ギラン・バレー症候群やフィッシャー症候群で症状がnadirを超えた後、遅発性に顔面神経麻痺を合併する場合があり、これを“delayed facial palsy”と表現します(Fisherが最初に報告したFisher症候群の3例中1例も片側性の”delayed facial palsy”を呈したと報告 N Engl J Med. 1956 Jul 12;255(2):57-65.)。先日勉強会のコメンテーターでこの例を扱い、つい先日同様の症例がありました。何かマネージメントが大きく変わる訳ではないですが、認識しておくべき現象と思います。より一般的なギラン・バレー症候群の臨床像総論に関してはこちら、フィッシャー症候群に関してはこちらの記事をご参照ください。
臨床像
文献:”Delayed facial weakness in Guillain-Barre and Miller Fisher syndromes” Muscle Nerve 51: 811–814, 2015
・患者背景(日本からの報告重要):ギラン・バレー症候群(n=195 AIDP n=61, AMAN n=81, unclassified n=53) , フィッシャー症候群(n=68)
・“delayed facial palsy”合併:ギラン・バレー症候群6%(n=12),フィッシャー症候群 6%(n=4)
・”delayed facial palsy” 両側 or 片側性:ギラン・バレー症候群 片側性 42%, フィッシャー症候群 片側性 50%
*ギラン・バレー症候群に通常合併する顔面神経麻痺は両側性が多いが、delayed facial palsyは半数が片側性
・顔面神経麻痺(delayed問わず):ギラン・バレー症候群 28%(AIDP 54%, AMAN 23%), フィッシャー症候群 18%
*既報はFisher症候群急性期顔面神経麻痺合併22%と報告 J Neurol Neurosurg Psychiatry 2013;84:576–583.
→最大公約数としてフィッシャー症候群は約20%に顔面神経麻痺を合併(delayed facial palsyを含む)
・delayed facial palsyに対して追加治療は不要である
病態
•背景のGQ-1b抗原発現部位(健常剖検例):Ⅲ, Ⅳ, Ⅵ 11.6-13.2%,Ⅶ 5.4% Invest Ophthalmol Vis Sci. 2009;50:3226–3232, Brain Res 1997;745: 32–36.
•Fisher症候群の血漿交換治療中にdelayed facial palsyを発症した症例報告(日本からで重要な報告と個人的に思う) J Neurol Neurosurg Psychiatry 1998;64:399–401.
→delayed facial palsyは純粋な急性期の抗原抗体反応を反映している訳ではない可能性があるかもしれない?
1:急性期の顔面神経麻痺:抗GQ-1b抗体の直接的影響が想定されている
2:delayed facial palsy:解明されていないが、顔面神経近位でGQ-1b抗原抗体反応によるsubclinicalな障害が急性期に生じ→遅れて伝導ブロック/二次的軸索障害を呈した可能性がある?
治療
・既報はいずれも自然軽快
・追加の免疫治療に関する推奨はない(必要ないとされている)
こうした病態がありうることを事前に説明しておくべきかもしれない