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発熱へのアプローチ:救急外来version

救急外来での発熱の鑑別は無数にあり、体系的なアプローチを持っていないとただ漠然と身体所見をとったり、肺炎と尿路感染症ばっかりを考えてしまうことになりかねません。ここでは普段私が救急外来で研修医の先生方と話している発熱へのアプローチを紹介させていただきます。(ちなみに入院患者さんでの発熱へのアプローチはこちらもご参照ください)

1:どこの臓器の感染なのか?

個人的には救急外来の発熱診療はどうしても忙しく時間が有限である点と鑑別が多岐にわたるため、完璧なアセスメントはやや諦めており、致死的な感染症を必ず除外することに注力するようにしています。致死的な感染症を除外するためには、1:そもそも致死的な感染症が頭の中でイメージできていることと、2:致死的な感染症に対して体系的にもれなくアプローチする方法の2点が必要になります。

私は患者さんの体を頭側から眺めて解剖学的に6つの臓器に分類(心臓・血液を除いて5つとすることもあります)して順番にアセスメントするようにしています。頭側から「中枢神経」・「肺」・「心臓・血液」・「尿路」・「腹部」・「皮膚・骨・関節」とアプローチして漏れがないようにします。基本的に救急外来で見逃してはいけない感染症はこの6つの臓器でほぼカバーされます。

特に「高齢者の発熱診療」では臓器特異的な所見に乏しく、一体どこから熱が出ているのか?とよくわからなくなってしまうことがありますが、救急外来でとりあえずこの6臓器と対応する感染症に関して身体所見などでアプローチして致死的な感染症を除外できればひとまず安心して病棟に上げることが出来ます。肺炎、尿路感染症の2つは救急外来の発熱で漏れることはないと思いますが、逆にこの2つだけしかアセスメントしておらず、他の腹部や中枢神経、皮膚・骨・関節などのアセスメントが全くなされずにとりあえず入院となってしまっているケースがしばしばあるため注意です。

人間は無限を相手にすると不安になりますが、有限な相手であれば不安は少なくなります。このようにアプローチする臓器を絞り1つ1つアプローチすることで医療者自身も安心して診療をすすめることができるように思います。

*参考:発熱診療での一般採血検査の意義

1:採血検査で感染臓器の推定に役立つのは肝胆道系酵素上昇による「胆管炎」のみ。(CRPが20 mg/dL以上だと「肺炎」となる訳ではない)一般採血検査は基本感染臓器の推定には役立に立たない。

2:臓器障害合併・重症度の判定に利用する。(肺炎の重症度判定:A-DROPに白血球数やCRPは含まれず、BUNが含まれている)

2:感染症による全身状態はどうなのか?

どこの臓器の感染なのか?だけではなく、感染症による全身状態の評価も重要な要素です。以下の3つの要素に特に注目します。

■1:菌血症(bacteremia)かどうか?

菌血症を予測するのは基本的に病歴で「悪寒戦慄 shaking chills」が最も重要です。基本的ですが、菌血症と敗血症を混同しないように注意です(こちらもご参照ください)。

■2:敗血症(sepsis)かどうか?

敗血症は「感染症による全身的な臓器不全状態」を表します。評価のためにはバイタルサインが何よりも重要で、qSOFAの3項目(以下)のうち2項目以上満たす場合を敗血症と判断します。
・意識状態の変化(GCS<15)
・呼吸回数≧22回/分
・収縮期血圧≦100mmhg

この中でも呼吸回数は特に重要で、必ず確認したいです(呼吸回数の重要性に関してはこちらもご参照ください。

■3:組織還流障害(shock)があるか?

ショック”Shock”とはただ単に血圧が低いという状態ではなく、「循環障害により、組織の酸素需要と酸素供給のバランスが崩れている状態」を表します(ショックにかんしてはこちらもご参照ください)。つまり、「ショック」は血圧が〇〇mmHg以下ならショックと診断する訳ではなく、組織還流不全を呈する症候群であって、あくまでも臨床的に診断します”Shock is a clinical syndrome”。

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そして、具体的に組織還流不全の徴候をとらえることが出来る臓器は3つあり、「中枢神経(意識変容・意識障害)」、「腎臓(尿量減少)」、「皮膚(冷感・網状皮斑)」が挙げられます(これは現場でいつも使えるようにぱっと答えられることが重要です)。

検査では血液ガスの乳酸(Lactate)が指標となります。おそらく普段血圧低値の患者がショックとして介入が必要かどうか判断に迷うことがよくあると思いますが、バイタルサインに加え身体所見3点+血液ガス乳酸値をすぐに確認し組織還流不全の徴候があるかどうかを確認することが重要です。

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いままで菌血症らしいか?敗血症らしいか?ショックらしいか?の3点に関して着目しました。それぞれ、病歴(悪寒戦慄)、バイタルサイン、身体所見(+血液ガスでのLac)が対応していることがわかります。この3点に関して発熱診療の際には毎回もれなく確認する習慣をつけたいです。

この3点の評価によって患者さんの全身状態を評価出来、管理の方針が決まってきます(つまり敗血症性ショックとして対応するのか?通常の抗菌薬治療だけでよいのか?など)。

3:起炎菌は何か?

起炎菌の推定には何よりもグラム染色と各検体の培養、また血液培養検査が重要です。

4:患者背景は?

今までの要素に加えてやはり患者背景も必ず考慮しないといけません。高齢者はやはり各臓器所見も非特異的になり急変リスクも上がるためリスクになりますし、ステロイド使用者は炎症所見がマスクされるためやはりリスクが高くなります。化学療法患者ではFNのリスクがあれば、甲状腺機能亢進症患者で抗甲状腺薬を内服している場合は無顆粒球症のリスクもあります。これらリスク因子を考慮した上で入院が必要か?なども考慮が必要です。

まとめとしてこれらの要素を考慮しながら発熱患者にアプローチします。