基本原則
1:疾患修飾薬(神経変性の進行を抑制する作用)ではなく,あくまでも対症療法薬である
・MCIに処方して認知症への進展を抑制する効果はない Cochrane Database Syst Rev. 2012 Sep 12;2012(9):CD009132.
*AAN guideline:MCIに対してコリンエステラーゼ阻害薬を使用しない Level B,もしも処方する場合はエビデンスに欠けることを最初にきちんと患者に説明することが必要 Level A Neurology ® 2018;90:126-135.
2:薬剤の副作用もあるため、“Do no harm”の精神で本当に薬剤が必要か?を検討することが重要
・根拠なく薬剤を開始したり、漫然と継続することはよくない
適応疾患
・アルツハイマー型認知症
・一部レヴィ小体型認知症
*その他の認知症疾患に対しては適応はない
種類
コリンエステラーゼ阻害薬 | NMDA受容体拮抗薬 | |||
名称 | ドネペジル | ガランタミン | リバスチグミン | メマンチン |
商品名 | アリセプト® | レミニール® | リバスタッチ® | メマリー® |
開始量 | 3mg/日 1~2週間 | 8mg/日 4週間 | 4.5mg/日 | 5mg/日 |
用量 | 5mg/日 4週間~ | 16mg/日 4週間~ | 4週間ごとに4.5mgずつ増量 | 1週間ごとに 5mgずつ増量 |
最大量 | 10mg/日 | 24mg/日 | 18mg | 20mg CCr<30: 10mg |
投与回数 | 1日1回 | 1日2回 | 1日1回 | 1日1回 |
特徴 | 錠剤,OD,DS | 錠剤,OD | パッチ剤 | 錠剤,OD,DS |
適応 | AD/DLB | AD | AD | AD |
効果 | 活気を上げる | 気分を落ち着かせる | ||
副作用 | ①消化器症状(嘔気,食思不振,下痢)最も多く容量依存性 ②徐脈性不整脈(禁忌),③その他:興奮,不穏 | 傾眠,めまい |
副作用
・アセチルコリン作用により副交感神経作用が増強して生じます。特に薬剤による効果が充分得られない場合、ふしろ副作用の方が目立ちharmにつながる可能性がある点に注意です。
消化管副作用(食思不振,嘔気など)
・副作用として最も多く認めるので要注意
失神/徐脈
・特に元々徐脈(特に房室ブロック)を有する場合は避けた方が良く、β遮断薬,非ジヒドロピリジン系カルシウム受容体拮抗薬を併用薬として内服している場合は注意が必要
*参考:コホート研究 Arch Intern Med. 2009;169(9):867-873
・コリンエステラーゼ阻害薬使用 19803人 vs 未使用 61499人
・失神による病院受診:3.15 vs 1.86/100人年 adjusted HR=1.76 95%CI(1.57-1.98)
・徐脈による病院受診:0.69 vs 0.44/100人年 adjusted HR=1.69
・ペースメーカー留置:0.47 vs0.33/100人年 adjusted HR=1.49
・股関節骨折:2.24 vs 1.98/100人年 adjusted HR=1.18
・limitation:①コホート研究、②薬剤の種類を限定していない、③投与量の違いは検討していない
精神症状
・コリンエステラーゼ阻害薬により易怒性,不穏が目立つ場合があります。この場合はコリンエステラーゼ阻害薬は逆効果なので中止するべきです。
管理人の思うコリンエステラーゼ阻害薬の適応
・繰り返しですがコリンエステラーゼ阻害薬は疾患修飾薬ではなく、あくまでも対症療法薬なので副作用が効果を上回る場合は使用を控えるべき、漫然と継続することは控えるべき(polypharmacyにもつながる)という前提条件を最初に強調します。
・コリンエステラーゼ阻害薬は活気が上がる場合があるので、元々認知症に伴うapathy、活気不良がある場合にコリンエステラーゼ阻害薬によりリハビリテーションにつながるなどのメリットを期待する場合に使用を検討します。ただこの場合も個人差があるため、効果がない場合は漫然と継続せずに中止を検討します。
・一方で元々食欲が落ちており体重が減ってきている、徐脈性不整脈を有する、そもそも認知症で易怒性がある場合などは使用を最初から控えるべきと思います。