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血液浄化療法 plasmapheresis

0:血液浄化療法の分類

血液浄化療法(Plasmapheresis)は血液中の血漿成分(血球ではなく)を体外に除去する方法で、免疫疾患で血漿中のガンマグロブリン、補体、サイトカインなどを除去する目的で行う治療法です。どの大きさの分子量を除去するかによって大きく以下の方法に分類されます。

単純性血漿交換 Therapeutic Plasma exchange (TPE) *いわゆる血漿交換
血漿吸着療法 Immunoabsorption Plasmapheresis(IAPP)
二重膜濾過法 Double filtration Plasmapheresis (DFPP)

これに加えてより分子量を制限した選択的血漿交換 Selective plasma exchange(SePE)があります。これらを分類した表を以下に載せます。

分子量で重要なのは多くの疾患で除去したいIgG=分子量15万程度と、出来るだけ除去したくない凝固因子のフィブリノーゲン=34万程度ということです。

1:単純血漿交換 PE: plasma exchange

いわゆる一般的な方法です(一般に血漿交換というとこの単純血漿交換を意味します)。ただ血漿を除去するだけでは、循環血漿量が減ってしまうので、血漿の代わり(これを置換液と表現します)を補充します。一般的に置換液はアルブミンもしくはFFPを利用します。

機序:血漿成分を全て除去し、置換液を補充する方法です。

置換液:アルブミン製剤 or FFP

利点:大きい分子から小さい分子まで全て除去することが出来る(つまりIgGを除去することが目的でやっても、サイトカインが実は病気に悪さをしている場合はそれも除去することができるし、IgMが実は悪さをしている場合はIgMも除去できます)。

欠点:置換液が大量に必要・凝固因子も除去される 血漿成分で重要な凝固成分が抜けてしまうことで補充が必要になってしまいます。

2:選択的血漿交換 SePE: selective plasma exchange

機序:単純血漿交換で用いる分離器よりも膜孔が小さい分離器を使用することで、分子量30万以下の血漿成分を選択的に除去する方法です。IgGの分子量が15万、フィブリノーゲンの分子量が34万なので、フィブリノーゲンは除去されないけれど、IgGは除去することが出来るという特徴があります。このため通常置換液でFFPは必要ありません。回路は分離器が違うだけで基本的な構造はPEと同じです。

置換液:Alb

利点:大分子の凝固因子(フィブリノーゲン)が除去されないため、FFP置換が必要なし

欠点:分子量が30万より大きいIgMや免疫複合体は除去されないため、これらが病態に関与している場合には治療効果がない点に注意が必要です。これがSePEの唯一の欠点といえると思います。

3:血漿吸着療法・免疫吸着療法 IAPP: immunoabsorption plasmapheresis

機序:一度分離器によって分離された血漿成分を吸着器に通し、除きたい物質のみを吸着・除去し、それ以外の血漿成分を体内に戻す方法です(いらないものだけくっつけて除去する方法)。このため、置換液が必要ありません。理論的には最も理想的な方法です。

置換液:必要なし

利点:置換液を使用しない

欠点:処理量に限界がある。サイトカインなどその他の病態に関与しているかもしれない物質は除去されない点が注意が必要で、本当に治療のターゲットが絞れる疾患で有用な方法です。

IAPPによる免疫グロブリンの種類による除去効率は(高)IgG3>IgG1>IgG2>IgG4(低)とされています。以下にIgGサブクラスと病態の対応関係を掲載します。IgG4の除去効率は悪いので、例えば同じ重症筋無力症でも抗AchR抗体の場合は除去効率が良いですが、抗MuskR抗体の場合は除去効率が悪いという欠点があります。

4:二重膜濾過法 DFPP: double filtration plasmapheresis

機序:一つ目の分離器で血漿を分離し、それを2つ目の分離器にかけることで分子量6万以上の高分子を除去し、低分子を置換液と一緒に体内へ戻す方法です。なので分離器を2回使用することから二重膜濾過法という名前です。

利点:フィブリノーゲンは除去されない

欠点:回路が煩雑

日本、Asiaを中心に取り組まれており、実践的なEvidenceには乏しいのが現状(欧米ではそもそも膜がなく施行していない)で、実施機会に乏しいのが現状です。DFPPの方が他の方法よりも良いという状況がなかなかないため実臨床での立ち位置が難しいです。

5:置換液に関して

■置換液の選択

一般的には1:アルブミン、もしくは2:FFP(fresh frozen plasma)のどちらかを使用します。それぞれの利点、欠点を挙げます。

1:アルブミン
利点:アレルギー反応がまずない
欠点:凝固因子は補充されない

2:FFP
利点:凝固因子補充(劇症肝炎、TTP、ANCA関連肺胞出血などは積極的適応)
欠点:アレルギー反応、低Ca血症

■置換液の量

一般的に置換液は血漿量(PV: plasma volume)の1~1.4倍量を使用します(下式)。

PV(L)=BW x (1-Hct/100) x 0.07

■置換液量と分子除去の関係

基本的には1回あたりの置換液量を増やせば増やすほど、血漿中の分子はより除去することが出来ます。血漿量PVの1倍だと63%、1.4倍だと75%除去することが出来るとされています。

しかし、除去効率に対して置換液量が多すぎるとデメリットがあるため(置換液による副作用、凝固因子の欠乏など)、実際には血漿量PVの1~1.5倍程度にすることが多いです。これを下図のように3回繰り返すとIgGは80%近く除去することが理論上は出来ることになります。

6:血液浄化療法の目的

血液浄化療法は血漿中の抗体を除去することで、自己免疫疾患の治療をする場合によく用いられます。免疫治療の代表はステロイド、免疫グロブリン療法、血液浄化療法の3つがあり、それぞれの自己免疫反応の治療での位置づけは以下の通りです。

以上血液浄化療法に関してまとめました。血液浄化療法は普段神経内科ではよく利用する治療法なので、それぞれの原理や除去する分子量の違いや、置換液をやたら増やしたら良い訳ではない原理、置換液の副作用をきちんと理解した上で使用したいです。腎臓内科の先生にまかせっきりにならないように、腎臓内科の先生と少しでも議論を一緒に出来るため参考になりましたら幸いです。