呼吸は本来に充分余力がある状態で、呼吸に悪影響がでたとしても初期段階ですぐにSpO2は低下しません。SpO2が低下し酸素需要があるということは既に呼吸不全がかなり進行していることを意味します。酸素1L/minだから大丈夫という意味ではなく、酸素需要がある時点で充分に呼吸不全が進行している状態です。
ではSpO2が低下していない初期段階の呼吸不全をどう検出するか?に関してはphysical(身体所見)が最も重要です。SpO2を眺めているだけではわからないということです。もちろん呼吸回数が重要なのですが(呼吸回数に関してはこちらを参照ください)、それだけではなく呼吸様式をどのように観察するか?に関して解説します。
胸郭の動き
①胸郭上部
・生理:吸気で胸郭が前後方向へ広がる(ポンプハンドル運動)
・観察方法:目線をベッド上で仰臥位の患者さんの高さに合わせて観察する(医者はしゃがんで観察する)
・胸腹部の連動:吸気時に胸郭と腹部はほぼ同時(または腹部が少し遅れて)上がるが、吸気時に陥凹する場合は注意
・異常所見:paradoxical abdominal movement 動画はこちら N Engl J Med. 2023 Sep 14;389(11):e22. PMID: 37703557.
*胸部と腹部の動きが連動せずに非同期で、吸気時に腹部が陥凹し、呼気時に腹部が広がる
*肋骨骨折や横隔膜麻痺により生じる(神経筋疾患での呼吸不全に関してこちらに解説があるためご参照ください)
*下図:「レジデントのための神経診療」(医学書院)より引用
②胸郭下部
・生理:吸気で胸郭が横外側方向へ広がる(バケツハンドル運動)
・観察方法:検者が両手で胸郭を左右から覆うようにつかみ胸郭の広がりを手のひらで感じる
・異常所見:Hoover徴候 COPD重度であると横隔膜が平坦化して、横隔膜が収縮すると胸郭が内側に向かう方向になってしまう
呼吸補助筋
胸鎖乳突筋
・異常所見①:吸気時に収縮するかどうか(通常の呼吸では変化ない)
・異常所見②:肥大(1横指以上),鎖骨と胸骨の停止部が2股に分かれている 慢性の呼吸不全が背景にあることを示唆する
斜角筋
・体表上から観察することは困難
・診察方法:胸鎖乳突筋の後ろ(鎖骨上窩の上)に親指を入れて吸気時に収縮により硬く触れるかどうかを観察する(私はまだこれできたことない)
肋間筋
・異常所見:吸気時に胸郭の内側に引き込まれる(肋間が陥凹する)
気管
・気管自体は動きの観察が難しいため、甲状軟骨(輪状軟骨)の動きを観察
・異常所見①:呼吸不全では吸気で縦隔側に引き込まれる(甲状軟骨が尾側に動く)Campbell徴候
*正常:ほとんど動かない
・異常所見②(気管短縮):輪状軟骨と鎖骨上切痕に正常は3横指以上入るが2横指未満になる
参考
・平島先生レクチャー(GIM intensive review 2024/8/3)