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MDSとBehcet病

MDS(myelodysplastic syndrome)では免疫システムの破綻が病態に関与していることが知られており、MDSの10-20%に自己免疫疾患を合併すると報告されています。

自己免疫疾患を合併したMDS123例のまとめ Rheumatology 2016;55:291-300

MDS/CMLL合併した自己免疫疾患としては血管炎32%(PN12例、GCA9例、Behcet病6例:全体の4.8%に該当、クリオグロブリン血症3例、GPA1例)、CTD25%(再発性多発軟骨炎14例、SLE8例、抗リン脂質抗体症候群4例、筋炎3例)、好中球性皮膚炎10%(無菌性膿瘍1例、Sweet症候群9例、壊疽性膿皮症2例)、炎症性関節炎23%(PMR10例、RA4例、RS3PO4)、分類不能11%と報告されています(下図参照)。このように合併する自己免疫疾患としては血管炎が多く特にPNとGCAが特に多く報告されています。MDSに合併する自己免疫疾患をまとめた既報としては最大規模のものになります。

MDSに自己免疫疾患を合併した際の治療方法に関して確立したものはありません。この報告では83%が1st line therapyに反応(80%はステロイド単独)ましたが、50%の症例で2nd line therapyが必要になったと報告されています。MDSの治療としてはアザシチジンazacitidine(ビダーザ)使用例では3ヶ月後80%(9/11例)、6ヶ月後55%(6/11例)で治療反応を認めたと報告されています。これは今後MDSに合併する自己免疫疾患の治療として期待される点であり前向き研究が望まれると記載があります。免疫抑制剤の併用はMDSと相まって易感染性がひどくなる点が懸念ですが、MDSに治療介入することでMDSに合併した自己免疫疾患にも効果があるかもしれないという点はとても重要です。この点はその他の論文でも多く引用されています。下図は治療のながれのまとめです(Annals of Hematology (2018) 97:2015 – 2023)。

また自己免疫疾患を合併する場合と合併しない場合で予後には有意差はなかったと報告されています(下図)。

■Behcet病とMDS合併例のsystematic literature review Clin Exp Rheumatol 2015; 33 (Suppl. 94):S145-S151.

上の論文はMDS側からみたBehcet病の合併に関してですが、逆に「Behcet病側からみるとMDS合併例がどのくらいあるか?」に関して調べます。中国からの報告ではBehcet病にMDS合併例は2%(16/805例)に認めたと報告されています(BioMed Research International Volume 2018, Article ID 8535091, 8 pages)。全体としては0.4-3.1%程度と報告されており、そのほとんどが日本、また韓国、中国などからの報告です。

またMDSとBehcet病合併例でtrisomy 8をどの程度認めるか?に関してはこの報告では81.3%また別の報告では87%と報告されており、trisomy 8とMDS、Behcet病合併に関連があることが指摘されています(MDS全体ではtrisomy 8は7-9%に認めるとされています)。

Behcet病とMDS合併例の内で「trisomy8を有する場合と有さない場合で臨床上の違いがあるのか?」という点が次に気になるところです。この点に関して比較したものが下図になります。両群で唯一有意差があるものが発熱(79.5% vs 33.3%)となっています。有意差はついていませんが、”Vascular lesions”(血管病変)はtrisomy8群では認めていないのに対して、trisomy8群では15.4%に認めている点が個人的には気になるところです。

■MDSに合併したBehcet病の治療はどうするべきか? Annals of Hematology (2020) 99:1193 – 1203

MDSに合併したBehcet病の治療は通常のBehcet病の治療と同じでよいのか?という疑問に答えるための既報53例をまとめたliterature reviewです。この結果からは通常のBehcet病を対象とした治療(TNFα阻害薬、アザチオプリンやステロイドなど)は効果に乏しく、MDSをターゲットとした治療(アザシチジンなど)が効果が大きい考えられます。具体的にはステロイドは23/43人でしか効果がなく、TNFα阻害薬やアザチオプリンは”mainly unsuccessful”であったと報告されています。MDSを治療ターゲットとしてものでは、アザシチジンを使用した4/6例で”good response”が得られたとされており、その有用性が示唆されます。またHSCT(Hematopoietic stem cell transplantation)は9/13例で有用であったと報告されています。以下にMDSをターゲットとした治療法を行った症例のまとめを掲載します(MDS/Behcet病+血管炎の病態にアザシチジンを使用した報告はありませんでした)。

また治療とは関係ないですが、MDS/Behcet病は腸管病変を合併かつ重症化・致死的(出血や穿孔)になりやすいことが特徴として挙げらており、今回のliterature reviewでも7/54例で重症な腸管病変を合併し、3/54例で腸管穿孔を認めたと報告されています。当初はIBDと勘違いされてしまう場合もあるようで、MDSの徴候としてMCVが大きいことなどを見逃さない様にすることが重要だとされています。

以下では気になった症例報告を紹介します。

■大動脈炎を合併したMDSとベーチェット病症例(trisomy8はなし) Wang S, et al. BMJ Case Rep 2018. doi:10.1136/bcr-2017-220649

46歳男性、発熱、陰部潰瘍、左目の充血、胸痛を主訴に受診。採血結果は汎血球減少を認め、骨髄検査の結果myelodysplasia、遺伝子検査ではtrisomy 8は指摘できず。胸部大動脈弓部を中心に周囲の脂肪織濃度上昇を認め、大動脈炎を認めた。この症例ではビダーザは使用せずに、ステロイドを使用して治療をしていますが、治療経過の途中でStreptococcus mitis菌血症や肛門周囲膿瘍を認めております。

まだまだ途中段階ですが、今後もMDSとBehcet病に関して調べた内容をまとめていきたいと思います。