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異常蛋白血症に伴う末梢神経障害 Paraproteinemic neuropathy

異常蛋白血症(paraproteinemia)とは?

まず基本的なおさらいですが、形質細胞由来の免疫グロブリンはHeavy chain(H鎖)Light chain(L鎖)の2つから構成されています。H鎖はIgG,IgA, IgM, IgD, IgEの5種類があり、L鎖はκλの2種類があります。これらが組み合わさることで免疫グロブリンを構成しています。そして、このうちある一種類の免疫グロブリンが異常に産生されたものをM蛋白(M-protein)と表現します。

M蛋白血症を捉える方法として免疫電気泳動(IEP: immuno electropheresis)、免疫固定法(IFE: immunofixation electropheresis)が挙げられ、後者の免疫固定法の方がより有用とされており(前者で検出できなくて、後者で検出できる場合がある)重要です。M蛋白血症は検査の発展とともにより認識されるようになってきている歴史的背景があります。

これ以外にも尿中免疫固定法、FLC(free light chain)の同定、κ/λ比などがM蛋白血症の診断に有用です。

M蛋白血症をきたす原因は多発性骨髄腫、Waldenstorm macroglobulinemia、MGUS、POEMS症候群、ALアミロイドーシス、悪性リンパ腫などなどさまざまです。

これらM蛋白血症により末梢神経障害をきたすことがあり、末梢神経障害の鑑別として極めて重要です。ただ、M蛋白血症は50歳以上の3.2%、70歳以上の5%に認めるとされており、末梢神経障害の患者さんにM蛋白血症が存在していたとしても、末梢神経障害の原因がM蛋白血症とは限らず「M蛋白血症が本当に末梢神経障害の原因か?」どうかを調べることが重要です。

分類

各疾患とM蛋白、末梢神経障害、神経伝導検査の特徴を対応関係にまとめたものが下記の通りです(Continuum (Minneap Minn) 2014;20(5):1307–1322.より参照)。

具体的な診断アプローチのアルゴリズムに関しては下図があります。

MGUS (Monoclonal Gammanopathy of Undetermined Significance)

MGUSは年に1%ごとの多発性骨髄腫に移行するリスクを有しています。MGUS全体としてはIgGが最も多いですが、末梢神経障害を最も合併するのはIgMです。特にIgM-κ型は50%において抗MAG抗体を有し、抗MAG抗体関連ニューロパチーを呈します。IgM関連のニューロパチーは分子量が大きいためBNBが生理的な脆弱な神経終末を選択的に攻撃することで、神経伝導検査では遠位潜時の著明な延長が特徴です。

■多発性骨髄腫

5-20%程度に末梢神経障害を合併し、電気生理的には未治療の多発性骨髄腫の39%に末梢神経障害を合併するとされています。感覚、運動、感覚運動どのパターンもあり、長さ依存性に神経を障害し、緩徐進行性の経過をとります。また多発性骨髄腫では治療関連の末梢神経障害も合併し、化学療法を受ける患者の65%が障害されるとされています。

■POEMS症候群

POEMS症候群に関してはこちらに詳しくまとめましたので、ご参照いただければと思います。

■アミロイドーシス

形質細胞増殖性疾患でL鎖が不溶性のβシートとして様々な臓器にb沈着する疾患です。診断が難しいため、末梢神経障害で手根管症候群を伴う場合、心筋障害を伴う場合、ネフローゼを伴う場合、体重減少や疲労を伴う場合などにALアミロイドーシスを考慮します。L鎖はλ型がほとんどで、診断には生検が重要です。また自律神経障害の合併が特徴として挙げられます。

参考文献

・Curr Opin Neurol 2019, 32:658–665:paraproteimeniaのreview

・Continuum (Minneap Minn) 2014;20(5):1307–1322.