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NCSE: non-convulsive status epilepticus 非痙攣性てんかん重積

病態・分類

明らかな痙攣(convulsion)を呈さないてんかん重積である非痙攣性てんかん重責(NCSE)の存在は近年非常に有名になっており、救急領域でも知らない先生はおそらくいないと思います。認知は高まっていますが、個人的は注意点も多く感じます。

1:脳波検査を充分にせずにNCSEと判断する
逆にあまりにもNCSEという言葉が有名になっているため「色々調べたけどよくわからなかったからきっとNCSEだよね」とNCSEという言葉が独り歩きしてしまい、脳波検査をきちんとせずに原因不明意識障害のエスケープゴートとしてNCSEが使われてしまっている状況をまま目にします。臨床+脳波所見をあわせてはじめてNCSEは診断できるため、臨床できちんと器質的な意識障害の原因を除外し(NCSEに特異的な臨床所見は乏しいため)、その上で脳波から診断するという基本のプロセスをおろそかにしてはいけないと感じています。

2:NCSEは診断名ではない
NCSEという言葉をつけてついつい安心してしまいがちですが、NCSEはあくまで結果の病態であって原疾患は何か?を考えることがとても重要です(例えば脳出血など)。

まず診断基準と分類を確認します(2015年ILAE:”A definition and classification of status epilepticus – Report of the ILAE Task Force on Classification of Status Epilepticus” Epilepsia 2015;56:1515-23.)。てんかん重積状態(SE: status epilepticus)は痙攣(convulsion)の有無によってCSE(convulsive status epilepticus:痙攣性てんかん重積)NCSE(non-convulsive status epilepticus:非痙攣性てんかん重積)に分けられます。さらにNCSEは以下の様に分類されます。

臨床症状

NCSEに特異的な臨床所見というものはなく、既報から分かることはほぼ全ての高次脳機能障害(失語、失行、視覚障害など)を呈します。個人的に今まで経験したNCSEで印象に残っているのは、意識障害+頸部回旋のみ、運動性失語のみ(私は1年に1回の頻度で失語のみのてんかん発作に出会っています。勉強して以外と失語だけのてんかん発作があるということを知り驚きました)など様々です。このため、意識障害を含め様々な神経学的所見やその変動ではNCSEを閾値低く疑うべきです。

臨床症候のまとまった報告は少ないですが、意識変容82%(混乱49%、昏睡22%、無気力21%)、言語障害15%、ミオクローヌス様13%、奇妙な行動11%、不安・興奮・せん妄8%、錐体外路症状7%、幻覚6%と報告されています(引用:Neurol Clin Pract 2012;2:275-86)。意識障害はもちろんですが、個人的にやはり言語障害が多いなと思います。またせん妄との区別も診察だけではなかなか難しいです。

複雑部分発作(側頭葉由来)では前兆(特に腹部が上がってくるような感じ)→一点凝視・動作停止口部自動症もうろう状態という一連の症状を呈することが典型的です(欠神発作との鑑別点にもなります)。これは目撃者からの病歴がないと診断することは出来ません。

オーストラリアてんかん協会作成したアニメを掲載します。

欠神発作(absence seizure)突然ぼーっとしてしまい、持続時間は数秒~数十秒で突然改善する発作です(一般的には小児に多いです)。筋緊張が保たれることが特徴で、転倒することは通常なく、あたかもそこだけ時間が止まってしまったような印象を与えます。動作をそのまま継続できる場合もあります。複雑部分発作との鑑別が問題になりますが複雑部分発作は上記の様な経時的な症状の推移をとらえることが重要です。下図にわかりやすい動画があったため掲載させていただきます。小児の場合は「ぼーっとしている子」と捉えられて、病的であるという認識がされない場合があり注意が必要です。

ちなみにDr.Houseという有名な医療ドラマでもこの発作が出てきた場合もありますが(シーズン1第19話)、医者がぼーっとした患者を診て一瞬で”Abscence!!”と判断していた光景が個人的には衝撃的でした。

いつNCSEを疑うか?

個人的に思うNCSEを疑うべき状況を挙げたいと思います。
痙攣性てんかん重積後の意識障害が遷延する場合(CSE後高率でNCSEへ移行する点から)
変動する高次脳機能障害→変動する高次脳機能障害では全例NCSEを考慮するべきです
原因不明の意識障害
それまでせん妄でなかった入院患者の突然のせん妄→環境要因だけで説明できないせん妄は器質的な原因を除外した上でNCSEを考慮するべきです(例:入院直後は問題なかったが数日後の朝に突然暴れだした、血液ガス検査や頭部CT検査検査、心電図検査では明らかな器質的な原因はない→NCSEも考慮して脳波検査)

NCSEは突然発症のことが多いため、初診時には脳血管障害が鑑別になります。このため必ず頭部画像検査で脳血管障害を除外してから、NCSEへアプローチします。脳血管障害の除外ができていない状態で臨床的症状のみでNCSEで診断することは困難であり避けるべきと個人的には考えています。

脳波 波形用語のまとめ

ここではACNS(American Clinical Neurophysiology Society)の提唱している“Standardized Critical Care EEG Terminology 2012”より引用します(J Clin Neurophysiol 2013;30: 1 – 27)。脳波の用語は様々な言葉が乱立しており、できるだけ主観を省いた言葉で客観的に分類することを主眼においています。例えば今まで使用されていた用語のPLEDsのEは”Epileptiform”と「てんかん性」という表現が入っていましたが、これはかなり主観的な用語なので、ここではこの言葉は除外されています。

順番にまずMain term1(分布)、そしてMain term2(波形の分類)、最後にModifiers(修飾)をつけることで波形の分類を行います。

Main term1(分布)
G:generalized 両側性で同期しており左右対称性(部位は例えばFpのみなど限局していてもGeneralizedに含める)
L:lateralized 片側性・両側性で同期しているが左右非対称性
BI:bilateral independent 非同期の独立した2つの片側性
Mf:multifocal 多焦点性

Main term2(波形の分類)
PDs:periodic discharges(周期性発射):比較的一定の波形間隔をもって継続するもの
RDA:rhythmic delta activity:4Hz以下の波形が波形間隔がなく一定に繰り返される
SW:spike and wave or sharp and wave(棘徐波)

(具体例1:PDs)

(具体例2:RDA)

(具体例3:SW)

Modifier:修飾
周波数
出現頻度 Continuous≧90%, Abundant 50-89%, Frequent 10-49%, Occasional 1-9%, Rare<1%
鋭さ Spiky<70msec, Sharp 70-200msec, Blunt その他、振幅
Evolving時間的(周波数)or 空間的(出現部位)or 形態が変化していくこと→同方向へ2段階以上の変化(例えば0.5Hz→1.0Hz→2.0Hzという周波数の変化)、また同波形が3個以上必要です
Fluctuating:1分以内に3段階以上の変化を認めている場合
Plus (PDs, RDAのみに適応し、SWには適応しない)
+F: fast activity. PDs or RDAに適応.
+R: rhythmic or quasi-rhythmic delta activity; PDのみに適応
+S: sharp waves or spikes, or sharply contoured; RDAのみに適応

*Evolving:下図はLRDAが4Hz→3Hz→2.5Hzへと変化しています。

*Fluctuating:下図はLPDsで周波数が0.5-1Hz間で変動を認めています。

昔の呼び方と今回の呼び方の対応図は以下の通りです。

NCSEの診断

一般的にNCSEの診断では”Salzburg criteria”が使用されます。これは2013年に発表されてから、さらに修正が加わり今の形になっています。論文(Epilepsy & Behavior 49 (2015) 158–163)を読むと分かりますが、文字だけでの分類は極めてわかりにくいので、Lancet Neurologyで掲載されていた図がわかりやすいためここに書き加える形で記載させていただきます。

まず脳波上の基準では異常波形が10秒以上持続することが必要条件になっています。Spike, polyspike, Sharp wave, Spike(or sharp wave) and slow waveが2.5Hz以上で10秒以上持続すれば脳波基準ではNCSEに該当します。

Spike, polyspike, Sharp wave, Spike(or sharp wave) and slow waveが2.5Hz以下の場合とRDAが0.5Hz以上の場合は追加の基準が必要となります。具体的には“Evolution”があるか?、臨床徴候を伴うか?、抗てんかん薬投与により脳波・臨床所見の両方が改善するか?などが挙げられます。これらを満たす場合は脳波基準ではNCSEに該当します。

Ictal-Interictal Continuum

脳波が変化するなかでNCSEでは発作と発作間欠期を行ったり来たりする状態にあるとして、この状態を”Ictal-Interictal Continuum”と称します(J Clin Neurophysiol 2005;22: 79–91)。これ意味するのは脳波波形ごとにそれぞれ発作のリスクが異なるということです。この提唱がなされたときはまだTerminologyが古いものなのですが、下図の様な関係にあります(横軸が右にいくほど発作、左にいくほど発作間欠期を表し、縦軸は上に行くほど神経損傷リスクが高いことを表現しています)。

■持続脳波検査での波形と発作のリスク Rodriguez Ruiz A et al. Critical Care EEG Monitoring Research Consortium. Association of Periodic and Rhythmic Electroencephalographic Patterns With Seizures in Critically Ill Patients. JAMA Neurol. 2017 Feb 1;74(2):181-188

・4772人の重症患者において持続脳波を行い波形とてんかん発作の関係を調べた研究です。
・下図がわかりやすいため(縦軸が発作リスク、横軸が周波数)、下図をみながら解説すると、LPDは全ての周波数で、また”plus modifer”と関係なく発作と関係していました。またLRDAGPDは周波数が1.5Hzより速い場合もしくは”plus modifer”と伴う場合に発作と関係していました。
・一方でGRDAは発作との関係はありませんでした。

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参考文献
・久保田有一先生のご講演や記事 臨床神経生理学2019年47巻1号 特集「脳波が主役:意識障害・神経救急の診断学」より「神経救急の脳波学」 久保田先生のLectureは毎回天才的なわかりやすさで感動します。
・J Clin Neurophysiol 2013;30: 1 – 27 Terminologyと具体的な脳波はこちらから参照させていただきました。
・Pract Neurol 2018;18:291–305. NCSE mimicsのまとめ
・Hospitalist特集「内科エマージェンシー」 非痙攣性てんかん重積状態(NCSE)
疑うべき臨床所見,留意したい脳波検査の要点をつかむ 著:鈴木秀鷹先生、江川悟史先生