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FAP: familial amyloid polyneuropathy 家族性アミロイドポリニューロパチー

病態

FAP(familial amyloid polyneuropathy):家族性アミロイドポリニューロパチーはアミロイドが末梢神経を含む全身の臓器に沈着する遺伝性の疾患です。

アミロイドの前駆蛋白により分類され、transthyretin(TTR)、apolipoprotein A-1、gelsolinが挙げられます。この中で最も頻度が多いのはFAP ATTR Val30Metで、アミノ酸配列の30番目のバリンがメチオニンに変異したトランスサイレチンがアミロイドの前駆体となるタイプです。ここではTTR-FAPを扱います(TransthyretinはTransport, thyroglobulin, retinolが名前の由来です)。遺伝形式はADです。

臨床像からはⅠ~Ⅳ型の4つの病型に分類され、Ⅰ型が最も多いです。
Ⅰ型:下肢から発症、Ⅱ型:上肢から発症、Ⅲ型:腎障害優位、Ⅳ型:脳神経障害優位

*参考:アミロイドーシスの分類を以下にまとめます。

疫学

日本では長野県小川村と熊本県荒尾市が2大集積地として有名です(下図Arch Neurol 2002;59:1771より引用)。

症状

■末梢神経障害

末梢神経の障害パターンとしてはlength-dependent sensory-motor polyneuropathyに該当します。最初の症状としては足の不快感や痛みから始まり、神経診察では温痛覚障害、表在覚低下を認めます(small fiber neuropathy)。深部感覚は保たれることが多く、表在感覚の障害と解離した解離性感覚障害を認めることが特徴です。経過の中で大径の感覚神経も障害され、深部感覚障害も伴います。感覚障害は足から膝、上肢へと上行していきます。

運動障害もlength-dependentの形式で障害されていきます。

神経痛は焼けるような痛みで夜間に悪化し、allodyniaを伴うこともあります。

手根管症候群を高率に併発していることも知られており、手根管症候群が診断の契機となる場合もあるため常に注意が必要です(こちらのまとめをご参照ください)。

■自律神経障害

自律神経障害を効率に認めることがFAPの特徴として重要です。自律神経障害に関してはこちらもご参照ください。

■心筋障害

拘束性障害や房室伝導障害、不整脈、失神などを呈します。

■眼

10%に眼病変(硝子体混濁)による進行性の視力障害認めるとされています。

■腎臓

ネフローゼ症候群を呈する場合や進行性の腎機能障害を呈する場合があります。

■ALアミロイドーシスとの臨床像の違い

以下にALアミロイドーシス、遺伝性ATTR FAP、野生型ATTR FAPの臨床像の違いをまとめます。

■若年発症と高齢発症での臨床像の違い

若年発症例(n=82)と高齢発症例(n=59)で臨床像が異なることが指摘されています。若年発症例で家族歴があり(94%)、解離性感覚障害(76%)を呈し、自律神経障害が多い(48%)ですが、高齢発症例では家族歴がない場合もあり(家族歴ありが48%)、男性に多く(4.36 : 1)、感覚障害は表在感覚、深部感覚いずれも障害され(69%)、自律神経障害はあまり起こらない(10%)ことが指摘されています。

このような臨床像の違いから高齢発症では遺伝歴がはっきりしないと、原因不明のニューロパチーとなってしまう場合があるため注意が必要です。家族歴が明確な場合は遺伝子検査で診断が容易ですが、家族歴がはっきりしない場合は原因がわからない進行性の軸索障害主体のポリニューロパチーや、特に自律神経障害を合併する場合、心筋障害を合併する場合、手根管症候群を合併する場合は積極的にFAPを疑う必要があります。生検でのアミロイド沈着を証明することが診断に必要となってきます。

検査

神経伝導検査:small-fiber neuropathyが主体ですと当初はSNAP amp低下がはっきりしない場合もあります。

自律神経障害評価:Head up tilt試験、MIBG心筋シンチ

心臓:心エコー、ホルター心電図、ピロリン酸心筋シンチ, BNP,Troponin

*ピロリン酸シンチ Tc-99m PYP SPECT:TTR-FAPでは集積を認めますが、ALアミロイドーシスでは集積を認めないことから鑑別点となります(下図はJ Am Coll Cardiol 2016;68:1323–41より参照)。

皮膚科:QSART(自律神経障害評価の一貫)

眼科:硝子体混濁ないかどうか?

生検:神経生検 アミロイドーシスは神経生検の適応として重要です

*造影MRIは検査では軟髄膜に造影効果を認める場合もあります:Sarcoidosis, Amyloidosis, Lymphoma, 結核(tuberculosis)

診断

家族歴がある場合は診断はさほど難しくないですが、問題は家族歴がない場合の孤発例です。これは先程提示したように高齢発症のことが多く、高齢発症での原因不明のニューロパチーでは必ずTTR FAPを鑑別に挙げる必要があります。

FAPは当初CIDPと誤診される場合が最も多いとされています(孤発例TTR FAP90例のうち18例は当初CIDPと診断されていた Neurology ® 2007;69:693–698)。FAPでも髄液蛋白は上昇し、また神経伝導速度は低下しうるためこのような場合はCIDPとの区別が当初難しい場合もあります。やはりCIDPは診断にかなり慎重になるべきで、IVIGなどの治療に抵抗性の場合も常に診断を考え直すべきと思います(CIDPに関してはこちらをご参照ください)。

神経生検でアミロイド沈着を認めないからといってFAPは否定できない点に注意が必要です(アミロイドはランダムに組織に沈着するため)。神経生検でアミロイド沈着を認めない場合も、遺伝子検索をするべきとされています。

治療

肝移植:TTRが主に肝臓から産生されるため、進行を止めるもしくは遅らせる治療として肝移植が確立しています。しかし、発症早期に導入することが重要なので、やはり早期診断が鍵となります。

タファミジス(商品名:ビンダケル)

血漿中に4量体として存在するTTRに結合して安定化させることで、アミロイド線維の形成や組織への沈着を抑制する効果を持ちます(上図参照)。TTR-FAPの心アミロイドーシスに適応があります。
処方:ビンダケル80mg 1T1x朝食後

パチシラン(商品名:オンパットロ)

siRNA薬で肝臓でのTTR産生を抑制する働きを持ちます(上図参照)。
処方:3週間に1回点滴静注

対症療法:神経痛に対してガバペンチン、プレガバリン、デュロキセチンなどが使用されます。TCAは起立性低血圧を増悪する可能性があり注意が必要です。

参考文献

・Lancet Neurol 2011;10: 1086–97 FAPのreviewでたいへんわかりやすくまとめられています。

・Neurology ® 2007;69:693–698:FAPの誤診に関するまとめです。

・Arch Neurol. 2005;62:1057-1062

・J Neurol Neurosurg Psychiatry 2015;86:1036–1043.

・JAMA. 2020;324(1):79-89 アミロイドーシス全般に関する最新のreview