注目キーワード

てんかん重積の予後

てんかん重積の予後評価に関する文献をまとめます。少し古いですがこちらの文献を中心に(”Prognostic scores in status epilepticus—a critical appraisal” Epilepsia. 2018;59(S2):170–175.)元文献を調べてまとめました。

Scoring

代表的なスコアはSTESS, EMSE, mSTESS, END-ITと思います。EMSEのみかなり煩雑なので、それ以外の点数項目と特徴に関して下図にまとめましたので参照ください。ただこれらの結果によって治療方針に影響がでる根拠がある訳ではありません。自分でまとめておいてこんなことを言うのもあれですが、本当に参考程度であり、使い道には乏しいのかもしれないです。結局はSEの原因病態 etiologyが重要です。またSEもこうして病態ごとにかなり個別化されるので、これらのScoringはあくまでも大雑把な推定が目的となり、個々の症例でそのまま当てはめて役立つ感じは乏しいかもしれません。

ポイントを簡単にまとめます

STESS:最初にロゼッティ先生がまとめたもので、計算は簡便。ただ発作の原因 etiologyについて検討していない点が問題。生命予後を評価しており、小数例ではあるがexternal validationがなされている。

mSTESS:STESSにmRSを追加した評価項目。ただこちらもSTESSと同様に発作のetiologyについて検討されていない点が問題。

EMSE:考慮しているのは4点①発作のetilology(低酸素が65と最多、中枢神経感染は33点、頭部外傷は12点など)、②併存疾患、③年齢、④脳波(最もわるい時点での)です。ただ計算が煩雑である点が何よりもネックです。あまりに項目が多いのですみませんこちらの記事にはまとめておりませんので原著を御確認お願いします。Neurocrit Care 2015; 22:273–282.

END-IT:評価項目の頭文字をとったもので、今までのものが生命予後評価であったが神経機能予後を評価している点が特徴。ただ退院後から3か月ということで、退院は純粋に医学的側面以外もからんでくるのでここが弱点。きちんと発作のetiologyも考慮している点が特徴であるが、年齢が25歳と若年が主体である点がSTESSなどと違い注意する必要あり。

STESSSmSTESSEND-IT
項目意識状態清明/混乱0意識状態清明/混乱0脳炎なし0
混迷/昏睡1混迷/昏睡1あり1
発作型焦点0発作型焦点0NCSEなし0
全般1全般1あり1
NCSE with coma2NCSE with coma2ジアゼパム抵抗性なし0
年齢<70歳0年齢<70歳0あり1
≧70歳2≧70歳2画像なし0
発作の既往あり0発作の既往あり0片側病変1
なし1なし1両側性病変、びまん性浮腫2
mRS00気管切開なし0
1-31あり1
≧42
スコア死亡率≧3点 Sn 81%, Sp 64% (Validation Sn 100%, Sp 64%)死亡率0-2点 3.6%, 3-4点 22.5%, ≧4点 58.3%機能予後不良(退院3か月後mRS≧3)≧3点 Sn 83.9%, Sp 68.6%
患者背景127例、65歳以上 30%, 急性症候性発作 61%, 過去の発作 65%, 混迷または昏睡 72%, 治療開始まで1時間以内 49%, RSE 39%, 死亡 13% Validation 34例136例、年齢62歳、mRS=1,発作型焦点 58.8%, 全般30.9%, 急性症候性発作 47.1%,3rd line therapy 30.1%132例、年齢25.5歳、急性症候性発作61.4%, 脳炎 35.6%, 血管障害 11.4%, mRS≧3点 47.0% *低酸素脳症は除外
注意点発作の原因不明 65歳以上はceiling effectになる発作の原因不明
重症例が少ない
若年、脳炎が多い、年齢が考慮されていない、発症時ではなく退院時の評価である
予後項目生命予後生命予後機能予後
External validationありなしなし
文献Neurology 2006;66:1736–1738Eur J Neurol 2016;23:1534-1540.Critical Care 2016; 20: 46.

最新のreview articleからの引用 Epilepsy & Behavior 158 (2024) 109918

下図:”Prognostic scores in status epilepticus: A systematic review and meta-analysis” Epilepsia. 2023;64:17–28.

てんかん重積の生命予後は過去と現在で改善しているのか?

結論:改善していない

■文献:1990年~2017年のてんかん重積の死亡率を調査したsystematic review/meta-analysis JAMA Neurol. 2019;76(8):897-905.

・院内死亡、30日死亡に関して61の研究を検討
・成人死亡率:15.9%、refractory SE 17.3% *年代またSEの定義ごとに変化はなし
・死亡率に変化がない原因としては、SEの原因疾患 etiology自体によるところが大きいと考察されている

■review article “Has the mortality of status epilepticus changed over the past few decades?” Epilepsy & Behavior 138 (2023) 109050

・上記のmeta-analysisを実施したのと同じグループからのreview article
・なぜてんかん重積の生命予後が改善していないのか?:実際に早期から集中的に治療介入がなされていない、高齢者のてんかん重積が増加している、etiologyによるところが大きい、重症例の報告が多くされていることのpublication bias、発作抑制に優れている薬剤がでている訳ではない(2nd line therapy のRCTであるESETTでもレベチラセタム、フェニトイン、バルプロ酸は差がない結果、また半数以上のケースで2nd line therapyで発作は頓挫していない) などが要因として挙げられる
・現時点での問題点:生命予後に関してはデータがいろいろあるが、神経学的機能予後に関するデータが乏しいためこれらを分析する必要がある

余談(管理人のひとこと)

ありがたいことに管理人は現在急性期病院でICUが非常にしっかりしており持続脳波モニタリングも可能な施設で勤務しているので、色々なてんかん重積症例を診療します。

その経験から最近私が強く思っているのはてんかん重積それ自体はもちろん重要なのだけれど、その原因etiologyが結局全てではないか?という点です。原因によって管理も違うし、予後も違う。RSEで3rd line therapy導入をした後のweaningの仕方もストラテジーが違う(てんかん患者の非誘発性発作であれば一晩鎮静して翌朝weaningしてだいたいうまくいくけれど、例えば皮質下出血の血腫除去術が適応にならない例での急性症候性発作としてのてんかん重積は結局原因が除去されていないので数日はweaningが難しい場合があるのでてんかん重積管理の肌感覚が違う)。

なので「てんかん重積」と一括りにするとどうしても極めてheterogeneousになってしまうのではないか?と思います(臨床試験上も)。前述の通りてんかん重積がてんかん患者における非誘発性発作として生じる場合と、脳炎や脳血管障害などの急性症候性発作により生じるものとではあまりにも管理、治療方針、予後が異なりますし、結局後者は背景の脳炎や脳血管障害の重症度により生命予後と神経学的機能予後が相当規定されてしまいます。つまりてんかん重積は病態としては本体ではなく、あくまで+αに過ぎないという訳です。

この意味で色々なものをごっちゃにしてひとくくりには議論しづらい点がてんかん重積のデータを集める上で難しいところなのかもしれません。本当はetiologyごとにデータを出していくのが良いかもしれないですね(つまり脳炎におけるてんかん重積など)