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脳梗塞とDAPT(dual antiplatelet therapy)

Summary and Recommendations

DAPTを使うべき状況は以下
①軽症非心原性脳梗塞(NIHSS<5点) or 高リスクTIA(ABCD2 ≧4点)
②発症~72時間
③抗血小板薬の選択:アスピリン+クロピドグレル
④併用期間:21日間

クロピドグレル初回投与はloading(臨床試験では全てloadingあり、300mg or 600mg *日本では300mg/日)
・これは薬理作用からも血中濃度を上げるために基本
・クロピドグレル単剤との比較してDAPTの短期使用が脳卒中再発を抑制するかどうかは不明(あくまでもアスピリン単剤と比較しての話)
■重症度に関して軽症TIA(ABCD2≦3点)や中等症以上の脳卒中(NIHSS≧5点)の患者においてDAPTが脳卒中再発を抑制するかどうかは不明
DAPTの長期使用は出血合併症が増加するだけであり推奨されていない(過去の臨床試験から)
*長期間のDAPT併用に関してはシロスタゾールとの併用で出血イベントを増加させず脳卒中発症を抑制した報告があります(日本からの報告!Lancet Neurol 2019; 18: 539 こちらを参照)。

もちろんこれ以外の状況でも頸動脈狭窄が強い場合、BAD(branch atheromatous disease)、症状が不安定な場合などでDAPTを臨床的に使用する場合があります。以下では代表的な臨床試験(RCT)を紹介します。

参考:ガイドライン

AHA/ASA Guideline

“Guidelines for the Early Management of Patients With Acute Ischemic Stroke: 2019 Update to the 2018 Guidelines for the Early Management of Acute Ischemic Stroke” Stroke. 2019;50:e344–e418.

“In patients presenting with minor noncardioembolic ischemic stroke (NIHSS score ≤3) who did not receive IV alteplase, treatment with dual antiplatelet therapy (aspirin and clopidogrel) started within 24 hours after symptom onset and continued for 21 days is effective in reducing recurrent ischemic stroke for a period of up to 90 days from symptom onset.” Class of Recommendation Ⅰ Level of Evidence A

脳卒中治療ガイドライン2021(日本脳卒中学会)

Ⅱ 脳梗塞・TIA 1 脳梗塞急性期 1-3 抗血小板療法
・抗血小板薬2剤併用(アスピリンとクロピドグレル)投与は、発症早期の軽症非心原性脳梗塞患者の、亜急性期(1か月以内を目安)までの治療法として勧められる(推奨度A エビデンスレベル高)。

*注意点:これらは後述する2023年のINSPIRESが発表される以前の臨床試験に基づいた推奨である

臨床試験

“CHANCE”

対象患者は高リスクTIAと軽症非心原性脳卒中患者で、発症から24時間以内、中国で行われた大規模な無作為割り付け、二重盲検試験です。ここでは21日間限定でのDAPT(アスピリン+クロピドグレル)とSAPT(アスピリン単独)を比較しています。

Primary outcomeは90日での新規脳卒中としており、DAPT群がSAPT群と比較して約30%程度イベント発生を抑制しています。また出血合併症に関しても有意差はない結果でした。このstudyがDAPTを高リスクTIAと軽症非心原性脳梗塞へ投与する根拠の端緒となるstudyです。詳細は下記にまとめました。

“POINT”

前述の”CHANCE”は中国人のみが対象でしたので、これが国際的に適応することが出来るかどうか?を検討したのが”POINT”になります。”CHANCE”と違う点としては多国籍、発症から12時間以内、そして一番重要な違いはDAPTの治療期間を90日としている点です(”CAHNCE”では21日間)。

Primary outcomeは90日での脳卒中を含む複合エンドポイントを採用しており、DAPT群がSAPT群と比較して有意にイベントを抑制する結果でした。しかし、“CHANCE”と異なり出血イベントはDAPT群がSAPT群と比較して多い結果となりました。詳細を下図にまとめます。

“CHANCE”と”POINT”のまとめ

“CHANCE”と”POINT”という2つの大規模臨床試験のにより、高リスクTIAもしくは軽症非心原性脳梗塞患者においてDAPT(アスピリン+クロピドグレル)はSAPT(アスピリン単剤)よりも90日脳卒中再発を有意に抑制することが示されましたが、出血イベントは21日間のDAPT治療では有意差はありませんでしたが、90日間のDAPT治療ではDAPT群が有意に出血イベントが多い結果でした。これらを踏まえてBMJがsystematic review and meta-analysisをまとめているので読んでみます。

■脳卒中再発に関して

DAPT開始直後が最もSAPTとの差がつき、22日移行はほとんどグラフのカーブに両者で差がないことがわかります。発症直後のDAPT介入が効果的ですが、長期の使用は効果がはっきりしません。グラフの曲線が10日前後のところでぐぐっと曲がっているところがポイントです。

■出血合併症に関して

下図の通りDAPT使用期間が長くなればなるほど出血イベントは増加する傾向にあります。この点は脳卒中再発は10日~21日のところでグラフのカーブが急になっていることと対照的です。

これらからやはり最も脳卒中再発抑制に効果がある発症早期にDAPTを使い、長期投与だと出血合併症が増加することを考慮して短期の使用にとどめるのが望ましいと考えます。

“INSPIRES” N Engl J Med 2023;389:2413-24.

・背景:上記臨床試験は発症24時間以内の非心原性脳梗塞に限定してものでした。ここでtime-windowを72時間まで延長して効果があるかどうか?を検討した試験です。
・Design:double-blind, randomized, placebo-controlled, two-by-two factorial trial
・Patient:発症72時間以内の軽症非心原性脳梗塞(NIHSS≦5)+高リスクTIA(ABCD2≧4)
 inclusion criteria:病型アテローム血栓性(症候性50%以上の頭蓋内/外血管狭窄 or 多発梗塞で大血管に不安定プラークあり),35-80歳
 exclusion criteria:再灌流療法実施,心原性、mRS≧2、抗凝固薬内服、頭蓋内出血
患者背景:中国6100人,65歳、女性約35%、病型:TIA13%+脳梗塞87%、症候性血管狭窄(≧50%) 82%、時間軸 ≦24時間 13%, 24-48時間 42%, 48-72時間 45%, NIHSS≦3 75%, 4-5 25%
・Intervention:DAPT(クロピドグレル+アスピリン)21日間→SAPT(クロピドグレル)
・Control:SAPT(アスピリン)
 *クロピドグレルは初日300mg/日,翌日から75mg/日
 *アスピリンは初日100-300mg/日(医師にゆだねられている)、翌日から100mg/日
・Primary outcome:90日後の新規脳卒中(梗塞+出血)発症
7.3% vs 9.2% HR 0.79(0.66-0.94) P=0.008


・Secondary outcome
 90日以内の①脳卒中+②心筋梗塞+③心血管関連死亡 7.5% vs 9.3% 有意差なし
 脳梗塞全体 6.8% vs 9.0%
  脳梗塞の進行 1.5% vs 1.9%
 脳出血 0.5% vs 0.2%
・Safety outcome:中等度以上の出血合併症
0.9% vs 0.4% HR=2.08(1.07-4.04) P=0.03
・Subgroup analysis

まとめ
・DAPTはSAPTに比して有意に脳卒中再発を抑制するが(absolute risk reduction 約2%),出血合併症も増加(約2倍)

参考文献
・BMJ 2018;363:k5130 BMJはこのような目で楽しい記事を書いてくださるので好きです。

管理人記録
・2024/1/13:新しい臨床試験の結果を追記 ”INSPIRES” N Engl J Med 2023;389:2413-24.