胆道感染症のうち胆嚢炎に関してはこちらを参照ください。
臨床像
・胆嚢炎と胆管炎は臨床像が異なる。胆嚢炎(こちら)は急性腹症を呈することが多いが、胆管炎は腹痛が目立たず敗血症が主体となる場合がしばしばある。その他嘔気・嘔吐(嘔吐まで至る場合が多い)、背部痛、悪寒戦慄を伴う菌血症症状が主症状となる場合など胆嚢炎と比べて臨床像の幅が広い。特に高齢者の場合は臨床像がかなり非典型的なことが多い。
*管理人は「高齢者の嘔気+背部痛」で受診し、圧迫骨折も新旧不明ですがレントゲンで認めて「うーん圧迫骨折かなー」と念のため採血をしたら肝胆道系酵素が3桁まで上昇しており、造影CT検査で総胆管結石による胆管炎という経験があり、胆管炎の臨床像は難しいなーと思った経験があります(情けない・・・)。
・総胆管結石による胆管炎は閉塞起点がある感染症であり、前日まで元気であった人が1日でショックになりうる内科疾患のなかでも緊急性の高い疾患(細菌性髄膜炎、結石性腎盂腎炎、感染性心内膜炎、壊死性筋膜炎)。
・有名なCharcotの3徴(発熱・季肋部痛・黄疸)は特異度は高いが、感度は低い。これら全てが揃わなくても胆管炎は否定されない。
*特殊な状況の胆管炎:PD(膵頭十二指腸切除術)術後
・胆管と小腸が吻合している状態で、入口部に狭窄(良性または悪性腫瘍浸潤)があると区域性胆管炎を呈することがある。
・しかし胆管拡張がないからといって胆管炎とはいえず、肝内胆管へ腸内細菌が逆流して感染を呈している可能性がある。
・採血上肝胆道系酵素の上昇を認めない場合もあり注意が必要。
検査
血液検査
・胆嚢炎と異なり、肝胆道系酵素が上昇する(膵頭十二指腸切除術後の胆管炎など「胆道内圧が上昇しない病態」では肝胆道系酵素は上昇しない点に注意)。
・細菌感染症の熱源同定に採血検査が有用なほぼ唯一の疾患(通常採血検査では熱源の同定は困難)。
画像検査
・腹部エコー検査→単純+造影CT検査も行う(造影だと結石周囲の造影効果により石との画像コントラストがわからなくなる場合があるため単純も評価する)。
・肝内胆管:通常は描出されない 2mm以上になると拡張を示唆し、CTで描出される
・総胆管:7mm以下正常、11mm以上を拡張*セブンイレブンと覚える(消化器内科Y先生の教え)(高齢者では拡張する傾向にある)
→結石がわからない場合(CTでコレステロール結石は描出されない)はMRCPを実施する
*MCRP(磁気共鳴胆道膵管撮影):絶食で陰性造影剤(ボースデル®)を内服して消化管の信号をキャンセルして実施する(絶食でないと消化液の影響で画像が評価できない)
*腹部エコー検査は胆嚢炎では感度が極めて高いが胆管炎では感度高くない点に注意。胆管炎に関してはMRCPが最も感度が高い。
治療:胆管ドレナージ+抗菌薬
・敗血症性ショックを呈することもあるため全身管理重要
・閉塞起点がある場合は緊急でドレナージ術(総胆管結石に対するERCP)が必要であるため、消化器内科にコンサルテーションします。ERCPになる可能性あるため、絶食管理。
・抗菌薬:起炎菌は基本的に腸内細菌 ABPC/SBT or CMZが第1選択となることが多い *胆汁培養結果を待ってから投与するのでは遅いのでempiric投与になる
血液培養 | 胆汁培養 | 抗菌薬 | |
頻度高い | E.coli 37-40% K.pneumoniae 19-20% K.oxytoca 4-5% | E.coli 18-21% K.pneumoniae 13% K.Oxytoca 4-5% | CMZ ABPC/SBT |
頻度低い | Enterococcus 3.7-4.9% E.faecalis 2.9-3.7% Enterobacter cloacae 2.4-3.6% P.aeruginosa 1.1-3.1% Other<3% | Enterococcus 8% E.faecalis 8-10% Enterobacter cloacae 3.4-4.2% P.aeruginosa 2.5-3.5% Clostridium perfringens 4.3-4.9% | PIPC/TAZ MEPM |
急性胆管炎バンドル
・診断
・画像評価
・重症度評価 診断から24時間以内+24-48時間
・初期治療:絶食で充分量の輸液、電解質補正、鎮痛薬投与(麻酔薬はOddi括約筋収縮作用あるため注意)、抗菌薬治療
・重症度に応じた治療
GradeⅠ 初期治療に24時間以内に反応しない場合は速やかな胆管ドレナージ
GradeⅡ 初期治療+早期胆管ドレナージ術
GradeⅢ全身管理と緊急ドレナージ術
・胆管炎落ち着いた後の胆嚢結石は胆嚢摘出術実施する
参考:重症度分類に関して Tokyo guideline 2018
GradeⅡ(中等症)
初診時に,以下の5 項目のうち2 つ該当するものがある場合には「中等症」とする。
・WBC>12,000,or<4,000/mm3
・発熱(体温≧39°C)・年齢(75 歳以上)
・黄疸(総ビリルビン≧5 mg/dL)
・アルブミン(<健常値下限×0.73 g/dL)
上記の項目に該当しないが、初期治療に反応しない急性胆管炎も「中等症」とする。
GradeⅢ(重症)
急性胆管炎のうち,以下のいずれかを伴う場合「重症」である。
・循環障害(ドーパミン≧5 μg/kg/min,orノルアドレナリンの使用)
・中枢神経障害(意識障害)
・呼吸機能障害(PaO2/FiO2比<300)
・腎機能障害(乏尿,もしくはCr>2.0 mg/dL)
・肝機能障害(PT─INR>1.5)
・血液凝固異常(血小板<10 万/mm3)
上記中等症や重症に該当しないものを「軽症」とする