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造影剤CT検査あれこれ 事前の欠食は必要? メトホルミン休薬は必要?

造影CT検査前の欠食に関して

・もちろん胆嚢評価や消化管評価など、純粋に画像評価上事前の欠食が必要な場合はそうします。ただ問題なのは、造影CT前にルーチンでの欠食は必要なのか?というClinical Questionです。
・慣習的に欠食としている施設が多いと思いますが、実際のところ意味があるのか?を調べました。
・以下にガイドライン、代表的なRCTを載せています。
・結論は造影CT検査前に欠食にすることで、誤嚥性肺炎また嘔気嘔吐のリスクは減少しないです。ESURのガイドラインでは造影CT検査前の欠食を推奨しない(not recommended)と明確に記載されています。

ガイドライン

ESUR guidelines on contrast agents (10th version) 2018

“Fasting before intravenous administration of contrast agents dates from the time when high-osmolar iodine-based contrast media were used and many patients vomited. Fasting is not recommended before administration of low- or iso-osmolar non-ionic iodine-based contrast media or of gadolinium-based agents.” *太字は管理人

ACR manual on contrast media(version 2023)

“Current data suggests fasting does not reduce nausea, vomiting, or aspiration risks for modern contrast media.”

臨床研究

RCT European Radiology (2021) 31:1451–1459

・患者背景:入院中の予定での(緊急ではない)造影CT検査(2091例)
・介入:造影CTの最低4時間前からの絶飲食 VS 制限なし
・結果:誤嚥性肺炎 全体を通じて0例、嘔吐2.6% vs 3.0%、嘔気 6.6% vs 7.6% *いずれも有意差なし
・まとめ:造影CT検査前の絶飲食は誤嚥性肺炎や嘔気嘔吐のリスク上昇と関係なし

Systematic review Korean J Radiol 2023;24(10):996-1005

・10の臨床試験、計308013例のmeta-analysis
誤嚥性肺炎 0例(全体を通じて)
・絶食 VS 非-絶食:嘔気 4.6% vs 4.6%, 嘔吐 2.1% vs 2.5% いずれも有意差なし
・まとめ:造影CT前に絶食をすることで嘔気、嘔吐のリスクが低下することはない

メトホルミンの休薬に関して

・前提知識としてメトホルミンは腎機能障害があると乳酸アシドーシス(MALA)のリスクが上昇します。造影剤とメトホルミンの直接的な影響ではなく、造影剤腎症によりメトホルミンでの乳酸アシドーシスリスクが上昇するか?というテーマです。
・結論としては添付文章上は一律造影剤投与後48時間はメトホルミンを再開しないとしていますが、文献上はベースの腎機能正常例でメトホルミン投与により乳酸アシドーシスを呈することは極めて稀おり、eGFR>30の場合は再開しても良いとされています。

添付文章上の記載

・以下にメトホルミンとイオパミロンの添付文章から転記します。いずれも禁忌項目には該当しておらず、基本的注意や併用注意のところにこの点に関して記載があります。
・メトホルミンの添付文章上はベースラインの腎機能などによらず一律ヨード造影剤投与後48時間は投与を再開しないことと記載されており、後述する海外のガイドラインとは乖離があります。

メトホルミン添付文章(こちら

8.重要な基本的注意 効能共通
8.1 (4)
ヨード造影剤を用いて検査を行う患者においては、本剤の併用により乳酸アシドーシスを起こすことがあるので、検査前は本剤の投与を一時的に中止すること(ただし、緊急に検査を行う必要がある場合を除く)。ヨード造影剤投与後48時間は本剤の投与を再開しないこと。なお、投与再開時には、患者の状態に注意すること。

イオパミロン添付文章(こちら

10. 相互作用 10.2併用注意(併用に注意すること)

薬剤名等:ビグアナイド系糖尿病用剤メトホルミン塩酸塩、ブホルミン塩酸塩等
臨床症状・措置方法:乳酸アシドーシスがあらわれるおそれがあるので、本剤を使用する場合は、ビグアナイド系糖尿病用剤の投与を一時的に中止するなど適切な処置を行うこと。
機序・危険因子:ビグアナイド系糖尿病用剤の腎排泄が減少し、血中濃度が上昇すると考えられている。

文献

“Post-contrast acute kidney injury. Part 2: risk stratification, role of hydration and other prophylactic measures, patients taking metformin and chronic dialysis patients” Recommendations for updated ESUR Contrast Medium Safety Committee guidelines Eur Radiol (2018) 28:2856–2869

Question 9: Should administration of metformin be adapted to reduce the risk of metformin-associated lactic acidosis in patients with type 2 diabetes mellitus scheduled to receive intravascular contrast media?

Metformin administration in patients at risk of PC-AKI

Patients with eGFR > 30 ml/min/1.73 m2 and no evidence of AKI receiving either intravenous CM or intra-arterial CM with second pass renal exposure: continue taking metformin normally.

Patients (a) with eGFR < 30 ml/min/1.73 m2 receiving either intravenous CM or intra-arterial CM with second pass renal exposure
or (b) receiving intra-arterial CM with first pass renal exposure
or (c) with AKI
: stop taking metformin from the time of CM administration: measure eGFR within 48 hours and restart metformin if renal function has not changed significantly.

Level of evidence D *太字は管理人記載

多くの臨床試験やmeta-analysisでは乳酸アシドーシスのリスクはとても低く(very low)、メトホルミンの使用自体よりも、背景の病態や併存疾患と関係している。