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細胞外液(晶質液):リンゲル液 VS 生理食塩水

1:細胞外液(晶質液)

Na含有量が体内の細胞外液と近い輸液を細胞外輸液と表現し、代表的なものに生理食塩水リンゲル液があります(輸液全般のまとめに関してはこちらをご参照ください)。両者の違いは生理食塩水はCl=154mEq/LとClが多く、またpH=7.00と人体に比べてアシデミアに傾いているのに対して、リンゲル液は緩衝剤(乳酸、酢酸、重炭酸など)が含まれているためpHが人体に近く、Clも100mEq/L強と人体に近い組成であることが特徴です。

生理食塩水による高Cl血症・代謝性アシドーシスは腎臓での輸入細動脈収縮を引き起こし、腎機能障害をきたすのではないか?という懸念があります。そこでリンゲル液 VS 生理食塩水の実施された大規模研究の結果をみてみましょう。2018年のNEJMに2つ非常に重要な臨床研究が発表されており、紹介します。

2:重症患者

重症患者での前向き研究として最も大規模なものは、2018年NEJMより発表された”SMART”研究です。30日以内の主要腎合併症はリンゲル群で有意に少ない結果でした。サブグループ解析結果では特に敗血症患者においてこの傾向を認めました。

電解質推移まとめ(赤:生理食塩水、青:リンゲル液)


サブグループ解析結果

3:非重症患者

代表的なものにNEJMに2018年発表されたSALT-ED試験があります。ただこの研究では救急外来での輸液投与にのみ介入しており、入院後には介入していない点に注意が必要です。primary outcomeに有意差はありませんでしたが、secondary outcomeの主要腎合併症(MAKE)はリンゲル液の方が有意に少なく、NNT=111というのは重要な結果です。

電解質推移まとめ(赤:生理食塩水、青:リンゲル液)

サブグループ解析結果

以上リンゲル液と生理食塩水の違いをまとめました。特に腎合併症に関してリンゲル液の方が重症患者、非重症患者いずれの場合(特に敗血症の場合)も優れていることが分かります。普段何気なく投与している輸液ですが、今回の臨床試験の結果を踏まえて考えながら投与したいです。