神経内科コンサルタントとして知識が必要な分野で調べた内容をまとめていきます。
全体像
抗CTLA-4抗体: イピリムマブ(ipilimumab)
抗PD-1抗体: ニボルマブ(nivolumab), ペンブロリズマブ(pembrolizumab)
抗PD-L1抗体:アテゾリズマブ, アベルマブ, デュルバルマブ
irAE全体のうち神経筋病態の内訳は3-5%
■428例のsystematic review Neurology 2021;96:754-766.
内訳:筋炎32%, 末梢神経障害 22%, 筋無力症 14%, 脳炎 13%, 脳神経障害 7%, その他中枢神経障害 6%, 髄膜炎 3%, 中枢神経脱髄病変 2%, 脊髄炎2%
予後(死亡):筋無力症 28%, 脳炎 21%, 筋炎 17%, 中枢神経脱髄病変 12%, ギランバレー症候群 11%
重症筋無力症
・日本のニボルマブ市販後調査では0.12%(12/9869例)に発症 Neurology ® 2017;89:1127–1134
上記12例の臨床特徴
・年齢73.5歳 男性6例, 女性6例 ・背景腫瘍:メラノーマ5例、肺非小細胞癌6例、大腸がん1例
・ニボルマブ投与回数:1回 4例、2回 5例、3回 2例、4回 1例
・一般的なMGと臨床像上違う点:投与早期に発症・急速進行性で球麻痺やクリーゼの頻度が高い・自己抗体陽性頻度は低い(抗AChR抗体陽性は60-70%前後) *MuSK抗体陽性例はなし
・筋炎とMGが似た臨床像を呈することがあり、irAEではoverlapすることがある(特に重症筋無力症・筋炎・心筋炎は互いに合併し合う)
・重症化し最も注意が必要な合併症であり予後に関わる
■systematic review 63例の検討 Front Neurol. 2022 Apr 7;13:858628.
・ICIs内訳:PD-1 73.8%, CTLA-4 13.1%, 併用 9.8%, その他3.3%
・ICI開始から発症までの期間:5週間(中央値)
・ICI最後の注射から発症までの期間:10日間(中央値)
・irAE重症度:Ⅰ 19.4%, Ⅱ 16.1%, Ⅲ 19.4%, Ⅳ 45.2%
■58例検討(前述論文) Neurology 2021;96:754-766.
・ICIs内訳:PD-1/PD-L1 86%, CTLA-4 5%, 併用 9%
・抗体陽性例 59%
・筋炎併発 50%
・予後:改善 69%, 変化なし 3%, 死亡 28%
筋炎(炎症性筋疾患)
・筋炎の一般的特徴(筋痛・四肢近位筋筋力低下・CK上昇)に重症筋無力症の臨床像を合併することが多い。
・筋炎・重症筋無力症・心筋炎はそれぞれ互いに合併しあう(overlap)ことが多いため1つを認めた場合は必ず他の併存合併がないかどうかに注意する。
・既存の筋炎関連抗体は陰性になるが、抗横紋筋抗体陽性例が多い。
■136例の特徴(前述論文) Neurology 2021;96:754-766.
・ICIs内訳: PD-1/PD-L1 73%, CTLA-4 9%, 併用 18%
・抗体陽性例:36%
・MRI:筋炎パターン85%, EMG: 筋原性変化 82%, RNS: 正常 91%
・予後:改善 73%, 横ばい 10%, 死亡 17%
■PD-1ミオパチー 19例検討 J Autoimmun 100: 105-113, 2019
発症:平均29日 平均4サイクル
52.6%(10/19例)は眼瞼下垂が初発症状
複視13例、眼瞼下垂15例、顔面筋力低下8例、球症状10例、四肢筋力低下13例、筋痛16例
MGに似た臨床像を呈する
心筋炎4例・呼吸筋障害6例
CK値: 5247 IU/L 筋炎抗体検出なし *抗横紋筋抗体検出 13/19例 68.4%
針筋電図検査:筋原性変化
末梢神経障害
・ギラン・バレー症候群やCIDPと類似した急性から亜急性経過の多発神経根症(polyradiculopathy)を呈することが多い。通常のギランバレー症候群はステロイドの反応性がないけれど、irAEとしての多発神経根症はステロイド反応性がある点が臨床上異なる点。
■94例検討(前述論文) Neurology 2021;96:754-766.
・ICIs内訳:PD-1/PD-L1 57%, CTLA-4 23%, 併用18%, 不明1%
・臨床像:急性(亜急性)脱髄性多発神経根症 n=31, 急性運動(感覚)軸索障害 n=15, CIDP 7, Miller Fisher 4
・抗体陽性:24%
・髄液:蛋白上昇 84%, 細胞数上昇 39%, OCB+ 7%, 正常11% *記載なし 35%
・MRI:神経根造影効果 24%, 正常 52%
・NCS:脱髄 46%, 軸索障害 34%, 非特異的 13%, small fiber 5%, myopathy併発subclinical 2%
・予後:改善 77%, 横ばい13%, 死亡 11%
自己免疫性脳炎
irAEの自己免疫性脳炎54例まとめ Neurology ® 2021;97:e191-e202.
・年齢 58.6歳 転移巣あり89% *脳転移30%
・腫瘍内訳:メラノーマ30%, NSCLC 30%, RCC 7%
・ICIs内訳:ニボルマブ 61%
・投与サイクル:平均3.5回(中央値3.0回)
・臨床像:非辺縁系脳炎 70% > 辺縁系脳炎 30%
・症状:意識障害85%, 神経巣症状 63%(行動障害>気分障害>幻覚>paranoia), 精神症状 37%, てんかん発作 33%(全般発作 39%>焦点発作 28%>NCSE 22%, 全般>焦点発作11%), 自律神経障害 33%, working memory障害 28%, 失調 19%, ジスキネジア 11%
・MRI検査:異常56% 両側側頭葉FLAIR像高信号 52%>多発する皮質灰白質高信号 17% >軟髄膜造影効果 14%>基底核病変 7%>硬膜造影効果 7%
・髄液検査:細胞数上昇(>5/μL) 67% 中央値19/μL(辺縁系 16 vs 非辺縁系 53), lymph 68% granulocyte 12%(全例非辺縁系), OCB+ 53%,
・自己抗体:陽性 56%(細胞内抗原 46%, 細胞表面抗原 10%), 陰性 44% *髄液陽性 55%, 血清陽性 48%
陽性例の内訳:髄液抗体 Ma2 n=8, Hu n=2, GAD n=2, Ri n=1, NMDA/CASPR2 n=3
・自己免疫性脳炎基準(Graus基準)
・1st line therapy治療:改善 69%, 進行 27%, 横ばい 4%
・2nd line therapy実施 26%
ポイント
1:非辺縁系脳炎>辺縁系脳炎 2倍程度
2:約半数は既知の自己抗体を有する
3:自己免疫性脳炎のGraus基準はある程度該当
治療
・通常の化学療法関連副作用は化学療法の中止だけの場合が多いですが、irAEの場合は中等症以上ではステロイド投与が第1選択になります。ただこの点に関して前向き研究は実施がありません。
・また重症例(特に重症筋無力症)では免疫グロブリン療法や血漿交換療法などのより強力な免疫治療が必要になります。
・CTCAE(Common Terminology Criteria for Adverse Events)
参考文献
・BRAIN and NERVE 73 (1):35-46,2021
・Neurology 2021;96:754-766. irAE神経系のreviewとして素晴らしいまとめ