40歳前後のパーキンソン病っぽい患者さんがいらっしゃり、前医で頭部MRIが異常ないとのことで特に気にしていなかったのですが・・・、取り寄せてみなおすと基底核・視床・歯状核が左右対称性にT1WI highであり、頭部CTを撮影すると顕著な石灰化を認めました(副甲状腺など二次性の要素は指摘できず)。
*コメントでS先生に教えていただき、Fahr先生の報告例は副甲状腺疾患が背景にあった可能性もあり、近年はFahr病ではなく特発性基底核石灰化症と呼ぶ流れがあるようです。ご教授大変ありがとうございました。
疾患像
病的な石灰化を両側基底核(特に淡蒼球)、両側歯状核、視床、大脳白質(生理的な範囲を超える)に認める(2次性の原因を除外)。通常脳実質以外には石灰化を認めない。病態は正確には不明。リン酸ホメオスタシスの異常,脳血液関門(BBB)の傷害,脳内のリンパ系の関与が指摘されている。
遺伝子
1. 家族性の場合:遺伝子 SLC20A2遺伝子変異(リン酸トランスポーター 40-50%),PDGFB遺伝子変異(PDGF血小板由来成長因子 約10%)*これらは常染色体優性遺伝
2. 孤発性の場合:遺伝性は不明
*現在国内で遺伝子検査を受け付けている施設・機関を管理人は知りません(また調べた限りわかりませんでした 2024年8月時点)→もしご存じの先生いらっしゃりましたらコメント欄からご教授頂けますと幸いです。
疫学 発症:30-60才ごろ(20-96才) 男女比:差の指摘なし
下図引用元:Neurosciences 2014; Vol. 19 (3): 171-177
臨床像
.無症候または緩徐進行性
・初発症状:精神症状、うつ(全年代で最も多い症状)、認知機能障害、錐体外路症状、てんかん、小脳失調、精神発達遅滞など様々
*early onsetは運動症状が少なく、late onsetでは認知機能障害、運動症状が多いことが示唆されている
画像
二次性の石灰化疾患の除外が重要(なんでもかんでもFahr病になっては絶対にいけないし、疾患頻度としても圧倒的にFahr病が稀である)
*30歳台以下の石灰化は背景疾患を精査するべきである
・代謝障害:副甲状腺機能亢進症、偽性副甲状腺機能低下症
・代謝:ミトコンドリア病
・炎症性:SLE, HIV , 結核、Toxoplasmosis, Cysticercosis
・中毒:CO, 鉛
・外傷
・放射線治療後
・遺伝性:Cockayne syndrome, Down’s syndrome, 結節性硬化症
*生理的な石灰化
診断基準
1.頭部 CT 上,両側基底核を含む病的な石灰化を認める.
脳以外には病的な石灰化を認めないのが特徴である.病的とする定義は,大きさとして斑状(長径で 10mm以上のものを斑状,10mmm 未満は点状)以上のものか,あるいは点状の両側基底核石灰化に加えて小脳歯状核,視床,大脳皮質脳回谷部,大脳白質深部などに石灰化を認めるものと定義する.
注1 高齢者において生理的石灰化と思われるものは除く.
注2 石灰化の大きさによらず,原因遺伝子が判明したものや,家族性で類似の石灰化をきたすものは病的石灰化と考える.
2.下記に示すような脳内石灰化を二次的にきたす疾患が除外できる.
主なものとして,副甲状腺疾患(血清カルシウム(Ca),無機リン (Pi),iPTH が異常値),偽性副甲状腺機能低下症(血清 Ca 低値),偽性偽性副甲状腺機能低下症(Albright 骨異栄養症),コケイン(Cockayne)症候群,ミトコンドリア病,エカルディ・グティエール(Aicardi-Goutières)症候群,ダウン(Down)症候群,膠原病,血管炎,感染(HIV 脳症など, EB ウイルス感染症など),中毒・外傷・放射線治療などを除外する.
注1 iPTH: intact parathyroid hormone インタクト副甲状腺ホルモン
注2 小児例では,上記のような先天代謝異常症に伴う脳内石灰化である可能性も推測され,全ゲノム解析などの遺伝子検索が望まれる.
3.下記に示すような 緩徐進行性の精神・神経症状を呈する.
頭痛,精神症状(脱抑制症状,アルコール依存症など),てんかん,精神発達遅延,認知症,パーキンソニズム,不随意運動(PKD など),小脳症状など の精神・神経症状 がある.
注1 PKD: paroxysmal kinesigenic dyskinesia 発作性運動誘発性ジスキネジア
注2 無症状と思われる若年者でも,問診等により,しばしば上記の症状を認めることがある.
神経学的所見で軽度の運動機能障害(スキップができないなど)を認めることもある.
4.遺伝子診断
これまでに報告されている IBGC の原因遺伝子は常染色体顕性(優性)遺伝形式ではSLC20A2,PDGFRB,PDGFB,XPR1,常染色体潜性(劣性)遺伝形式ではMYORG,JAM2
があり,これらに変異を認めるもの.
5.病理学的所見
病理学的に脳内に病的な石灰化を認め,DNTC を含む他の変性疾患,外傷,感染症,ミトコンドリア病 などの代謝性疾患などが除外できるもの.
注 1 DNTC: diffuse neurofibrillary tangles with calcification (別名,小阪-柴山病) この疾患の確定診断は
病理学的診断であり,生前には臨床的に IBGC との鑑別に苦慮する.
Definite
・ 1,2,3,4を満たすもの.
・ 1,2,3, 5を満たすもの.
Probable
・ 1,2,3を満たすもの.
Possible
・ 1,2を満たすもの.
治療
根本的治療法なし・対症療法
2015年から指定難病(厚生労働省のページはこちら)
参考文献
特発性基底核石灰化症の診療・療養の手引き 2023(こちら)