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Fabry病

Fabry病はαガラクトシダーゼA(α-Gal A)の酵素活性低下・欠損によるグロボトリアオシルセラミド(GL-3)のライソゾームへの進行性の蓄積が病態で、全身の細胞にこれらが蓄積することで臓器障害を引きおこいます。αガラクトシダーゼ遺伝子(GLA)はX染色体上に存在するため、X連鎖性劣性遺伝形式をとります(ヘミ接合体)。しかし、実際には女性でも症候性の場合もあります(症候性ヘテロ接合体)。

以下で各臓器ごとに臨床像を提示します。

*参考:ライソゾーム病まとめ

末梢神経障害と疼痛

障害される線維はsmall fiber neuropathy、分布はlength-dependentを呈することが多く、小児期に疼痛がFabry病の初発症状となる場合も多いとされています(2歳ごろから出現する場合がある)。疼痛は手掌、足底に左右対称に発症し、進行するにつれて近位へ伸展してくるとされています。熱、運動、疲労などで誘発されることもあります。症状としては2つタイプがあり、間欠的に焼けるような疼痛をきたす場合(”Fabry’s crises”とも表現されるようです)と慢性的な疼痛をきたす場合(肢端感覚異常: acroparesthesia)があります。年齢が上がるとともに疼痛が減弱する場合があることが知られており(11%)、これはsmall nerve fiberの障害が強くなりすぎることで機能を喪失してしまうことと関係しているとされています。このため疼痛が現在がなくても「過去に疼痛があったか?」どうかをきちんと問診することが重要です。

末梢神経障害の合併はFabry病の約80%に認めるとされます。神経所見では温度感覚が手足で低下し、特に寒冷への耐性が下がるとされています。

small fiber neuropathyを反映して自律神経障害をきたす場合もあります。small fiber neuropathyの鑑別としては以下のものが挙げられます(Journal of the Neurological Sciences 344 (2014) 5–19)。

■Fabry病の電気生理検査に関して Muscle Nerve 26: 622–629, 2002

22例のFabry病に関してまとめたもの。
・神経所見:深部腱反射(アキレス腱反射:20/22例で正常、2/22例で軽度低下)、筋力は全例正常、感覚低下は認めず、疼痛は20/22例で認めた
・神経伝導検査:基本的に正常、手根管でのentrapmentを示唆する所見が27%(6/22例)

・SSR(sympathetic skin response):95%(19/20例)で保たれている
・QST:温熱の閾値が上昇(足>手:length-dependentな障害を示唆する)、冷たさ(Aβ線維)の閾値の方が暖かさ(C線維)の閾値よりも障害される(下図参照)

脳血管障害

血管内皮細胞、平滑筋細胞へスフィンゴ糖脂質が沈着することで血管内腔狭小化をきたし、small vessel diseaseを呈することが特徴です。

■Fabry病患者のうちどのくらいが脳卒中を呈するか? Stroke. 2009;40:788-794.

Fabry病と脳卒中の関係に関しての論文で必ず引用される大規模な研究です。Fabry病のレジストリー(2446人)ではFabry病男性の6.9%(年齢39.0歳)、女性の4.3%(年齢45.7歳)に脳卒中を認めたとされます。女性でも4.3%に脳卒中を認めた点からheterozygousの女性でも注意が必要であることがわかります(男性の方が発症年齢が若いことからやはり男性が重症化しやすいことには変わりないですが)。

下グラフの通り同年代と比較して脳卒中の発症頻度が多いことが指摘されています。多くの患者では(男性70.9%、女性76.9%)は腎臓病変や心臓病変を脳卒中前に指摘されておらず、45.9%(男性50%、女性38.3%)でFabry病の診断前に脳卒中を呈したとされています。この様にその他の症状が目立たず脳卒中から発症するFabry病が一定数あることは認識しておくべきと思います。脳卒中は若年での原因不明の脳梗塞の原因として認識することが重要です。

■原因不明脳梗塞の中にFabry病はどのくらいあるか? Lancet 2005; 366: 1794–96

ドイツの18-55歳の原因不明脳梗塞患者721人を前向きにαガラクトシダーゼ活性を調べた研究です。この研究では全体の4%(28/721人)、男性の4.9%(21/432人)、女性の2.4%(7/239人)にα-GAL遺伝子の変異を認めています。これはこの年齢の脳梗塞全体の1.2%に該当するとされています。特徴としてはFabry病では後方循環の梗塞が多く(46.4% vs 21.4%)、中大脳動脈領域は少ない(32.1% vs 64.1%)特徴がありました。この研究では原因不明の若年脳梗塞ではFabry病の可能性を考慮するべきとされています。

■脳底動脈の蛇行・拡張”basilar dolichoectasia”がFabry病のMRA画像での特徴 

MRA画像で脳底動脈が曲がり、延長し、拡張していること”basilar dolichoectasia”がFabry病の特徴として有名です。

この論文(Neurology ® 2009;72:63–68)はFabry病患者25人とコントロール20人の頭部MRI画像を比較した研究で、脳底動脈の直径が2.67mmをcut off値感度95%、特異度83%を示しており、その他の指標いずれよりも優れていたことが示されています。

■慢性白質病変

虚血や加齢による慢性虚血性変化と同じ様にFabry病では白質病変を認める場合があり、部位としては深部白質、脳室周囲白質に通常左右対称性に認め年齢とともに増加する傾向があります。

50人のFabry病患者のMRI画像をまとめた報告では、白質病変を認めなかった患者は32%のみであり、54歳以上は全員白質病変を認めたと報告されています(下図Neurology. 1998;50:1746–1749.より引用)。

Pulvinar sign

Pulvinar signは両側(片側の報告もあり)の視床枕がT1WIで高信号を呈する所見で、Fabry病患者の約20%で認めるとされています(女性での報告は極めて少ない)。その他のCNS感染、化学療法後や放射線治療でも報告されており完全に特異的な所見ではないですが診断に有用な所見と思います。

心臓病変

左室肥大が特徴的な所見として挙げられ(下図傍胸骨長軸像エコー参照)、また不整脈や心不全、大動脈基部拡大などを認める場合もあります。左室肥大を反映した拡張障害が主体で、収縮は比較的保たれる傾向にあるとされています。

その他の臓器障害を伴わず心臓病変だけを呈する“cardiac variant”も存在するとされ、日本人男性230人の左室肥大中3%(7/230名)にFabry病を認めたと報告(N Engl J Med
1995, 333:288-293)されており(ちなみにスペインの肥大型心筋症508例中男性0.9%、女性1.1%でFabry病を認めたと報告:J Am Coll Cardiol 2007, 50:2399-2403.)、原因不明の左室肥大ではFabry病の可能性も考慮するべきと考えられます。

腎臓病変

まず最初はタンパク尿が出現し(20-30代から出現するとされています)、ネフロン障害が軽度のうちは残ったネフロンが代償的に働くことで腎機能は見かけ上保たれますが、ある一定以下にネフロン数がなってしまうと腎機能障害も進行していきます。心臓病変と同じく腎臓病変に関してもその他の臓器障害を伴わず腎臓病変だけが顕在化していく”renal variant”が存在することが指摘されています(日本人透析患者514人のうち1.2%(6/514人)がFabry病の診断で当初は慢性糸球体腎炎とされていた:Kidney International, Vol. 64 (2003), pp. 801–807)。

皮膚病変

angiokeratomas(被角血管腫):部位は皮膚のどこにでもできますが、一定の場所に集族する傾向があり、臀部、鼠径部、臍周囲、大腿などに認める場合が多いとされています(下図参照)。

皮疹に伴う症状はありません。Fabry病では体幹に認めることが多いことからびまん性体幹被角血管腫という名称もついています。早いと4,5歳から認め、学童期から徐々に数と大きさが増大していきます。血管腫という名前ですが毛細血管拡張が病態であり、血管拡張より表層の表皮の角化が亢進することで被角を認めます。参照:「ファブリー病の皮膚病変」BRAIN and NERVE 71 (4):354-359,2019

発汗低下・無汗症

汗腺自体もしくは汗腺を支配する自律神経障害により幼少期から認める場合があります(先天性の無汗症の原因として重要:Fabry病と先天性無痛無汗症が代表)。発汗障害に関してはこちらにまとめがありますのでご参照ください。末梢神経障害はlength-dependentな分布になりますが、無汗症は全身(顔面を含めて)に起こる特徴があります。

■Fabry outcome survey(FOS)での皮膚所見の疫学まとめ British Journal of Dermatology 2007 157, pp331–337

Fabry outcome survey(ヨーロッパ)のFabry病患者さん714例(男性345例、女性369例 38±18.1歳)の皮膚所見をまとめた報告です。1つ異常の皮膚所見を認めた患者さんは男性78%、女性50%に認め、最も多い皮膚所見は被角血管腫(男性66%、女性36%)、その他の多い所見としては低汗症(男性53% 23±17歳、女性28% 26±20歳)、無汗症(男性25%、女性4%)、毛細血管拡張(男性23%、女性9%)、リンパ浮腫(男性16%、女性6%)と報告されています。

リンパ浮腫もFabry病の特徴として重要で、non pitting edemaの病変がないかどうか検索が必要です。

眼病変

角膜混濁が有名な所見として挙げられ、特に下図の様な渦巻き状角膜混濁“Cornea verticillata”が特徴です。視力障害がなく無症候性であってもほとんどの症例で認めるとも報告されています。また白内障結膜血管や網膜血管の蛇行も報告されています(若年者では網膜中心動脈閉塞症が合併症として注意)。

■Fabry病の眼病変に関しての報告 Br J Ophthalmol 2007;91:210–214.

173例のFabry病眼精査をした症例まとめでは渦巻き状の角膜混濁”Cornea verticillata”が男性73.1%、女性76.9%と最も多く認め、その他血管の蛇行が男性48.7%、女性21.9%に認め、白内障を男性23.1%、女性9.8%に認めたとされています。

内耳病変

難聴(感音性)、めまいをきたすことがあります。

消化管病変

下痢、腹痛を認めます。

筋骨格病変

若年性の骨粗鬆症が多く報告されており注意が必要です。
・23例中20例(88%)でosteopenia/osteoporosisを認めたという報告もあります(Clin Genet 2005;68:93–5.)。
・53例のFabry病骨密度を調べた報告では約50%でosteopeniaを認めたとされています(Genet Med 2007;9:812–8).

無血管性大腿骨頭壊死の報告も複数あります(以下)。
・Orthopedics. 1993;16(4):471-473
・Arthritis and Rheumatism 2002;46:1922 58歳男性で大腿骨頭にGb3の沈着を証明した日本からの症例報告です(MRI画像は下図の通り)。

筋骨格病変に関して40例まとめた報告(Joint Bone Spine83(2016)421–426)では骨粗鬆症性骨折を男性は2/15例、女性は3/25例で認め、osteopeniaは男性1/15例、女性1/25例で認めたとされています。

■Fabry病の顔貌や骨格の異常に関してのまとめ Genet Med 2006:8(2):96–101.

38例の男性Fabry病患者さんの特徴をまとめています。以下の通りです:眼周囲の張り(periorbital fullness)87%、耳介の突出68%、眉毛が濃い66%、鼻の角度(nasal angle)が急61%、大きな鼻58%、前額部が凹んでいる55%、眼窩上が張り出している55%、唇が分厚い50%、鼻梁が突出50%、鼻翼部が広い36%、粗大な顔貌(coarse features)29%、耳が後ろに回旋11%、短指症43%、表在血管が目立つ30%、第5指短指症14%・斜指症3%、胸郭前後径短縮74%。

nasal angleは以下の通りでA,Bでは急ですが、Cは正常範囲内です。

以下Aは指の長さは正常範囲内ですが、B-Dでは短指症と指先が広い状態を呈しています。

検査

Fabry病の診断に関する検査

男性の場合はα-ガラクトシダーゼの酵素活性が低下していれば診断確定となります。女性の場合は遺伝子検査が確定診断に必要となります。

酵素活性は「乾燥ろ紙血」を用いた酵素活性測定が可能です。
参考:大日本住友製薬ホームページ https://ds-pharma.jp/disease/fabry/diagnosis/examination/

Fabry病の臓器障害検索

・採血検査
・尿検査:尿蛋白、沈渣(「マルベリー小体」というmulberry:桑の実の形に似た構造を尿沈渣で認める場合があります 下図参照:Intern Med 55: 3475-3478, 2016)

・骨粗鬆症
・眼科検査
・胸部レントゲン
・心エコー、心電図
・神経伝導検査
・頭部MRI・MRA検査:撮像条件は以下のものが推奨されています(Stroke. 2015;46:302-313.)。

治療

酵素補充療法

以下の2種類があります。
・α-ガラクトシダーゼ酵素製剤(リプレガル)
・β-ガラクトシダーゼ酵素製剤(ファブラザイム)

参考文献

・Orphanet Journal of Rare Diseases 2010, 5:30 おそらくFabry病のreviewとして最も詳しいもので、参考となる具体的な画像、絵、図がたくさんあり非常に勉強になります。

・ファブリー病診断治療ハンドブック2012 非常にわかりやすく、かつ詳しく書かれており、日本語なので大変ありがたいです。

・Stroke. 2015;46:302-313. Fabry病と脳血管障害に関してのreview