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抗mGluR1抗体陽性小脳失調症

代謝型グルタミン酸受容体(mGluR1)は小脳プルキンエ細胞に発現しており運動学習において重要な役割を担っています。抗mGluR1抗体は細胞膜表現抗原に対する抗体で、患者の血清をpassive tranferが成立することが示されているためこれが直接の病原性を持つと考えられています。元々腫瘍が背景にある患者から発見されており(NEJM 2000;342:21 ホジキンリンパ腫患者2例での報告)、傍腫瘍症候群 PCD(paraneoplastic cerebellar degeneration)に該当しますが、実際には腫瘍が指摘できない症例もあります。

抗mGluR1抗体陽性小脳失調症11例をまとめた文献では、男性6人女性5人、年齢中央値58歳(33~81歳)、腫瘍合併は1例のみ(皮膚T細胞リンパ腫)だけであったと報告されています。神経学的所見としては亜急性経過の失調が特徴的で、その他味覚障害(4人)、認知機能障害が指摘されています。mGluR1は味蕾に発現しており「うま味」との関係が示唆されています。またmGluR1は小脳プルキンエ細胞だけでない脳内の嗅球、視床、腹側被蓋、海馬などにもラットでは発現されていることが知られており、これらが認知機能へ影響を及ぼした可能性も考慮されます。この論文では原因不明の亜急性小脳失調で認知機能障害、味覚障害を伴う場合は本疾患を考慮するべきとしています。

治療反応性は6人が免疫治療を受け、4人改善(ステロイド1人、PE1人、IVIg1人、ステロイド+リツキシマブ1人)、2人は横ばい(ステロイド+IVIgどちらも)で、改善は中央値2か月で認めました。以下に各症例の特徴をまとめます。

症例方向を1つ紹介させていただきます(J Neuroimmunol 319; 63-67, 2018 岐阜大学脳神経内科より)。

51歳女性2か月の経過での歩行障害、構音障害で亜急性の純粋小脳失調の経過であり、傍腫瘍症候群関連の抗体(Yo,Riなど)は陰性で、CBAで血清、髄液の抗mGluR1抗体陽性を確認。計4回入院し免疫治療を実施し、IVIGは脳萎縮後も効果を認めた。

まだまだ報告されている症例数は少ないですが、免疫治療が効果ある小脳失調症の鑑別として本疾患はとても重要と思い勉強した内容をまとめました(少しですが・・・)。私はまだ診断出来たことがなく、もし本疾患のご経験ある先生いらっしゃいましたらコメントいただけますと幸いです。