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神経サルコイドーシス 髄液検査

ここでは神経サルコイドーシスにおいて髄液検査が診断にどのくらい有用であるか?に関して調べた内容をまとめたいと思います。結論から申し上げると髄液所見はいずれも神経サルコイドーシスにおいて感度、特異度が十分ではありません。神経サルコイドーシスの診断ではやはり”Tissue is the issue”であり組織診断が欠かせません。

神経サルコイドーシスの髄液所見まとめ Neurology 2020;94:e2545-e2554.

85人の神経サルコイドーシス疑いのうちdefinite11人(14%)、probable69人(86%)。definiteの人数が多いことが多いことがこの研究の強みだと個人的には思います(他の論文では結構possibleを入れていたりdefiniteが0例だったりする場合があるので)。今回のcohortのうち63%は神経サルコイドーシスの前に全身性のサルコイドーシスの診断が付いており、28%はサルコイドーシスが神経症状から発症しています。

髄液細胞数上昇 63%(47/75例):細胞数中央値: 40/μL (5-320/μL) definiteの中では(>5/μL 82%: 9/11人、>50/μL 64%: 7/11人)、基本的にリンパ球。

蛋白上昇 62%(45/73例):蛋白中央値1100mg/dL(500-980mg/dL)、definiteは7/10例で蛋白が1000mg/dL以上

OCB陽性 3%(2/70例): definiteでは0例、probable 2/60例
*この報告ではOCBがNeurosarcoidosisとMSを区別するのに有用であると指摘しています。

髄液ACE 0%(0/27例):上昇はこのcohortでは0%

髄液検査とMRI検査異常の関係

■髄液ACEは感度、特異度ともに優れていない Journal of Neuroimmunology 285 (2015) 1–3

440人の神経サルコイドーシス疑いで髄液検査を実施した結果をまとめたもので、実際に神経サルコイドーシスの診断は9例あり。髄液中ACEの上昇は神経サルコイドーシスの診断において感度66.7%, 特異度67.3%であった。血液検査のACEもその有用性は高くないですが、髄液においても有用性はかなり低いといえます。

髄液sIL2Rは神経サルコイドーシス以外の疾患でも上昇する Neurol Neuroimmunol Neuroinflamm 2020;7:e725

neurosarcoidosis (n = 23), MS (n = 19), neurotuberculosis (n = 8), viral (n = 18) and
bacterial (n = 9) meningitis, cerebral lymphoma (n = 15), Guillain-Barr´e syndrome (n = 8), and
115 patients with nonin flammatory neurologic diseases (NINDs) as controlsにおいて血清と髄液中ACEを測定して検討した。結果のまとめは以下の通り。

この結果からわかるように結核性髄膜炎やCNS lymphomaでも髄液sIL2Rは上昇することがわかり、髄液sIL2R上昇はneurosarcoidosisに特異的な所見ではありません。1つ着目するべき点はMS患者では髄液中sIL2Rが上昇していた症例は1例もないという点が挙げられます。このことから活動期のMSと神経サルコイドーシスの鑑別には有用かもしれないことが示唆されます。

疾患活動性や髄液細胞数との相関関係を調べたものが下図です。

■髄液中CD4/CD8比はある程度有用 Acta Neurol Scand. 2020;142:480–485.

11例の神経サルコイドーシス(definiteはなく、probable7例、possible4例)とその他の神経疾患の髄液所見を比較した報告です。髄液中CD4/CD8比は神経サルコイドーシス 4.2 vsその他2.9と有意に神経サルコイドーシスで高い結果でした(P=0.024)。髄液中CD4/CD8比≧5でのPPV=40%, NPV=88%であり、髄液中CD4/CD8比≧5と髄液細胞数>3/μLを組み合わせるとPPV=57%, NPV=88%, Sp=95%となります。髄液中CD4/CD8単独では有用性はそこまで高くありませんが、髄液細胞数と組み合わせることで有用性が上がります。本研究では生検で診断がついた神経サルコイドーシス(definiteの基準を満たす)症例が1例もない点がlimitationとして挙げられると思います。

■神経サルコイドーシスのliterature reviewまとめ BMC Neurology (2016) 16:220

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このほかに髄液糖が低下することも神経サルコイドーシスではあるため非感染性の原因として注意が必要です。

以上神経サルコイドーシスの髄液所見に関してまとめました。髄液検査だけから神経サルコイドーシスの診断は出来ませんが、実臨床では逆に「ギラン・バレー症候群を疑ったけれど細胞数が上昇している場合で経過がややゆっくりの場合」や「多発性硬化症を当初疑ったけれど非典型的な場合」などに髄液所見が神経サルコイドーシスを鑑別に挙げてくれる場合があると思います。結局は生検が重要ですが、臨床情報と髄液所見、それから造影MRI検査と全身検索をあわせて生検へもっていくことが重要と思います。