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一酸化炭素中毒 CO poisoning

先日両側淡蒼球のDWI高信号病変を呈した症例のコンサルテーションがあり、一酸化炭素中毒なのかどうか?議論になりました。まだ勉強不足なのですが少しずつ勉強した内容をupdateしていきます。

病態機序

・COは赤血球ヘモグロビンとの結合親和性が酸素よりも200倍以上高い
・加えてCOは組織のチトクローム酸化酵素を抑制しエネルギー産生を阻害する作用もある
→このためCO-Hbによる直接的・間接的な組織障害が問題となる(特に酸素需要の高い「脳」や「心筋」が障害を受けやすい:Hb-CO濃度が20%を超えると障害される)
*COは無臭、無刺激性であるため気が付きにくい・比重=0.97と空気よりはやや軽い(火災でしゃがんで屋内を移動する必要があるのはこのため)

基礎、背景

・冬の換気の悪い部屋でのストーブ使用
・自動車や工場からの排気ガス:雪に埋まる(車内にガスが充満してしまう)、ガレージ内でのエンジン
・練炭
・火災(住宅の火災ではシアン化水素も発生するため注意が必要)
*事故や自殺の原因としても多い(日本の急性中毒死の原因として最多・年々減少しているが)

臨床像(急性期)

非特異的な頭痛、嘔吐などを初期は呈する場合が多いためCO中毒を疑わないと診断することは難しい。
 ・頭痛:暴露後-12hで起こり、除去後-72hで消失する
 ・嘔吐:胃腸炎と誤診しやすい(一酸化炭素中毒では「下痢を認めない」点がポイント)

*同じ場所、時間での複数人の発症では必ず注意(冬だと”sick contact”と考えてしまうかもしれないが)

DNS (delayed neuropsychological/neurological sequelae) 遅発性精神神経障害/間欠型一酸化炭素中毒

発症時期 暴露後清明期を経て2~6週後から出現する(”delayed”という名の通り直後には認めない)
パーキンソン症候群・見当識障害・高次脳機能障害・人格変化・気分障害など
・発症率は報告によってまちまち(多いものは46%と報告あり)
・後述の通り発症リスクに関して一定の見解はなし(後述のDWI信号変化を参照)
・DNSの予後規定因子もまだ同定されていない
・治療方法は確立していない *高圧酸素療法を行う場合もあるが、前向き研究はなく現状はエビデンスに乏しい

検査

SpO2は良い値を示すことが多いのであてにならない
*SpO2は測定原理上CO-HbもO2-Hbと同様に測定してしまう欠点がある点に留意
CO-Hb:動脈血(血液ガス検査)が望ましい(静脈血よりも)
*参考値:CO-Hb値は臨床症状と必ずしも相関関係にない点に注意
 健常者:~3%
 喫煙者:10~15%
 CO中毒:15%~

画像

・急性期病変としては両側淡蒼球のT2WI高信号(卵円状)が非常に特徴的です。次いで白質の障害を認めます。
Grinker’s myelinopathy(髄鞘障害・脱髄):発症当初は画像上異常所見を認めなくてもその後遅れて深部白質の拡散制限を呈し、病変は数か月持続する(その他の疾患:特に脳梗塞とは異なる点として重要)

■CO中毒急性期のDWI高信号病変は神経障害合併の独立した因子 JAMA Neurol. 2018;75(4):436-443.

・背景:既存の研究は遅発性の神経合併症(DNS: delayed neurological sequelae)を予測する危険因子を同定できずにいた(意識障害や、CO濃度、脳波異常などは全て遅発性神経合併症の予測の因子となっていない)
・387例の急性CO中毒患者(内訳 64%男性、年齢42歳、暴露からER受診まで2.8時間、暴露からMRI終了までの時間 9.2時間、CO-Hb濃度 32.5%、当初意識障害66.4%、MRI前の高圧酸素療法実施 35.4%)
・DNSは26.1%に認めた
・急性期のDWI信号変化 26.9%で認めた
・部位:淡蒼球 19.9%, diffuse lesion 3.4%, focal lesion 14.7%
・DNSの独立した危険因子としては「意識障害」 (OR, 2.10; 95% CI, 0.96-4.62; P = .064)「長期間のCO暴露」(OR, 1.13; 95% CI, 1.07-1.20; P < .001)そして「急性期のDWI信号変化」(OR, 13.93; 95% CI, 7.16-27.11; P < .001) が挙げられた

参考:中毒の画像変化の特徴  

一酸化炭素淡蒼球・皮質下白質
メタノール基底核・視神経・皮質下白質 *含有:ウインドウォッシャー液(自動車)
エチレングリコール:脳幹部(脳幹背側+海馬) *含有:不凍液、ラジエーター、保冷剤
トルエン中小脳脚(両側左右対称性)*中小脳病変のまとめはこちら参照 病歴:シンナー吸入・職業(有機溶剤) 診断:尿中馬尿酸測定
薬物:5-FU(脳梁)・メトロニダゾール(小脳歯状核・脳梁)・インフリキシマブ(深部白質 多発性硬化症様)
スギヒラタケ:基底核・外包 ポイント:2004年東北地方(秋田県・山形県・新潟県)で原因不明の脳症が多発した・腎機能障害患者にて生じる・摂取から症状発症までの期間:1日~14日 農林水産省の勧告はこちら

参考文献:画像診断Vol.35  No.4  臨時増刊号 2015

下図は中毒での特徴的な画像所見の一覧で、Radiographics. 2019 Oct;39(6):1672-1695. doi: 10.1148/rg.2019190016. PMID: 31589567.より引用させていただきました。

治療

■急性期:高濃度酸素療法・高圧酸素療法
・初療ではとりあえず高濃度酸素療法リザーバー100%酸素15Lを行うする(高圧酸素療法につなげるにせよ、つなげないにせよ)
・CO半減期 通常 300分,リザーバー100%酸素 90分,高圧酸素 30分
・高圧酸素療法は重症例(臓器障害,CO-Hb>25%)に適応という記載もある
*下図引用元(open access) Carbon Monoxide Poisoning: Pathogenesis, Management, and Future Directions of Therapy. Am J Respir Crit Care Med. 2017 Mar 1;195(5):596-606.)

■続発症に対して:確立した治療方法なし

参考文献
・N Engl J Med 2009;360:1217-25. CO中毒で最も有名なreviewかと思います
・INTENSIVIST 特集「中毒」 一酸化炭素中毒とシアン中毒 執筆:小澤昌子先生