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CANVAS: Cerebellar ataxia with neuropathy and vestibular areflexia syndrome

病態

Cerebellar ataxia with neuropathy and vestibular areflexiasyndrome(CANVAS)は両側の前庭機能障害,小脳失調、感覚神経障害の3徴とする症候群で報告されたものです。2011年に疾患概念が提唱されまだ歴史の浅い疾患です(Neurology 2011;76:1903-1910.)。

遺伝子としては4p14に存在するRFC1(replication factor C1)遺伝子の両アレル性AAGGG repeat の異常伸長が指摘されています(J Hum Genet. 2020 May;65(5):475-480.)。

病理では小脳虫部(前部、背部)の萎縮、後根神経節のneuronal loss、頸髄後索の神経脱落が指摘されています。

以下の項目を調べていきます。

臨床症状

3徴がそろえば診断は本疾患を知っていればそこまで難しくないかもしれませんが、3徴がそろわない段階では診断が難しく、3徴がそろうまでに10年以上かかることもあることが報告されています。

家族歴は45%に認め、発症年齢は52(19-76)歳と報告されています。

神経学的診察ではRomberg兆候陽性83%、構音障害40%、眼振55%、broken pursuit42%、dysmetric saccades41%、head impulse test異常87%に認めています。

感覚障害は触覚低下が顔面22%、上肢55%、下肢74%で認め、振動覚障害を上肢41%、下肢84%で、位置覚障害を上肢10%、下肢48%で認めています。

筋力低下を認めた症例はありません。

協調運動はfinger nose:49%、heel-knee:52%で障害を認めています。

これらの神経症状に咳嗽が先行することも特徴とされており、迷走神経障害が機序として推定されています。その他異痛症、異常感覚、自律神経障害(発汗低下、起立性低血圧)を呈することも特徴とされています。小脳失調と前庭障害、また深部感覚障害にさらに起立性低血圧が加わると転倒のリスクが非常に上昇するため注意が必要です。

3徴の小脳失調(下図CBM)、前提機能障害(下図VS)、末梢神経障害(下図PN)の頻度をまとめたものが下図です。Aは症状と兆候で、Bはそれに検査を加えたものです。検査をくわえるとより3徴を満たす患者数が増加する(46→66)ことがわかります。

検査

神経伝導検査

CMAPはほぼ正常範囲内で、SNAP ampの低下を認めます。病理でも指摘されていますが、後根神経節の障害を反映しています(neuronopathy)。臨床的には感覚障害がはっきりしない症例でも、SNAP ampが低下していた症例も報告があります。

■前庭機能検査

下記はvHITで両側前提機能低下を認めています。

画像検査

小脳虫部の萎縮を認め(報告では63%に認めたとされています)、CrusⅠの萎縮も認めます。

■診断

以下が診断基準として提唱されています。前庭機能障害、小脳失調(臨床+画像)、感覚障害(神経伝導検査)他疾患の除外・遺伝子検索(特にSCA3, Friedreich ataxia)の4点によって診断します。

鑑別診断としては以下のものが挙げられています。特に脊髄小脳変性症のSCA3,6などの除外はCANVASの診断に必要と思います(上記の診断基準にも組み込まれています)。

原因不明の小脳失調で末梢神経障害を伴う場合、咳嗽を伴う場合などは本疾患を想起するべきと思いました。また前庭機能障害に関しては病歴だけからはなかなか難しい場合もあるため、積極的に神経耳科検査を耳鼻科の先生方と協力して行う必要があると思いました。

参考文献

・Brain 2020;143:480 臨床的特徴を最も幅広く調べている

・Neurol Clin Pract 2016;6:61–68 診断基準の提唱

・Journal of Vestibular Research 24 (2014) 465–474 わかりやすいreview

・臨床神経 2019;59:27-32 日本からの症例報告