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アルコール関連中毒 toxic alcohols

1:代謝

普段私たちが飲んでいるアルコールは「エタノール」です(私は酒飲めないですが)。ここではエタノール以外のアルコールによる中毒を取り上げます。臓器障害をきたすアルコール関連物質として代表的なのがメタノールエチレングリコールです。メタノールやエチレングリコールはこれらが直接臓器障害を起こすのではなく、アルコールデヒドロゲナーゼにより代謝された代謝物の酸(有機酸)が臓器障害を引き起こします。

代謝経路をまとめると下図の通りになります。

■メタノール

メタノールは自動車のウインドウォッシャー液やキャンプのストーブ用燃料液、違法な酒(密造酒)などに含まれています。メタノールの代謝物はギ酸が臓器障害を引き起こします。摂取から6~24時間程度で酩酊状態になり、さらに進むと腹痛、視神経障害、意識障害、痙攣をきたします。視神経障害が特徴的です(国家試験でも覚えましたが、メタノールの「メ」は「目」)。メタノール中毒は治療されないと28%死亡し、生存しても30%に視力障害をきたすとれています。

■エチレングリコール

エチレングリコールは不凍液、防氷剤(地面などが凍結するのを防ぐため)、保冷剤などに使用されます。味が甘いため自殺目的に使用されてしまう場合もあります。エチレングリコールの代謝物はシュウ酸塩が腎臓の尿細管障害を引きおこすのが特徴的です。摂取から12~24時間で酩酊状態になり、腹痛、腎機能障害、意識障害、痙攣などを引き起こします。尿細管障害によるAKIが特徴的です(低カルシウム血症を伴う場合もある)。

■イソプロパノール

イソプロパノールは手指消毒用のアルコールとして広く使用されています。代謝物のアセトンは気化するため、直接臓器障害をきたさない場合が多いです。

まとめます。

2:検査

もちろんメタノール濃度、エチレングリコール濃度を測れば良いのですが、これはすぐに結果が分からないため臨床現場ではこれらの濃度の情報なしで戦わないといけません。ここでとにかく重要なのが「浸透圧ギャップ」「アニオンギャップ」です。

はじめ血液ガスでは浸透圧ギャップが上昇し、次第に代謝され代謝物の酸が生成されてくると酸によりアニオンギャップが開大していきます(下図グラフ参照)。この両者の関係がメタノール中毒、エチレングリコール中毒を疑うKey pointになります。

ポイント:原因不明のアニオンギャップ開大を見つけたら、アルコール関連中毒を疑え

病歴で具体的な過剰摂取歴が取れない場合は、ここで拾い上げることが出来ないと診断は出来ません。また早期治療介入が臓器合併症に重要なので、注意が必要です。

浸透圧ギャップが上昇する原因を下記にまとめます。
・内因性:ケトンアシドーシス、乳酸アシドーシス、腎不全
・外因性:エタノール、メタノール、エチレングリコール、薬剤(グリコール、マンニトール)

3:治療

これらのアルコール関連物質は摂取後すぐに消化管から吸収されるため、胃洗浄は全く意味がありません。このためいかに1:代謝産物の酸生成を阻害する2:代謝産物の酸を取り除くが治療のテーマになります。

1:アルコールデヒドロゲナーゼ阻害薬 ホメピゾール(fomepizole: 4-MP)

代謝産物の酸生成を阻害するためには、途中のアルコールデヒドロゲナーゼを阻害します。エタノールでアルコールデヒドロゲナーゼを消費する方法もありますが、ホメピゾールを使える状況では使った方が副作用も少ないですし良いです(ホメピゾールは値段が高いことが懸念です)。これはメタノール中毒、エチレングリコール中毒どちらも有用です。

2:透析

代謝産物の酸が臓器障害をきたすので、これは小分子のため透析で除去することが出来ます。

3:+α

メタノールでは葉酸投与、エチレングリコールではビタミンB1, 6投与が代謝産物の無毒化に貢献します。なのでこれらの投与も検討します。

参考文献
・N Engl J Med 2018;378:270 アルコール関連中毒のreview、本記事の内容はほぼ全てここからとりました。
・N Engl J Med 2009;360:2216:ホメピゾールについてのまとめ記事。