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傍腫瘍神経症候群 PNS: paraneoplastic neurological syndrome 末梢神経障害

・傍腫瘍神経症候群(PNS: paraneoplastic neurologic syndrome)は臨床像が多岐にわたるため、ここでは末梢神経障害に絞って調べた内容をまとめたいと思います。
・Sensory neuronopathyが最も多く、CIDP,GBS、腕神経叢障害、血管炎性ニューロパチー、その他(自律神経障害 AAG, chronic gastrointestinal pseudo-obstruction)などが代表的な原因として挙げられます.
腫瘍に先行することが多い点が特徴です。このためPNSから腫瘍の診断に至る場合もある点が重要です。
・その他の腫瘍関連neuropathyの鑑別としては①化学療法、②放射線治療、③感染症(帯状疱疹など)、④過粘調症候群やアミロイドーシス、⑤腫瘍の直接浸潤などが重要です。

Neuronopathy

motor neuronopathy

・リンパ腫:subacute motor neuropathy 左右非対称・下肢に強い症状 筋力低下は重度になることは稀、治療無しで改善することある(1979年に初めて報告)
・亜急性経過の下位運動ニューロン障害:ホジキンリンパ腫
・Hu抗体/SCLC:自然と改善することはない

参考:悪性リンパ腫と末梢神経障害 Muscle Nerve 31: 301–313, 200

(1) 非ホジキンリンパ腫(NHL):浸潤, 軸索障害 neurolymphomatosis 神経根、脳神経などへ浸潤・髄膜炎 *多くがNHLによるもの *B-cell 90%< T-cell 10%
(2) ホジキンリンパ腫(HL):めったに神経へ直接浸潤しない(非ホジキンリンパ腫と対照的)→免疫学的機序でGBS, CIDP等, Hu抗体陽性を呈することがある *自己免疫機序の傍腫瘍症候群はリンパ腫早期に起こりうる
*8%のlymphoma患者において臨床的なneuropathyを認めた  J Neurol Neurosurg Psychiatry 1971;34:42–50.
*治療薬剤の副作用による末梢神経障害の可能性もありややこしい

非ホジキンリンパ腫
1:直接浸潤
・中枢神経:直接神経根や脳神経を経由して浸潤する
・末梢神経:リンパ節から浸潤(DRGがBNBを欠いているため同部位から侵入)
2:免疫学的機序 GBS:HL > NHL
3:hematogenos meta→血管浸潤してnerve infarctに至る
4:HIV感染関連
5:その他 血管炎、クリオグロブリン血症、アミロイドーシス M蛋白関連、POEMS

臨床像:患者は多くは既知のlymphomaはなく発症する
神経根障害(radiculopathy: 単一または複数または馬尾症):VZV感染合併(リンパ腫の3-10%に合併)・NHL(HLはめったにない)→リンパ腫の指摘なく初発症状の場合がある
神経叢障害(plexopathy):NHL, HL, 放射線治療の影響
・リンパ腫浸潤:神経叢近位が多く疼痛を伴う
・放射性神経叢障害:疼痛はリンパ腫よりも少なく、6か月以上の後生じ、月から年単位で緩徐に進行する 腕神経叢の方が周囲の組織に乏しく放射性障害を受けやすい可能性あり
polyneuropathy:NHL直接浸潤またはHLで多くの免疫学的機序(CIDP, GBS)

検査
・MRI検査:local deposits, meningeal enhancement
・CSF:最低3回はやることで80%程度で細胞診で異常が指摘される LDH, β2ミクログロブリン
・生検:積極的に検討する meningeal biopsyも考慮するべき
*VZV感染に注意:リンパ腫患者の3-10%でVZV感染あり

*参考:Neurology ® 2011;76:705–710
・悪性リンパ腫に合併したPNSまとめ(53例 HL24例、NHL29例)
・PNS:PCD最多(21例 HL16例, NHL5例) 抗Tr抗体, 末梢神経障害(脱髄性)はNHLに多い
・神経合併症の治療反応性:ホジキンリンパ腫は50%化学療法に反応, 非ホジキンリンパ腫は24%化学療法に反応

*Paraneoplastic lower motor neuronopathy associated with Hodgkin lymphoma. Muscle Nerve 2012; 46:823–827. ホジキンリンパ腫の診断に先行したparaneoplastic motor neuropathy
31歳女性:数日経過で左上下肢、続いて右上下肢の脱力(感覚症状、膀胱直腸障害なし)→その後ホジキンリンパ腫の診断:髄液細胞数11/μL, 蛋白52mg/dL, 細胞診は悪性腫瘍検出なし
神経所見:左右非対称の近位、遠位いずれも筋力低下(2週間経過で受診)、腱反射消失 *脳神経障害なし
検査:抗神経抗体は陰性
電気生理検査:CMAP amp低下, MCV正常, SNAP正常
造影MRI:馬尾腫大+造影効果(下図)
化学療法+IVIgで改善

sensory neuronopathy

後根神経節障害こちらを参照)で最も”paraneoplastic neurologic syndrome”として典型的 CD8+の細胞障害性T細胞による
・原因:SCLCが80%以上を占める その他:腺癌、リンパ腫、胸腺腫など
・経過:亜急性進行性の経過(週単位) *~10%は慢性経過
・症状:左右非対称の感覚障害*必ずしも長さ依存性ではない
・振動覚を含めた重度の感覚障害・感覚性失調(sensory ataxia)のパターンが多い(その他疼痛が主体で感覚性失調が主体ではない場合もある) →病理で前者はlarge fiber主体, 後者はsmall fiber主体の障害を呈する Neurology 2007; 69:564–572. *これはSjogren症候群の末梢神経障害での臨床-病理関係と似ている Brain 2005; 128:2518–2534.
・検査:Hu抗体>CV2抗体(CRMP-5), amphyphisin抗体 *~16%: seronegative
*CV2抗体は運動障害を伴い、脱髄を呈することがHuよりも甥

autonomic neuronopathy

・その他のneuropathyに自律神経障害が付随すること多い
・Hu, CV2/CRMP5, gAChR抗体が県連あり
・腸管神経叢の障害による消化管蠕動運動障害:慢性の偽性腸閉塞→SCLCのHu抗体と関連
autoimmune autonimic ganglinopathy (AAG): 必ずしも傍腫瘍性ではない

Neuropathy

・臨床像:さまざまで、通常亜急性の経過をとりCIDPと鑑別が難しい場合もある
・腫瘍:様々な腫瘍と関連が報告されている
・検査:抗体は陰性が多いが、SCLCはCV2(CRMP5)>Hu抗体と関連

paraneopalastic demyelinating neuropathy

・腫瘍:特定の腫瘍との関連性は不明であるが、リンパ腫との関連
*neurolymphomatosis末梢神経への直接浸潤(DLBCLなどは直接浸潤をしやすい)

血管炎性ニューロパチー

・腫瘍:前立腺・腎臓・消化管・肺・リンパ腫 *固形腫瘍に多い
・臨床:進行性の当初非対称性の疼痛を伴う運動感覚末梢神経障害
・電気生理:多発単神経障害または軸索障害(左右非対称)

腕神経叢障害 plexopathy

・腫瘍浸潤または放射線治療後が多い
・傍腫瘍神経症候群も報告あり、ホジキンリンパ腫に多い

傍腫瘍神経症候群 抗体・臨床像・腫瘍の対応関係

治療

背景の悪性腫瘍治療が最も重要。
・免疫治療には抵抗性の場合が多い。

参考文献
・Curr Opin Neurol 2013, 26:489–495 少し古いですが傍腫瘍神経症候群の末梢神経に特化したreviewとして優れている
・Current Opinion in Neurology 2011, 24:504–510 小池先生の書かれたreview article必読