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心原性脳塞栓症の抗凝固療法導入時期

非弁膜症性心房細動患者さんの抗凝固療法導入時期は出血性梗塞合併リスクがあり判断に悩む領域です。

今までの変遷

・前向き研究不在の中で今までさまざまなrecommendationが提唱されてきました。その変遷をまずまとめていきます。

基礎知識

・心原性塞栓症の再発リスクは初期14日以内で0.5-1.3%/日(Stroke 1983; 14: 688–93.)
脳梗塞直後が再発リスクも, 出血性梗塞になるリスクも高いというジレンマを抱えている
・出血性梗塞は全体の9%で起こり, 梗塞巣が大きいことと急性期の再開通が関係している(Stroke 2008; 39: 2249–56.)
急性期のヘパリン使用は再発予防効果なく, 出血合併症を増加させるだけであることはコンセンサスとなっており使用することはありません(Stroke 2007; 38: 423–30.)。
*参考(重要文献):7つの心原性塞栓症に対する早期ヘパリン使用の前向き研究を統合したmeta-analysis Stroke 2007; 38: 423–30.
→結果:ヘパリン vs その他の治療 脳梗塞再発 3.0% vs 4.9% OR 0.68 P=0.01, 症候性頭蓋内出血 2.5% vs 0.7% OR 2.89 P=0.02
・注意するべき点はワルファリン時代のエビデンスから現在抗凝固療法の主体がDOACへ移行してきてやはり頭蓋内出血イベントが減少している点です。

有名でキャッチー”1-3-6-12 rule” ESC 2016(Eur Heart J. 2016;37:2893–2962.)

・抗凝固開始時期:TIA:1日後, NIHSS≦7: 3日後, NIHSS=8-15: 6日後, NIHSS>16: 12日後
・この名称はキャッチーで分かりやすいため広く広まった方法ですが, これを裏付ける臨床試験がある訳ではなくあくまでも”expert consensus”によるものである点に注意が必要です。
・画像検査を繰り返すことを推奨(エビデンスなし)。

脳梗塞発症4~14日後 AHA/ASA guideline

・RAF study Stroke 2015; 46: 2175–82.にかなり基づいた考え方ですが、ここでも抗凝固療法としてLMWH, ワルファリン, DOACが混在している点に注意が必要です。

DOAC時代の新しい提唱 “1-2-3-4-Day” rule Stroke. 2022;53:1540–1549.

・ここでの提案:TIA:1日後, NIHSS≦7: 2日後, NIHSS=8-15: 3日後, NIHSS>16: 4日後
・”1-3-6-12-day rule”は脳梗塞の重症度に応じて抗凝固療法導入時期を検討する方法です。しかし、観察研究では早期のDOAC導入は安全である可能性が示唆されており、”1-3-6-12-day rule”は実臨床 real-worldからすると抗凝固導入が遅いかもしれないです。
・日本のregistryから最適な時期を検討して、海外のregistryでvalidationを検討したものです。
Lancet Neurol. 2019;18:117–126.

Eur Heart J. 2016;37:2893–2962. “1-3-6-12 rule”

ついに来た前向き研究 ”TIMING” Circulation. 2022;146:1056–1066.

心原性脳塞栓症に対しての抗凝固薬導入に関する最初のRCTです。
まとめ図:primary outcomeについてearly群(発症後4日以内)とdelayed群(発症後5-10日)で非劣性

subgroup analysis

管理人の考え
・実臨床で問題となるのは「梗塞巣の大きさ(=重症度)」に応じてどのタイミングからDOACを導入するべきか?という点です。今回のstudyはこの点に関して分けて解析していないまずは最初の研究なので、この結果だけに基づいて「うん発症4日以内に投与でいいよね」と一律で言えるわけではないという点に注意するべきと思います。
・また実際平均DOAC開始時期はearly群は発症3日後、delayed群は発症5日後とそこまで大きな差がある訳ではない点も気になります。
・ただあくまでも前向き研究の最初として全てをひっくるめて行わざるをえないことは間違いないので、今後「梗塞巣の大きさ(=重症度)」に応じた臨床試験(後述)を期待したいです。

ELAN [Early Versus Late Initiation of Direct Oral Anticoagulants in Post-Ischemic Stroke Patients With Atrial Fibrillation], NCT03148457

・DOACのearly/late投与群に分けて比較検討した前向き研究です。late投与群は概ね1-3-6-12 ruleに則って設定している印象です。本研究の特徴としては重症度評価を画像評価で行っている点です(NIHSSではなく)。
・primary outcome(複合エンドポイント),やその中身のそれぞれでは有意差はつかないですが、90日後のcomposite outcomeでは有意差がある結果です.
・注目すべきはやはり症候性頭蓋内出血がearly群でlate群と比較して増加していなかった点と思います。
・個人的な感想:backgroundがNIHSS5点とかなり軽症例が多い印象を持ちます。なので実際に比較的梗塞巣が大きく(ここではmajorに分類)NIHSS上も重症な心原性脳塞栓症でどうなのか?に関してはまだ何とも言えないのかなと思いました。ただDOAC early投与により頭蓋内出血が増加していない結果は早期からしっかりとDOACを導入する勇気をもらいます。

*2023/6/15管理人追記

今後の臨床試験

この分野は今後の臨床試験結果に応じてプラクティスが大きくかわる可能性があります。以下に現在進行している代表的な臨床試験をまとめます。

OPTIMAS [Optimal Timing of Anticoagulation After Acute Ischemic Stroke], NCT03759938

START [Optimal Delay Time to Initiate Anticoagulation After Ischemic Stroke in Atrial Fibrillation], NCT03021928

別議論 CQ:心房細動に対して既に抗凝固薬内服中に脳梗塞を発症した場合に抗凝固薬を変更するべきか? ANN NEUROL 2020;87:677–687

7つの前向きコホート研究の統合解析計心房細動での脳梗塞例5413例の検討
患者背景:78歳・NIHSS初診時6点、抗凝固薬元々内服なし56.7%, 抗血小板薬元々内服 20.5%, 抗凝固薬元々内服 22.5%(DOAC 116例, VKA 865例, 詳細不明169例)
結果:脳梗塞再発・脳出血・死亡
元々経口抗凝固薬内服 vs 元々内服していない場合:8.9% vs 3.9% HR=1.6 p=0.005
経口抗凝固薬の変更 vs 変更なし:8.8% vs 8.2% HR=1.2 0.7-2.1 p=0.415
→この研究からは抗凝固薬を変更しても脳梗塞発症率に変化はなし