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幻視 visual hallucinations

1:幻覚と錯覚の違い

幻覚(hallucination)は実在しないものを認知してしまう現象で、どの知覚で認知するかによって「幻視:視覚で認知」(Visual hallucination)、「幻聴:聴覚で認知」(Auditory hallucination)、「幻臭:嗅覚で認知」(Olfactory hallucination)、「幻触:触覚で認知」(Tactile hallucination)と分類されます。ここではその中でも幻視(Visual hallucination)について扱います。幻視は例えば誰もいないのに、人が見えるような現象です。

精神科疾患では幻覚を呈することが多いですが、一般的には幻覚の中でも幻聴(auditory hallucination)が多いとされます。これだけで精神科疾患かそれ以外かの鑑別は出来ませんが参考になる情報です。

幻覚とよく混同されるのが錯覚(illusion)で、これは既に存在しているものを間違って認知してしまう現象のことです。これもどの知覚で認知するかによって名前が代わり、視覚によるものは「錯視」と表現します。例えば壁のしみが昆虫に見えるような現象を表します。(個人的には日本語の幻覚と錯覚という言葉は似ていて紛らわしいので、hallucination, illusionと英語で表現して分けています。)

2:幻視へのアプローチ

幻視を呈する患者さんには以下の点からアプローチします。

1:幻覚内容が”Simple”か”Complex”か?
2:両眼か?視野の全体か?幻覚内容が移動するか?
3:持続時間・発作頻度
4:病識(幻覚を幻覚と認識できているか?)
5:誘因
6:随伴症状

1:幻覚内容 “Simple” or “Complex”

“Simple”とは光、色、線、形、幾何学模様などのことをさします。一方で、”Complex”とは人、動物などのことをさします。

幻視の原因疾患によって、幻視内容が”Simple”を呈するものもあれば、”Complex”を呈するものもあり、かなり鑑別に有用です。例えば片頭痛では幻視内容は”Simple”で、人や動物が見えることは基本的にありません。逆にレヴィ小体型認知症では、幻視内容は”Complex”で、通常は人がいる、子供がみえることが多いですが、ただの模様が見えることは少ないです。

以下は”Simple”の例として後頭葉てんかんによる幻視をスケッチされたものを載せます(J Neurol Neurosurg Psychiatry 1999;66:536–540)。

2:両眼か?視野全体か?

網膜剥離などの眼科疾患が原因の場合は片眼だけの問題ですが、その他の脳由来の場合は通常両眼で認めます。複視でも同じアプローチをしますね。

3:持続時間・発作頻度

持続時間・発作頻度が役立つのは主に片頭痛、後頭葉てんかんの場合です(詳細を後述します)。その他の疾患では大きく鑑別に役立つことは少ないです。

4:病識

幻視内容をあくまで幻として認識することが出来るかどうか?が病識です。これは疾患だけでなく、随伴症状として意識変容を伴うかどうか?と元々背景に認知機能障害があるかどうかに大きく影響を受けます。

例えば片頭痛では通常意識変容はないですし、日常生活中に起こるので病識は保たれいます。レヴィ小体型でも認知機能障害が強くないと幻視内容を客観的にとらえて無関心の場合がありますが、認知機能障害がすすむと幻視内容を幻として認識できずにおびえてしまったり、妄想につながったりして日常生活に支障をきたしてしまいます。

5:誘因

片頭痛の場合は疲労、睡眠不足、食事など、またレビュー小体型では薬剤変更なども誘因となります。

6:随伴症状

せん妄の場合は意識変容、見当識障害を伴います。またアルコール離脱の場合は自律神経障害を伴うなど随伴症状の有無は極めて重要です。

3:原因

以下に幻視を呈する鑑別を載せます。太字で表記したものは日常臨床で遭遇頻度の多いものです。

これらを先の特徴別にまとめると下図になります。

特に鑑別が難しい片頭痛と後頭葉てんかんの鑑別を下でまとめます。

4:片頭痛と後頭葉てんかんの鑑別

幻覚内容が”Simple”であるものの代表は「偏頭痛」「後頭葉てんかん」です。この両者は頭痛があれば偏頭痛と簡単に鑑別することはできません。片頭痛でもauraのみで頭痛がないものもありますし(私も片頭痛持ちですが、auraのみで頭痛に至らないことを経験します)、後頭葉てんかんも発作後は頭痛を呈することが多いため、頭痛の有無は鑑別には役立たない場合が多いです。

幻覚内容での鑑別点としては、片頭痛では光やぎざぎざした幾何学模様のような物が多いですが、後頭葉てんかんではカラフルな円形の物が多い特徴があります。

片頭痛は以下の例です(Brain. 2007; 130: 1690~1703)。

後頭葉てんかんの例は下図の通りカラフルで円型が多いです(Neurology. 1997 Nov;49(5):1479-80.)。

持続時間は片頭痛は数分~長くても1時間とされますが、後頭葉てんかんでは数秒~2,3分と非常に持続時間が短いことが特徴です。発作頻度も後頭葉てんかんの方が片頭痛よりも多いとされ、連日認める場合もあります。片頭痛は誘因が有名ですが、後頭葉てんかんでは明らかな誘因なく発作が起こる場合が多いです。

以下に鑑別点をまとめます。

5:レヴィ小体型認知症・パーキンソン病での幻視

パーキンソニズムを呈する疾患の中ではレヴィ小体型認知症パーキンソン病が幻視を呈する原因の代表です。レヴィ小体型認知症では早期からの幻視が特徴で、パーキンソン病は病気が進行してから出現し早期にあることは珍しいとされています(パーキンソン病では15~75%に幻視を認めるとされる)。

その他の多系統萎縮症、進行性核上性麻痺、大脳皮質基底核変性症では幻視を認めることはまれ(約7%)とされており、幻視の有無は鑑別に有用です。進行性核上性麻痺ではドパミン作動薬を使用しても幻覚は起こりにくいとされており、また大脳皮質基底核変性症でも稀とされており、多系統萎縮症では5~9%に起こるとされています。

レヴィ小体型認知症、パーキンソン病での幻視内容は“Complex”で、人間や動物などが見えます。初期には誰かがいる感じがする”Extracampine hallucination”という訴えもありますが、これは注意深く問診しないと患者さんから話してくれない場合もあります。薄暗い環境や夜間に眼を開けた状態で幻視を訴える場合が多いです。「じっと見ると逃げてしまう」、「顔だけが良く見えない」、「屋根裏に隠れていて、ときどき顔をだす」、「子供たちが庭で遊んでいる」などその表現は様々です。

幻視に対する病識が保たれている場合はたとえ幻視があっても日常生活には大きな影響はきたさないため問題ありません。しかし、認知機能障害を並存しており病識が障害されると、幻視を現実の物と信じてしまい妄想につながる場合もあり日常生活に支障をきたす場合があります。病識があるか?日常生活に支障をきたすか?妄想につながるか?という3点が幻視に対して治療介入が必要かどうかの重要なポイントです。

またパーキンソン病の治療薬としてドパミン作動薬(Dopamine agonist > L-DOPAで幻視が起こりやすいことが知られています。ドパミン作動薬を投与した下垂体腫瘍患者600人のうち幻覚を呈したのは1%のみで、幻聴や妄想が多く、薬剤の減量や中止で可逆的であったことが報告されています。このことからただ純粋な薬剤の影響だけではなく、背景の病態(パーキンソン病など)と相互の影響が大きいのではないかと推測されています。

幻視の治療はまず先ほどの3点(病識があるか?日常生活に支障をきたすか?妄想につながるか?)に問題があるかどうかを検討します。問題ない場合は治療は必要ないですが、問題ある場合は以下のステップで薬剤変更などを行います。

step1:直近に加えた薬剤を中止する
step2:抗コリン薬、アマンタジン、セレギリン中止
step3:dopamine agonist,COMTI,zonisamide中止
step4:非定型抗精神病薬検討(クエチアピン12.5mg眠前投与)
*どこのstageでも:コリンエステラーゼ阻害薬・抑肝散検討

参考文献
・Up to date “2020/6/12閲覧” 衝撃的な詳しさで驚愕します。
・Seminars in Neurology 2001;20:111 幻視のreviewで包括的にまとめられています。
・JNNP 2012;83:448:パーキンソン病関連の幻視をまとめたreviewで秀逸です。