Trousseau症候群による脳梗塞

病態

Trousseau症候群は腫瘍に伴う過凝固状態による塞栓症を表しますが、文献によってはこの表現は使用さえておらず、pub medでもhitする数は少ないです。腫瘍由来の過凝固状態には多段階の機序が作用しているとされており(下図はBlood. 2007;110:1723-1729より引用)、抗凝固療法もDOACやワーファリンでは不十分で多段的に作用する未分画ヘパリンが有用とされています(実際にヘパリンから他の抗凝固薬に切り替えた瞬間に塞栓症が再発することは臨床上よく経験されると思います)。

脳梗塞もその代表的な塞栓症でここで取り上げます。多発脳梗塞を認めたときの鑑別は1:心房細動、2:感染性心内膜炎、3:Trousseau症候群をまず考慮します(もちろんこれ以外の粘液腫心原性や好酸球増多症、コレステロール塞栓症なども挙げられます。腫瘍による過凝固状態により塞栓症が腫瘍が指摘されるよりも前に先の症状となる場合もあります。

検査

D-dimer上昇

多発脳梗塞の原因がTrousseau症候群か?心房細動によるものか?においてD-dimerは参考所見となります。日本の藤田保健衛生大学からの報告(1409人の脳梗塞患者において 38人:Trousseau症候群、35人:心房細動を比較 doi: 10.3389/fneur.2018.00528)では、Trousseau症候群が原因によるものは最初、経過いずれも心房細動群と比較してD-dimerが高値であることが指摘されています。

最初:Trousseau症候群(8.45 ± 1.79 µ g/mL, n = 38) vs 心房細動群(1.14 ± 0.14 µ g/mL, n = 35) *p<0.0001  カットオフ値:2.0μg/mL Sn:71.1%, Sp:82.9%

経過:Trousseau症候群(11.20 ± 2.77 µ g/mL, n = 21) vs 心房細動群(0.48 ± 0.12 µ g/mL, n = 24) *p<0.0001 カットオフ値:1.3μg/mL Sn:95.2%, Sp:95.8%

頭部MRI所見

“three terirtory sign”:前方循環の左右両側+後方循環領域の計3か所にMRI-DWIで病変を認めることがTrousseau症候群に特異的であるという報告(Neurology: Clinical Practice April 2019 vol. 9 no. 2 124-128)。(AJNR Am J Neuroradiol 37:2033–36 Nov 2016に初めに報告されています。)

単施設後ろ向きの検討で、trousseau症候群による多発脳梗塞64例と心房細動による脳梗塞167例で、DWIでの信号変化の領域を検討。“three territory sign”はtrousseau症候群23.4%(n=15) vs 心房細動 3.5%(n=6)と有意にtrousseau症候群で多く、trousseau症候群に関して感度23.4%、特異度96.4%と感度は低いものの、特異度が高いことが報告されています。ここでの”three territory sign”を呈した背景腫瘍は肺癌(n=6)、消化管(n=5)、その他乳がん(n=1)、腎臓(n=1)、子宮頸がん(n=1)、リンパ腫(n=1)となっています。

MRI-DWI patternはtrousseau症候群の診断に有用であり、原因不明の多発脳梗塞で”three territory sign”を認めた場合は、腫瘍検索をするべきと論じられています。

Trousseau症候群は脳梗塞の原因としても、担癌患者さんの予後を規定する因子としても(今後化学療法を継続できるのか?)とても重要です。特に今までが腫瘍が未指摘の患者さんが脳梗塞で受診することがあったばあい、これらD-dimerやThree territory signなどを参考にTrousseasu症候群を疑い、腫瘍検索をきちんと行うことが重要です。また勉強した内容をup dateしていきます。最近投稿がとぎれとぎれになってしまい申し訳ございません。

“Trousseau症候群による脳梗塞” への6件の返信

  1. 臨床的に非常に重要な症候ですよね、いつも分かりやすくまとめて頂き有難うございます。
    Three territory signは最近注目されている画像所見かと思いますが、自験例ですと意外とAfなど他の疾患でも多く認められるように思います…特異度96.4%もあるのかなというのが本音のところです(嘘を言っていたらすみません、あくまで私の印象です。施設毎の差もあるのかもしれません)。

    膵癌末期、Trousseau症候群の方でご家族にヘパリンCa皮下注を指導して在宅治療に移行した例もあります。再発を起こさずに最期を自宅で迎えられましたが、当初緩和ケアの先生から注射の継続に対して理解が得られず説明に苦慮しました。DOACやWfに移行する例もございますが、ご指摘の通り切り替えた瞬間にひどい再発をする経験もあり再発予防はいつも悩ましいです。DOACに切り替えて全然再発しない患者もいますが。先生の御施設ではどのような治再発予防を取られているか宜しければご教授頂ければ幸いです。

    1. コメントいただき大変ありがとうございます。
      ご指摘の通り私もthree teritory signは正直びっくりしました。先生のご指摘の通り心房細動でももう少しあってもよいような印象が個人的にはあります。

      私も先生と同じくできるだけ在宅でのヘパリン皮下注射を選択するようにしております。皮下注射を繰り返すという点がご指摘の通り緩和的に躊躇されることもあるかもしれませんが、今まで患者さんが皮下注射で苦痛で大変であったという経験はございません。やはりワーファリンもDOACもかなり折衷的なので、脳梗塞後の機能予後がよい場合は積極的にヘパリン皮下注射を継続する方針がよいと考えています。実際にはもう予後が厳しく、ヘパリン皮下注射も難しい場合はワーファリンで折衷的に対応する場合も多々ございます。良い方法があればよいのですが・・・・。

  2. 先生もヘパリン皮下注射を選択するケースが多いのですね、在宅診療もして頂いている先生からコメントを頂きますと大変説得力があります。私も機能予後が良い場合はそのように対応したいと思います。

    先生の記事の更新の速さと、それを継続する努力にはいつも驚くばかりです…私も中堅になりましたが、もっと先生のように貪欲に知識を吸収していかなくてはと毎日刺激を受けております。
    大変お忙しい中コメントを有難うございましたm(_ _)m

    1. 針の管理などやや大変な点もございますが、可能と思います!

      とんでもないです。最近記事の更新が鈍ってきているので申し訳ございません・・・・。
      こちらこそいつも先生に臨床経験などをご教授いただき大変勉強させていただいております!いつもありがとうございます。
      今後ともどうぞよろしくお願いします。

  3. 元気ですか?私はだいぶのびのびとやってます!
    血管支配に沿わない多発脳梗塞:ちょっと誤解を生むかも。
    良くMELASやてんかんなどの病変分布は動脈支配に沿わない(複数の動脈領域に跨って病変が出る)見たいに使いますよね。
    脳梗塞なので、動脈支配には沿うのでしょうね。単一の血管閉塞では説明が難しいとかそういうニュアンスかな?

    1. 先生大変ご無沙汰しております!コメントいただき大変ありがとうございます。
      はい元気に過ごしております、ありがとうございます!
      ご指摘の通り「血管支配に沿わない」という表現は意味不明ですね・・・・ご指摘ありがとうございます。早速訂正させていただきました。
      お気づきの点コメントいただき大変ありがたいです。今後もご指導いただけますと幸いです!!

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