今回の論文:Clin Infect Dis. 2024 Aug 3:ciae391.
目的:597例の脳炎(自己免疫、感染性いずれも含む)を後ろ向きに検討し、初回髄液検査で細胞数正常例と細胞数増多例(cutt off: 5/μLに設定)の比較検討
結論:思った以上に脳炎で初回LP細胞数正常が多い
1:脳炎全体のうち約1/4は細胞数正常
2:HSV-1脳炎のうち約1/4は細胞数正常
3:細胞数正常例の内訳で自己免疫性と感染性は同程度
4:細胞数正常例はよりempiricなアシクロビル投与をされていない
5:細胞数増多は初診時の神経学的重症度と相関するが、予後とは相関しない
脳炎全体
脳炎 | 脳炎全体 N=597 | 細胞数正常 25.3% | 細胞数増多 74.7% | P-Value *有意差 | |
年齢(平均) | 49.25歳 | 51.4歳 | 48.5歳 | 0.08 | |
免疫抑制 | 22.9% | 19.2% | 24.2% | 0.21 | |
発熱 | 52.8% | 35.8% | 58.5% | <0.001* | |
神経巣症状 | 38.2% | 40.4% | 37.4% | 0.52 | |
頭痛 | 46.1% | 29.8% | 51.6% | <0.001* | |
記憶障害 | 30% | 45.7% | 24.7% | <0.001* | |
細胞数(/μL) | 29 | 2 | 62 | <0.001* | |
アシクロビル投与 | 65.2% | 47.7% | 71.1% | <0.001* | |
原因 内訳 | 感染性 | 41.1% | 31.1% | 44.8% | 0.003* |
自己免疫性 | 16.2% | 25.2% | 13.2% | <0.001* | |
原因不明 | 42.4% | 43.7% | 41.9% | 0.07 | |
MRI異常所見 | 59.3% | 57% | 60.2% | 0.52 | |
GCS≦8 | 12.4% | 9.3% | 13.3% | 0.23 | |
ICU管理 | 40.8% | 34.2% | 43% | 0.06 | |
死亡 | 9.4% | 10.6% | 9.0% | 0.36 |
HSV-1脳炎
HSV1 n=76例 | 細胞数正常 23.7% | 細胞数増多 76.3% | P-Value *有意差 |
細胞数(/μL) | 1 | 166 | P<0.001* |
年齢(平均) | 60.7歳 | 54.7歳 | P=0.08 |
免疫抑制 | 27.8% | 20.7% | P=0.53 |
発熱 | 44.4% | 79.3% | P=0.004* |
頭痛 | 33.3% | 65.5% | P=0.02* |
神経巣症状 | 44.4% | 43.1% | P=0.92 |
GCS≦8 | 29.4% | 7.1% | P=0.01* |
MRI異常 | 60% | 87% | P=0.02* |
死亡 | 5.6% | 5.2% | P=0.91 |
自己免疫性脳炎
n=97 細胞数正常 39.2%, 細胞数増多 60.8%
NMDAR脳炎は細胞数増多多く、LGI1は細胞数正常が多い
管理人の一言
衝撃的な結果でした。自験例の単純ヘルペス脳炎で初回LP細胞数正常例は今まで1例のみ経験があり(こちらの文献まとめ)、約1/4で正常なのは自験例と照らし合わせるとにわかに信じたいところもあります・・・。
また免疫抑制者が細胞数正常例では多いとずっと思っていましたが、それもこの結果では違いました。
自己免疫性脳炎は脳炎の種類により相当ことなり、LGI1脳炎は細胞数正常がむしろ特徴ですし、NMDARは上昇しやすいので全て合わせるとこのような結果になるのかとも思います。
では「初回髄液で細胞数増多が無い場合、どういう場合は脳炎を考慮しなくても良いか?」(つまりアシクロビル投与をしなくてよいか、または自己免疫性脳炎を考慮してステロイド投与をしなくてよいか)というClinical Questionがあがります。ここはまだ結論がないところと思いますが、気になります・・・。単純ヘルペス脳炎の場合はMRIとのかけ合わせや発症から何日経過してのLPなのか?といった点を総合して判断することになるかとおもいますが、NMDAR脳炎はMRI正常が基本なので自己免疫性脳炎の場合はより一層難しいですね・・・・。