNS infection, dementia, multiple sclerosis, or meningioma were considered not potentially fatal.
Rossetti AO, Hurwitz S, Logroscino G, Bromfield EB. Prognosis of status epilepticus: role of aetiology, age, and consciousness impairment at presentation. J Neurol Neurosurg Psychiatry. 2006 May;77(5):611-5. doi: 10.1136/jnnp.2005.080887. PMID: 16614020; PMCID: PMC2117456.

(管理人の私見):やはりここもetiologyが重要だと思います。正直このnonfatal etiologyは「てんかん重積管理であまり困らない」ものたちです。私たちが実臨床で最もこまるのはNORSEや脳炎に合併したもの、TBIや脳血管障害によって生じる急性症候性発作の重積であり、これらのfatal etiologyに関しては両群で有意差はない訳です。つまり、実臨床で我々が重積管理に困る例に関しては3rd line therapyをすぐ導入することが有用かどうかは分かりません。管理人はあちこちでいっているのですが、結局SEの臨床試験ではetiologyをごっちゃにすると有意差はでません。SEはetiologyにより予後や経過が極めてheterogeneousな訳です。偉そうなことを言える立場ではないのですが、、、etiologyを絞るなどして、前向き研究が求められるのだと思います。

管理人の私見

・私は元々①electrographic seizureを頓挫することをEEG上の管理目標としててんかん重積の管理をしており、現在もそうです。”burst-suppressionを目指すべきなのか?”に関して、私(管理人)はこれまでexpertの先生方に何度か直接質問しているのですが、burst-suppressionは「必要ない」と答える先生が「必要」と答える先生よりも多いです。

・burst suppressionに限らずてんかん重積管理の臨床研究でスッキリしない研究ばかりなのは、繰り返しですがてんかん重積の管理はetiologyによって経過や予後が相当異なる(+αとして使用する薬剤の量や順番、ベースラインのASMなどパラメーターが多岐にわたる)のでどうしても臨床試験で単一の要素を抜き出して比較しても良く分からなくなってしまうのだと思います。例えば低酸素脳症をSEのstudyでpopulationに組み込むとそれだけど予後不良群がどーんと増えてしまうので場が乱れます。

・てんかん重積の臨床試験を色々読んでいると必ず目が疲れて頭が痛くなってくるのですが、これは結局SEの持続時間はどうしたの?どの薬使ったの?持続脳波?SEのetiologyは何?こんなに低酸素脳症いたらそりゃ無理じゃない?などツッコミ要素があまりに多く、結局limitationだらけになって判然としないからだと思います(何時間も文献と格闘して「釈然としない理由がわかっただけ」で悲しいです)。

今後の前向き研究に期待です。