すごく久しぶりに医療と関係ないおすすめ本の紹介です。村上春樹さんというと小説のイメージが強いかもしれませんが、実はエッセイも非常に読みやすく面白いものが多いです。この本のタイトルからは「ランナー向け」の本なのかな?と思われるかもしれないですが、実際には日々何かに一生懸命取り組んでいる人の心にひびく内容が沢山書かれています。イタリアの首相が本書を座右の書として挙げていたこともあります(こちら)。
いくつか印象的な文章の載せます。
僕はもちろんたいしたランナーではない。走り手としてはきわめて平凡な-むしろ凡庸というべきだろう-レベルだ。しかしそれはまったく重要な問題ではない。昨日の自分をわずかにでも乗り越えていくこと、それがより重要なのだ。長距離走において勝つべき相手がいるとすれば、それは過去の自分自身なのだから。
小説家という職業に-少なくとも僕にとってはということだけれど-勝ち負けはない。発売部数や、文学賞や、批評の良し悪しは達成のひとつの目安になるかもしれないが、本質的な問題とは言えない。書いたものが自分の設定した基準に到達できているかいないかというのが何よりも大事になってくるし、それは簡単には言い訳のきかないことだ。他人に対しては何とでも適当に説明できるだろう。しかし自分自身の心をごまかすことはできない。そういう意味では小説を書くことは、フル・マラソンを走るのに似ている。基本的なことを言えば、創作者にとって、そのモチベーションは自らの中に静かに確実に存在するものであって、外部にかたちや基準を求めるべきではない。
また私が以下の文章が大好きです。
“日々走ることは僕にとっての生命線のようなもので、忙しいからといって手を抜いたり、やめたりするわけにはいかない。もし忙しいからというだけで走るのをやめたら、間違いなく一生走れなくなってしまう。走り続けるための理由はほんの少ししかないけれど、走るのをやめるための理由なら大型トラックいっぱいぶんはあるからだ。僕らにできるのは、その「ほんの少しの理由」をひとつひとつ大事に磨き続けることだけだ。暇をみつけては、せっせとくまなく磨き続けること。”
私の仕事は医療ですが、忙しいし、つらいし辞めたくなってしまうような理由は探せば本当にいくらでも(それこそトラックいっぱいぶん)あるように思います。でも、なぜそもそも医療をやろうと思ったのか、人を助けたい、自分自身を磨きたいという「ほんの少しの理由」をきちんと大切に思い返して毎日頑張り続ける・走り続けることが大切なんだと改めてこの文章を読むと気づかさせてくれます(携帯のメモに私はこの文章を入れていて、イライラしたときとかにこっそり読むようにしています(笑))。
村上春樹さんのすごいところは、ただ精神論でただ「がんばれ!」と言うのではなく、このように「トラックいっぱいぶん」や「磨く」という丁寧であたたかい言葉・文章によって、押しつけがましくなく僕たちをそっと勇気づけてくれるところにあると思います。こういう文章を読むと心が少しあたたかくなってきますよね。ここでは一部分だけ紹介しましたが、短い本ですので、もしよければ是非気軽に読んでみてください。きっとあなたも走り出したくなります。
