注目キーワード

髄液細胞数正常の細菌性髄膜炎

臨床は例外だらけですが、こと致死的な緊急性の高い疾患での例外にはいつも頭を悩まされます(大動脈解離が代表でしょうか・・・)。細菌性髄膜炎もご多分に漏れず、髄液細胞数が正常範囲内の細菌性髄膜炎が報告されています。このテーマに関して調べた内容をまとめます(細菌性髄膜炎の全体像に関してはこちらをご参照ください)。

髄液細胞正常の細菌性髄膜炎 Ann Emerg Med. 2021;77:11-18.

・ここでは髄液細胞数<10/μLを髄液細胞数正常範囲内と定義して(日本では<5/μLと定義することが多く違いに注意)、デンマークの市中発症細菌性髄膜炎のレジストリー(DASGIB database 2015-2018年の696例)の前向きコホート研究になります。この報告では全体の2%(12/696例)が髄液細胞数正常でした(内11例は髄液培養で、1例は髄液PCRで診断しています)。
・具体的な12例の内訳としては年齢中央値70歳(17-92歳)、8/12例男性、起炎菌は肺炎球菌10例、黄色ブドウ球菌1例、髄膜炎菌1例、菌血症は75%(9/12)、1例が敗血症性ショックでした。菌血症の患者のtrauma tapで血液が髄液に混入してしまったために髄液培養が偽陽性になった可能性に関しては髄液RBCが検出されたのは症例2,8,12(それぞれ16, 1, 299/μL)の3症例のみでした。
・過去の報告では免疫抑制者で髄液細胞数正常の報告が多かったですが、今回の12例はいずれも免疫抑制状態の症例は指摘できませんでした(好中球減少や白血球減少例も1例もありませんでした)。またうち3例は髄液細胞数が正常であったため市中発症細菌性髄膜炎のための治療を中断されたと報告されています。
・このように市中発症細菌性髄膜炎のうち2%が髄液細胞数が正常であり、必ずしも免疫抑制者に起こる訳ではないことが分かります。臨床的に細菌性髄膜炎を疑う場合は、髄液細胞数が正常でも治療を継続するべきといえるかもしれません(培養検査結果が出るまで)。またこの様な症例では24時間後にLPを繰り返し実施することで診断に有用かもしれません。

下図は髄液細胞数正常例12例と残りの681例の臨床上の違いをまとめた図になります。

細菌性髄膜炎で腰椎穿刺を繰り返す Clin Microbiol Infect 2016; 22: 428 – 433

・基本的に細菌性髄膜炎でLPを繰り返し実施する必要はありません(IDSAのガイドライン通り状態が改善しない場合は考慮、また細菌性ではないですがクリプトコッカス髄膜炎では圧を下げるために実施する)。
・オランダの市中発症細菌性髄膜炎のコホートを解析し、8%(124/1490例)で腰椎穿刺の再検がなされており、理由は臨床的悪化41例、頭蓋内圧上昇/水頭症19例、発熱持続もしくは再燃12例、臨床的改善を治療にもかかわず認めない7例、治療反応性のモニター7例、HSE疑い4例、初回の髄液検査結果が解離していたため5例、その他3例、不詳26例となっています。
・髄液細胞数<7/μLをここでは髄液細胞数正常と定義しており(先程の報告とは定義が違うため注意が必要です)、2%(30/1382例)で認めています。このうち8例(8/30例)が2回目のLPを実施しており、8例全例で細胞数上昇を認めています(中央値298/μL)。免疫抑制者は1例糖尿病患者、1例PMRに対してステロイド投与、1例化学療法による白血球減少がありました。。起炎菌は肺炎球菌4例、Streptococcus parasanguinis2例、インフルエンザ桿菌1例、Streptococcus agalactiae1例です。

髄液細胞数正常の細菌性髄膜炎に関するliterature review Can j Infect Dis Med Microbiol 2014;25(5):249-251.

・背景として小児や免疫抑制者、結核性髄膜炎などでは髄液細胞数正常の細菌性髄膜炎の報告がありますが、成人の細菌性髄膜炎での報告はまれとされています。
・以下が具体的なliterature review26例の中身であり、起炎菌は肺炎球菌11例、髄膜炎菌10例、大腸菌2例、Proteus mirabilis1例、リステリア1例、インフルエンザ桿菌1例となっています。この報告では5例で高齢、アルコール依存、脾臓摘出後などのリスクが指摘されていますが、その他は免疫抑制ではなかったとされています。

今までの内容から最後にTake home messageをまとめると以下になります。
・市中発症細菌性髄膜炎の約2%が初回髄液細胞数正常である。
・従来免疫抑制者で細胞数が少なくなることが指摘されてきたが、免疫抑制者でなくとも細胞数正常となる。
・臨床的に細菌性髄膜炎を疑う場合は、例え初回の髄液細胞数が正常であったとしても細菌性髄膜炎に準じた抗菌薬治療を診断が確定するまで継続するべきであり(治療を中断するべきではない)、フォローアップの腰椎穿刺を検討する。