言葉の確認
・血便:便に血液が混じった状態 ≠下部消化管出血
・下部消化管出血:Treitz靭帯より肛門側の消化管からの出血(古典的には)
原因
“DRAIN”(覚え方)
D:diverticular hemorrhage 憩室出血(原因最多)
R:rectal ulcer/radiation enteritis 直腸潰瘍・放射線腸炎
A:angiodysplasia/aortoenteric fistula 血管異形成・大動脈腸管瘻
I:ischemia/inflammation/infection 虚血・炎症・感染
N:neoplasma 腫瘍
*このうち腹痛を伴うのはI(虚血・炎症・感染)のみ(それ以外は腹痛なし)
・便の性状に影響を与える要素は出血部位・出血量・消化管通過時間の3点。
・上部消化管出血でも出血量が多いと消化管通過速度が速く、下血を呈する場合があるため注意。「下血、血便」≠「下部消化管出血」である。
・直腸診と肛門鏡で痔核は診断可能。
対応
・ABC確認、モニター装着
・身体所見:直腸診+肛門鏡
・採血(血算・生化学・凝固PT/APTT/Fib・血液型・クロスマッチ用)+末梢静脈ライン確保(細胞外液点滴)
・細胞外液点滴±輸血準備
・上部消化管出血が否定出来ない場合→PPI静注投与
(処方例:オメプラゾール20mg +生理食塩水20ml 静注、前後で生理食塩水フラッシュ)
・抗血栓薬確認:リバースが必要かどうか?
・造影CT検査 or 上部/下部消化管内視鏡検査:消化器内科と相談
便潜血検査
・便潜血検査はあくまで大腸がんのスクリーニング目的の検査であり、入院患者の新規貧血の精査や急性の貧血精査で行う検査ではない(消化管出血が否定出来ないのであれば便潜血検査ではなく消化管内視鏡検査を実施するべき)。
1:免疫法(一般的に便潜血検査というと「免疫法」を意味する)
・血液に含まれるグロブリンに対する免疫反応で便に血液が含まれているかどうかを判定する。人のグロブリンのみに対応するため食べ物で偽陽性とならない。
・上部消化管出血由来のグロブリンは消化液で変性してしまい陰性となるため、上部消化管出血の判断は出来ない。
2:化学法
・赤血球のヘムが持つペルオキシダーゼ作用を検出(試験紙を用いて判定)
・オルトトリジン法:肉、魚、野菜、ミオグロビンで偽陽性 感度高い
・グイヤック法:微量の血液は検出できない 特異度高い
代表的な疾患
憩室出血
・下部消化管出血の原因として最多。自然止血することも多いが、出血により循環血漿量減少性ショックに至る場合もあるため、注意が必要。
・憩室が形成する過程で血管が引き伸ばされることで破綻しやすいことが病態。
・臨床像:腹痛がなく血便きたすことが特徴。
・治療:止血困難な場合はIVRによる介入が必要となる場合もある。
大動脈腸管瘻(aortoenteric fistula)
・大動脈瘤から腸管へ瘻孔を形成して、消化管出血を来し致死的になりうる疾患。大動脈瘤術後の血管グラフトが腸管へ浸潤し瘻孔を形成する場合が多い。
・大動脈瘤(特に術後)を有する患者の消化管出血では必ず同疾患を考慮する必要があり(想起出来なければ診断できない)、上部消化管内視鏡検査ではなく造影CT検査で診断が可能となる。
直腸潰瘍
・長期臥床高齢者の便秘で直腸粘膜損傷により起こる。一度直腸潰瘍になるとその後も繰り返し管理に難渋する場合があるため、入院中の排便コントロールは重要。
・臨床的には疼痛を呈さないことが多い。
参考文献
・N Engl J Med 2017;376:1054-63.