作用機序
・FcRn(neonatal Fc receptor)はIgGと結合して、IgGがリソソームで分解されないようにリサイクルし半減期を長くする作用があります。つまりIgGのホメオスタシスにとってFcRnは重要な役割を担っています。
・このFcRnの作用を阻害することで、IgGの分解を促し、IgG関連の自己免疫性疾患の治療に使えないか?というコンセプトの元開発されたのがFcRn阻害薬(rozanolixizumab, nipocalimab, batoclimab, efgartigimod)です。
・他の治療方法として、血漿交換はバスキュラーアクセスやIgG以外に凝固因子も抜いてしまうことでの合併症の問題がありますし,IVIgも連日点滴の負担や血栓症などのリスクもあります。しかし、このFcRn阻害薬は外来で点滴または皮下注射により管理でき、またAlbやIgG以外の免疫グロブリンには影響が及ばない点が副作用の観点からも優れています。
・血漿交換についてはこちら、IVIgについてはこちらのまとめをご参照ください。
適応疾患
全身型重症筋無力症(ステロイド剤又はステロイド剤以外の免疫抑制剤が充分に奏功しない場合に限る)
*抗体の有無にかかわらず, seronegative MGも含む
重症筋無力症の治療に関しての記事はこちらを参照ください
ADAPT trial Lancet Neurol 2021; 20: 526–36
Design:randomised, double-blinded, placebo-controlled, phase 3 trial(日本を含む15か国, 56施設)
P:MGADL≧5点・MGFA Ⅱ~Ⅳ・全身型重症筋無力症(抗体の有無は問わない seronegativeも含む)167名
exclusion:<18歳,1か月以内のIVIg or PLEX, 6か月以内のリツキシマブまたはエクリズマブ
患者背景:抗AChR抗体陽性77%, MuSK抗体陽性 4%, double seronegative 19%, MG-ADL score 約9点、QMG score 約5点,元々の治療薬ステロイド約7-8割、非ステロイドの免疫抑制剤約6割、ステロイド+免疫抑制剤約5割
I:efgartigimod 10mg/kg 1週間おきに4回投与で1サイクル
*2回目以降の投与はMG-ADLに応じて(最低でも4週間は投与間隔を開ける)
*26週間の観察期間内で最大でも3サイクルの投与
C:placebo
O:
primary outcome 下図
・1サイクルでのMG-ADL responder(AChR+) 68% vs 30% p<0.0001
・1サイクルでのQMG score responder(AChR+) 63% vs 14% OR 10.84 p<0.0001
・1サイクルでのMG-ADL responder(全体) 68% vs 37% OR 3.70 p<0.0001
*MG-ADL responder ≧2点改善,≧4週間効果持続
・responder期間:6-7週間 32%, 8-11週間 23%, >12週間 34%
・1サイクル開始後~2サイクル開始までの期間:10週 vs 10週
・IgGの最大低下 61.3%,AChR抗体 57.6%
・感染症全て 46% vs 37%
・infusion reaction 4% vs 10%
適応外疾患の治療成績
・Stiff person 症候群(いずれもMG合併例、GAD抗体陽性)3例 治療効果あり Journal of Neurology (2024) 271:254–262
製剤・投与方法
一般名:エフガルチギモド efgartigimod
皮下注射製剤:商品名ヒフデュラ®配合皮下注 *冷所保存
*ボルヒアルロニダーゼαは加水分解によりヒアルロン酸を分解し、皮下組織の浸透性を上げる作用がある(これによって皮下注射でefgartigimodを吸収させる)
投与間隔:1週間おきに4回投与で1サイクルとする
*2サイクル目をどのタイミングにするかは臨床医の判断で決まりはない
禁忌:なし(本製剤過敏性のみ)
相互作用:免疫グロブリン、抗補体モノクローナル抗体製剤、血漿交換療法、生ワクチン治療中摂取を避けることが望ましい
薬価:604,569円/1バイアル アルジェニクスジャパン株式会社
参考文献
Neurological Sciences 2024; 45:4229–4241. “Efgartigimod as a novel FcRn inhibitor for autoimmune disease” FcRn阻害薬に関する包括的なreview articleとしてとても優れている