急性膵炎
原因
①胆石:40%(原因最多)
②アルコール:30% *安易にアルコール性としない
*2大原因は胆石、アルコール *胆石とアルコール性が原因の大半を占める
要注意:膵臓癌、解剖学的異常(膵胆管合流異常)
・高トリグリセリド血症:2-5%(特にTG≧1000mg/dLがリスク)*高トリグリセリド血症に関してはこちらを参考下さい
・薬剤性:<5%100種類以上あり(例:アザチオプリン、6-MP、バルプロ酸、ACE阻害薬、メサラジン、HAART、DPP4阻害薬)
・ERCP後:ERCP後約5-10%に発症する(NSAIDs予防効果)
・自免疫性:IgG4関連疾患、SLE、Sjogren症候群など
・特発性:年齢が上昇するにつれて原因分からない場合多い
*膵癌
・膵癌初期の可能性を考慮して絶対に見逃さない(最悪のパターンは軽症膵炎として帰宅フォローなしになること)
・リスク因子:家族歴、喫煙、飲酒、糖尿病、肥満、慢性膵炎、IPMN、塩素化炭化水素(クロロカーボン 殺虫剤など)暴露など
・画像所見:部分的な膵臓の萎縮、膵尾部の膵管拡張→膵管拡張の所見を適当に流さない 早期膵癌を見つけるための重要な所見である
・診断:①連続膵液細胞診(SPACE),②EUSーFNA
・治療:化学療法を先行する
*IPMN(膵管内乳頭粘液性腫瘍)
・膵管上皮細胞の嚢胞性腫瘍
・分岐型:膵癌リスク高くないが悪性化を疑う所見に注意
→high risk stigmata: 閉塞性黄疸、10mm以上の膵管拡張、造影される5mm以上の壁在結節
・主膵管型:10mmを超えると60%膵癌合併
*膵胆管合流異常症
・膵管と胆管の共通幹は本来Oddi括約筋の中にあるため逆流が生じない→膵胆管合流異常症では胆管へ膵液が逆流することで炎症が生じる→胆道癌のリスク
・胆汁と膵液の混和による蛋白栓の形成→共通管の閉塞 慢性膵炎リスク
*自己免疫性膵炎(AIP)
・IgG4関連疾患の膵病変 中高年男性に多い 閉塞性黄疸を伴うと膵癌、胆管癌との鑑別
・画像:びまん性腫大 元々膵臓が萎縮していると腫大が明確ではない場合がある
・診断:EUS-FNA
・治療:ステロイド
*【診断基準】 自己免疫性膵炎診療ガイドライン 2020
A.診断項目
I.膵腫大:a.びまん性腫大(diffuse)b.限局性腫大(segmental/focal)
II.主膵管の不整狭細像:a.ERP b.MRCP
III.血清学的所見高 IgG4 血症(≧135 mg/dl)
IV.病理所見
a.以下の①~④の所見のうち,3 つ以上を認める.
b.以下の①~④の所見のうち,2 つを認める.
c.⑤を認める.
①高度のリンパ球,形質細胞の浸潤と,線維化
②強拡 1 視野当たり 10 個を超える IgG4 陽性形質細胞浸潤
③花筵状線維化(storiform fibrosis)
④閉塞性静脈炎(obliterative phlebitis)
⑤ EUS―FNA で腫瘍細胞を認めない.
V.膵外病変: 硬化性胆管炎,硬化性涙腺炎・唾液腺炎,後腹膜線維症,腎病変
a.臨床的病変:臨床所見および画像所見において,膵外胆管の硬化性胆管炎,硬化性涙腺炎・唾液腺炎(Mikulicz病),後腹膜線維症あるいは腎病変と診断できる.
b.病理学的病変:硬化性胆管炎,硬化性涙腺炎・唾液腺炎,後腹膜線維症,腎病変の特徴的な病理所見を認める.
VI.ステロイド治療の効果
専門施設においては,膵癌や胆管癌を除外後に,ステロイドによる治療効果を診断項目に含むこともできる.悪性疾患の鑑別が難しい場合は超音波内視鏡下穿刺吸引(EUS―FNA)細胞診は必須で(上記 IVc),病理学的な悪性腫瘍の除外診断なく,ステロイド投与による安易な治療的診断は避けるべきである.したがって VI は IVc を包括している.
B.診 断
I.確診
①びまん型 Ia+<III/IVb/V(a/b)>
②限局型 Ib+IIa+<III/IVb/V(a/b)>の 2 つ以上または Ib+IIa+<III/IVb/V(a/b)>+VI
または Ib+IIb+<III/V(a/b)>+IVb+VI
③病理組織学的確診 Iva
II.準確診
限局型:Ib+IIa+<III/IVb/V(a/b)>または Ib+IIb+<III/V(a/b)>+IVc または Ib+<III/IVb/V(a/b)>+VI
III.疑診
びまん型:Ia+II(a/b)+VI
限局型:Ib+II(a/b)+VI
臨床像
・急性発症の心窩部(正中~左側の背部に放散する場合もある)を中心とした腹痛を認め、疼痛は持続性で改善することがない。後腹膜を経由して炎症が波及すると様々な部位で圧痛を認める場合がある(側腹部など)。前屈で疼痛が改善する(後屈で増悪)場合がある。身体所見では疼痛に比して腹部全体は柔らかい場合が多い。
・嘔吐は認めるが病像の主体になることは少なく、吐きたくても吐ききれない臨床像を呈する。炎症波及に伴い麻痺性イレウスを合併する場合もある。
検査
・膵臓酵素
・リパーゼ:発症後3-6時間以内に上昇し24時間でピークに達する、アミラーゼよりも診断に有用(特に上限値5倍以上でより特異的)。
・アミラーゼ:膵臓だけでなく唾液腺やその他の臓器(小腸粘膜、卵巣、胎盤、卵管、肝臓など)でも産生されており、またマクロアミラーゼ血症でも上昇してしまうため膵炎診断の特異性に乏しい。またアミラーゼ値の変化は膵炎の重症度や病勢を反映しない。
*参考:アミラーゼ上昇の鑑別 ALCR(amylase/creatinine clearance ratio)
・計算式:(尿AMY/血清Cre)x(血清AMY/尿Cre)x100
・判定 正常:1-4% 上昇:膵炎、腎機能障害など 低下:マクロアミラーゼ血症
・Ca、中性脂肪
・血液ガス検査
・画像検査:造影CT検査(画像での重症度評価と合併症評価に必要)
重症度分類
・重症:予後因子3点以上もしくは造影CT grade2以上
*重症度評価を48時間以内に繰り返すことが重要(どの医療機関で診療すべきか?)
急性膵炎の重症度判定基準(厚労省難治性膵疾患に関する調査研究班 2008 年より引用)
予後因子
・循環:ショック(収縮期血圧≦80mmHg)またはBE(Base Excess)≦-3mEq/L
・呼吸:PaO2<60mmHg(room air)または呼吸不全 ・腎:BUN≧40mg/dL (or Cre>2mg/dL)または乏尿(輸液後も1日尿量が400mL以下)
・組織侵襲度:LDH≧基準上限の2倍以上
・血液凝固:血小板数≦10万/μL
・電解質:総Ca≦7.5mg/dL
・炎症:CRP≧15mg/dL
・SIRS診断基準のうち3項目以上該当
*SIRS診断基準:(1)体温>38℃または<36℃、(2)脈拍>90回/分、(3)呼吸回数>20回/分またはPaCO2<32mmHg、(4)白血球数>12,000/μLまたは<4,000/μLまたは10%幼若球出現
・年齢≧70才
造影CT Grade
1:炎症の膵外進展度
前腎傍腔:0点、結腸間膜根部:1点、腎下極以遠:2点
2:膵の造影不領域 膵を便宜的に3つの区域(膵頭部、膵体部、膵尾部)に分け判定する。
各区域に限局している場合、または膵の周辺のみの場合:0点、
2 つの区域にかかる場合:1点
2つの区域全体を占める、またはそれ以上の場合:2点
→1+2:合計スコア
1点以下:Grade 1
2点:Grade 2
3点以上:Grade 3
治療
・細胞外液補液:特に発症後24時間以内の細胞外液輸液が重要 平均血圧65mmHg以上、尿量0.5mL/kg/hr以上を維持する
・鎮痛(モルヒネ単独はOddi括約筋収縮作用あり避ける)
・原因が胆石性膵炎の場合:ERCPの施行を検討(消化器内科と相談)
・重症度の評価
・経腸栄養:48時間以内に経腸栄養(経空腸が望ましい)を少量から開始する
*抗菌薬のルーチン予防投与は推奨されていない
急性期後の管理
・慢性膵炎への移行5-15% リスク因子:男性、飲酒、喫煙
・感染性膵壊死の治療:抗菌薬での保存治療が第1選択
→被包化されていない段階での開腹ドレナージは死亡率上昇あり
→抗菌薬でコントロール不良の場合に内視鏡またはCTガイド下のドレナージ術を考慮する
部類 | 発症~4週 被包化なし | 発症4週~ 被包化あり |
壊死なし | 急性膵周囲液体貯留 | 膵仮性嚢胞 |
壊死あり | 急性壊死性貯留 ANC(Acute necrotic collection) | 被包化壊死 WON(Walled off necrosis) |
*「急性膵炎診療ガイドライン2021」においては,軽症の急性胆石性膵炎に対して早期に胆囊摘出術を行うことが推奨されている(強い推奨,エビデンスの確実性「中」) Br J Surg 106:1442 – 1451, 2019.
文献:NEJM 2016;375:1972
慢性膵炎
リスク因子
・リスク因子:飲酒、喫煙、遺伝的素因、解剖学的素因(divisum: 膵管癒合不全 下図、膵胆管合流異常など)、自己免疫性膵炎
・膵臓がんのリスク(8倍)になる
診断項目
①特徴的な画像所見
②特徴的な組織所見
③反復する上腹部痛または背部痛
④血中または尿中膵酵素値の異常
⑤膵外分泌障害
⑥1 日 60g 以上(純エタノール換算)の持続する飲酒歴または膵炎関連遺伝子異常
⑦急性膵炎の既往
慢性膵炎確診:a,b のいずれかが認められる.
a.①または②の確診所見
b.①または②の準確診所見と,③④⑤のうち 2 項目以上
慢性膵炎準確診:①または②の準確診所見が認められる.
早期慢性膵炎:③~⑦のいずれか 3 項目以上と早期慢性膵炎の画像所見が認められる.
①特徴的な画像所見
確診所見:以下のいずれかが認められる.
a.膵管内の結石
b.膵全体に分布する複数ないしびまん性の石灰化
c.MRCP または ERCP 像において,主膵管の不規則な拡張と共に膵全体に不均等に分布する
分枝膵管の不規則な拡張
d.ERCP 像において,主膵管が膵石や蛋白栓などで閉塞または狭窄している場合,乳頭側の主膵
管と分枝膵管の不規則な拡張
準確診所見:以下のいずれかが認められる.
a.MRCP または ERCP 像において,膵全体に不均等に分布する分枝膵管の不規則な拡張,主膵
管のみの不規則な拡張,蛋白栓のいずれか
b.CT において,主膵管の不規則なびまん性の拡張と共に膵の変形や萎縮
c.US(EUS)において,膵内の結石または蛋白栓と思われる高エコー,または主膵管の不規則
な拡張を伴う膵の変形や萎縮
②特徴的な組織所見
確診所見:膵実質の脱落と線維化が観察される.膵線維化は主に小葉間に観察され,小葉が結節
状,いわゆる硬変様をなす.
準確診所見:膵実質が脱落し,線維化が小葉間または小葉間・小葉内に観察される.
④血中または尿中膵酵素値の異常
以下のいずれかが認められる.
a.血中膵酵素 *2 が連続して複数回にわたり正常範囲を超えて上昇あるいは低下
b.尿中膵酵素が連続して複数回にわたり正常範囲を超えて上昇
⑤膵外分泌障害
BT―PABA 試験(PFD 試験)で尿中 PABA 排泄率の明らかな低下を認める
*PFD試験、BT-PABA試験(経口投与):膵臓の膵外分解酵素(αキモトリプシン)によりBT-PABAが分解、分解産物の尿中排泄を確認=膵外分泌機能を調べる検査
⑥1 日 60g 以上(純エタノール換算)の持続する飲酒歴または膵炎関連遺伝子異常
引用元:慢性膵炎臨床診断基準 2019 日本膵臓学会
*膵石形成メカニズム
① アルコールや喫煙など炎症の要因→膵液中への蛋白過剰分泌
② 膵液の粘稠度の上昇
③ 蛋白成分の析出 蛋白栓(protein plug)の形成
④ 蛋白栓により微細膵管の閉塞
⑤ 蛋白栓へのカルシウムの沈着→膵石形成
合併症・治療
・膵内分泌不全:膵性糖尿病 低血糖になりやすい
・膵外分泌不全:脂肪便 膵消化酵素補充(リパクレオン)
・膵臓癌:リスクになるが明確なサーベイランス基準はない
・生活指導:禁酒禁煙
・内視鏡治療:膵管ステント留置(3か月おきの交換必要)
・EUS下膵管ドレナージ術
・外科手術:Freyの手術
参考文献:私の尊敬する東京ベイ・浦安市川医療センター消化器内科Y先生のレクチャー資料・イラストはここから全て許可を頂き拝借させていただいております(大変ありがとうございます!)