救急外来で胸痛患者さんが来ると心筋逸脱酵素を測定する場合が多々あると思います。改めてその検査特性に関して出来るだけ新しい情報を勉強し、まとめました。
■トロポニン
トロポニンの内容は全て以下の論文より引用しています(Ann Emerg Med. 2016;68:690-694)。この論文は筆者が端的にずばっと切れ味良い言葉でトロポニンに関して語っていて、感動します(こういう語り方が出来るようになりたいなというお手本のような感じです)。
さてさて、トロポニンに関してですが先にまとめを掲載します。
トロポニン陽性は必ず心筋障害(MI: myocardial injury)を意味する点で非常に優れていますが、その原因が虚血か?虚血以外か?という原因は教えてくれません。また急性に上昇したものか?、慢性に上昇しているものか?という経過も教えてくれません。この検査特性(どこまで分かり、どこからは分からないのか)を正確に把握しておくことが検査を使いこなす上で極めて重要です。
このためトロポニン上昇を認めた場合重要なことは、「原因が何か?」という点と、「経過は急性か慢性化?」という2点です。後者の鑑別にはトロポニン値のフォローが重要で、救急外来でACSの除外のためには初回トロポニン検査が陰性であった場合も1~3時間後に再度トロポニン値を測定することが推奨されます。逆にESCのガイドラインでは胸痛発症から6時間以上経過している患者でトロポニン陰性の場合はACSは除外できるとされています。
■CK-MB
トロポニンが重要なことは分かりましたが、トロポニンが台頭している現在CK-MBの意義はあるのでしょうか?私はこの論文を読んで初めて知りましたが、「CK-MBは診断に寄与しない」、「なぜ医師はまだCK-MBを測定しているのか?」というのが世界の主流のようです。少し勉強していないだけで、こんなに時代遅れになってしまうのかとやや愕然としました。以下はJAMA 2017;177(19):1508より引用します。”Eliminating Creatine Kinase-Myocardial Band Testing in suspected Acute Coronary Syndrome”というなかなか刺激的なタイトルです。
内容をまとめると下記の通りです。
・心筋梗塞の診断・除外にはトロポニンが推奨される
・CK-MBはトロポニンに情報を追加しない
・感度、特異度いずれもCK-MBはトロポニンに劣る(特異度はCK-MB:40%、トロポニン:92%)
・腎機能障害ではトロポニンもCK-MBも上昇してしまうため、腎不全でCK-MBが役立つ訳ではない
・トロポニンは予後予測にも役立つ(CK-MBは予後予測には使えない)
→結論:ありとあらゆる場面でCK-MBはトロポニンに勝る点はなく、CK-MBは排除するべき
またこの論文ではCK-MBを根絶することで検査費用が節約できること、それにより患者さんが害を被る訳ではないことなどを報告しています。そして、CK-MBをオーダーしようとするとアラート画面が表示される、などいかに根絶するか?という内容が記載されています。下図のようなカードを使用して啓蒙がされているようです。
論文の冒頭でガイドライン改定後も北アメリカ、ヨーロッパの検査室533のうち25%がいまだにCK-MBを測定していると記載されています。正直これを読んだときは25%しかもう検査していないの???と驚きました。日本はまだほとんどの施設が測定しているのではないでしょうか・・・?改めて検査の特性をきちんと理解して解釈することの重要性を学びました。