救急病院で勤務していると「高齢者の突然発症のfocal neurological signととれるか微妙でTIAなのか?」という例は多々あります。病歴を徹底的に詰めても、どうしても何とも言えないというケースは多々あります。そこでの実臨床に沿った概念として”non-consensus TIA”というものがあり、論文を紹介します。
文献:”Diagnosis of non-consensus transient ischaemic attacks with focal, negative, and non-progressive symptoms: population-based validation by investigation and prognosis” Lancet 2021; 397: 902–12
定義
classic TIA:麻痺(顔面、上肢、手、下肢の1つ以上)、嚥下障害、感覚鈍麻(顔面、上肢、手、下肢のうち2つ以上)、視野欠損(同名半盲または四分盲)、一過性黒内障、めまい or 複視 or 構音障害 or 失調+その他の神経症状
non-consensus TIA:めまい(vertigo)のみ、失調のみ(その他の原因がない)、複視のみ(両眼性)、構音障害のみ、両側性視覚障害のみ、感覚鈍麻が1つの領域のみ *突然発症・単一・非進行性・陰性・神経症状
*上記いずれも「突然発症」であることが条件
臨床試験
2878例の軽症脳卒中(NIHSS<5) n=1287, classic TIA n=1021, non-consensus TIA n=570を前向きに検討(前向きコホート研究)
*non-consensus TIAの内訳:めまいのみ or 失調のみ n=210、感覚鈍麻1つの領域のみ n=157, 両側視覚障害 n=99, 構音障害のみ n=57, 複視のみ n=47
発症7日の脳卒中発症リスク:non-consensus TIA 6.7% vs classic TIA 8.8% p=0.12
発症90日の脳卒中発症リスク:non-consensus TIA 10.6% vs classic TIA 11.6% p=0.43(下図)
10年間の大血管合併症発症リスク:non-consensus TIA 27.1% vs classic TIA 30.9% p=0.12
TIA症状発症日の医療機関受診:non-consensus TIA 59% < TIA 75% OR 0.47 p<0.0001
背景因子:心房細動、PFO、頭蓋内・外動脈狭窄(≧50%)は両群間で有意差なし・後方循環狭窄はnon-consensus TIAで有意に多い OR 2.21 p<0.0001
まとめ:non-consensus TIAはTIAと同様に短期、長期の脳卒中や心血管イベント発症率が高い
non-consensus TIAの症状別の脳卒中発症リスク(発症日からの換算)
管理人の考え
・この論文は実臨床において極めて重要な意味を持つと思います。
・実臨床ではこうしたclassic TIAとは言えないが、「突然発症の神経症状」はよく遭遇します。私の臨床上の経験としては「TIAとしても典型的ではないけれど、突然発症でありその他の対立鑑別に乏しい」例が該当するかと思います。
・non-consensus TIAの定義のうち実臨床で特によく遭遇するのは「めまいのみ」、「構音障害のみ」などです。個人的な意見としては突然発症の両眼性複視はほぼ確実に血管障害なので(MLF症候群など)、ここをnon-consensus TIAにいれることはやや懐疑的です。
・さてこうした例を「とりあえずclassic TIAと同列に扱うべきか?(=抗血栓薬を導入すべきか?)」というテーマがあり、そのclinical questionに対して重要な情報を提供してくれる論文です。
・結論は「non-consensus TIAもclassic TIAと同様に脳卒中再発リスクが高く、classic TIAと同様に扱うべき」になるかと思います。リスクから逆算してマネージメントを決めている訳ですね。
・ここで生じる問題点は「non-consensus TIAもclassic TIAと同様に”生涯”抗血小板薬の内服が必要か?」という点です。ここに対する回答は現時点ではないかと思います。
・またなんでもかんでもnon-consensus TIAとゴミ箱診断してしまうリスクもはらんでおり、やはりここで重要なのは血管障害らしさを示唆する「突然発症」だと思います。突然発症ではないものを全て詰め込みだすと訳がわからなくなるので注意したいです。