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髄液オリゴクローナルバンド(OCB)って何ですか?

髄液中で抗体が産生されているかどうか?

「IgG indexとは何か?」という記事で解説した内容と一部重複してしまいますが、改めて解説させていただきます(IgG indexの記事はこちらをご参照ください)。

中枢神経で自己免疫機序の病態があると、中枢神経で自己抗体が産生されます(例えば多発性硬化症や自己免疫性脳炎など)。もちろん具体的な抗NMDA受容体抗体など抗体がわかっていればそれを測定すれば良いのですが、例えば多発性硬化症はそもそも多発性硬化症に特異的な抗体は指摘されていませんし、そもそも臨床でいきなりある特定の抗体を狙い撃ちすることは難しいことも多いです。そこで「中枢神経で自己抗体がそもそも作られているか?作られていないか?」を大まかに調べる検査が髄液オリゴクローナルバンド(OCB: oligoclonal band)です。

下図の様に中枢神経でのみ産生される抗体がある場合どのようにすればそれを証明することができるでしょうか?

ここでは「電気泳動」の原理を利用します。電気泳動はタンパク質を分子量で分けることができる手法で、これによって髄液中のタンパク質(その中には抗体が含まれる)を調べることができます。しかし、髄液中のタンパク質だけを調べても果たしてそれが血液中から移行したタンパク質か中枢神経で産生されたタンパク質かがわかりません(髄液中のタンパク質は1:血中からBBBを移行したもの、2:中枢神経で産生されたものの2通りあります)。このため血清のタンパク質も同時に電気泳動にかけて調べることで、髄液の電気泳動だけで検出されるタンパク質がないかどうか?(=中枢神経で産生されたタンパク質がないかどうか?)を調べる事ができます。「なんでオリゴクローナルバンドを提出するときに血液も一緒に提出しなきゃいけないのだろう?」と思ったことがあるかもしれませんが、それはこのような理由によります。

具体例

■オリゴクローナルバンド陰性の場合

中枢神経でタンパク質が産生されていない場合は下図のように髄液電気泳動のバンドと血清電気泳動のバンドは一致します。このことは髄液中のタンパク質はすべて血液からBBBを超えて移行したものであることを意味しています。

■オリゴクローナルバンド陽性の場合

その一方で中枢神経のみで抗体が産生されると血清電気泳動では認めないバンドを髄液電気泳動でバンドとして認めます(赤矢印部分が該当、対応するバンドが血清の部分にはない)。この実際が下図になります(この例は多発性硬化症の患者さん)。これの状態をオリゴクローナルバンド陽性と表現します。普段検査結果をただ陽性、陰性とだけ検査結果としてみているかもしれませんが、このように実際に電気泳動のパターンを自分の目で確認する作業も検査の意味を理解する上で大切です。

もちろんオリゴクローナルバンドは感度、特異度が100%の検査ではないので限界はありますが、前の記事で解説した”IgG index”と合わせて「中枢神経で特異的な抗体産生の病態があるかどうか?」を知るための重要な手がかりとなります。検査の意味を理解してオーダー、検査結果を解釈できるようになりたいです。