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DKA :diabetic ketoacidosis

1:DKAに関して

■高血糖緊急症

高血糖緊急症はDKA(diabetic ketoacidosis:糖尿病性ケトアシドーシス)とHHS(hyperosmolar hyperglycemic syndrome: 高血糖高浸透圧症候群)が挙げられます(下図にそれぞれの特徴を簡単に記載しました)。総合内科をやっていると、よく「血糖値が700mg/dLで高血糖緊急症です」とコンサルトがきますが、これは間違いです。DKAであればインスリン枯渇による細胞内飢餓を反映したケトアシドーシスが病態ですし、HHSは血漿浸透圧が高浸透圧でそれによる神経症状がおこることが病態です。ただ高血糖なだけでケトアシドーシスも高浸透圧もない場合は緊急での介入は必要ありません。結構間違えている場合が多いため注意です。

今回はDKAを解説します。実臨床ではDKAとHHSの両者はoverlapしている場合も多いです。DKAはインスリンの絶対的な不足による細胞内飢餓によりケトン代謝が進み、ケトアシドーシスに至る病態です。

■原因

頭文字をとって”7I”が有名です(idiopathicを無くして”6I”, infantを無くして”5I” とも表現するようです)。

7I
Infarction:心筋梗塞 特に糖尿病患者では疼痛の訴えに乏しいため注意
Infection:感染症 原因として非常に多いです・培養の閾値は低めに
・Infant:幼児
Intraabdominal(pancreitis):膵炎 DKAだけでも腹部症状を訴えるので難しい場合が多いです、DKAで造影CT検査をする場合は膵炎除外目的です
Iatrogenic:医原性 非定型抗精神病薬、ステロイドなど
Insulinインスリン打ち忘れ・中止1型糖尿病の初発
・Idiopathic:原因特定できない

■症状

嘔気、嘔吐、腹痛といった消化管症状を主訴として受診する場合もあります。腹痛の重症度は代謝性アシドーシスの程度と相関(高血糖、脱水重症度と関連なし)するともされており、代謝性アシドーシスで麻痺性イレウスが起こる可能性が指摘されています。DKAに特異的な症状はないので、嘔気、嘔吐、腹痛の鑑別として常に考えておく必要があります。HHSでは通常腹部症状はないので、HHSで腹部所見を伴う場合は他の原因を検索する必要があります。

■検査

以下は全例行うべき検査
心電図(虚血が背景になりかどうか評価・心筋逸脱酵素も)
血液ガス:酸塩基平衡の確認・またフォローは基本血液ガスで行う
採血P, Mg(食事が今後再開される場合にrefeeding syndromeのriskがあるため疎測定・血液ガスで分からないため注意しフォローする)、心筋逸脱酵素(CK, CK-MB, Troponin-I)、膵酵素(リパーゼ)、血漿浸透圧HbA1c, C-peptide, 血中ケトン体(結果すぐに出ないが予め提出しておく)・抗GAD抗体
尿検査:糖尿病患者が具合悪いときに尿検査を出さない選択肢はない

以下は必要な場合に行う検査
血液培養:感染症を疑う場合各種培養を提出・培養の閾値はかなり低めが良いと思います(DKAは血糖フォローなどで救急外来にいる時間が長いことが多いので、その時間にささっと培養をとります)
造影CT検査:膵炎を疑う場合 いつもこの判断は難しいです

血糖値はDKAでは低い場合もあるため注意が必要です(約25%は血糖値正常とされています)。具体的にはSGLT2内服中、飢餓状態、妊娠中、来院前のインスリン使用では血糖値が低い場合があるため注意が必要です。

■ケトン体に関して

ケトン体にはアセト酢酸・βヒドロキシ酪酸・アセトンの3種類あり、尿検査で測定するのはアセト酢酸(nitroprusside反応で検出し、アセト酢酸 3mmol/L以上で検出)です。しかし、DKA、AKAなどで実際に病的意義を持つのはβヒドロキシ酪酸です。このため尿ケトン検査は診断・治療効果判定に不十分なので注意が必要です。(参考:下図 最近はβヒドロキシ酪酸を測定するキットもあります)

アセト酢酸:βヒドロキシ酪酸比
正常の場合 1:1 DKAの場合 1:3 AKAの場合 1:10

2:DKAの治療

0:原因疾患の治療

DKAの治療はついつい血糖値に目をとられてしまいがちですが、DKAに至った原因へのアプローチを忘れてはいけません。私はかつてDKAの診断で救急外来でインスリン持続をはじめ、病棟に上がる直前に心電図を撮り(それまで心電図をとることを忘れていた・・・)、その心電図がSTEMIであった非常に苦い経験があります・・・。糖尿病がある場合は心筋梗塞も無症候性のことも多いので心筋逸脱酵素と心電図は必ず早めに確認したいです。また感染症も非常に多い原因なので、血糖値、酸塩基の補正と同時に感染を疑う場合は閾値を低く、各種培養を提出し早期の抗菌薬治療へつなげます。病棟に上がる前に救急外来で原因検索の決着をつけたいところです。

以下にDKAの治療に関してのstrategyを記載しますが、ガイドランとは完全に一緒ではありません。ガイドラインと全く同じだとどうしても治療にうまくいかないと感じることが多々あり、個人的に修正したり、師匠に教えてもらった内容を載せています。なので標準的な方法を知りたい場合はガイドラインをご参照いただけますと幸いです。

DKAの治療は原因の検索/治療・輸液・K補正・インスリンの4つを同時並行で進めていきます。

1:輸液

高血糖による浸透圧利尿などの影響で細胞外液、細胞内液ともに喪失している状態です。インスリン投与よりも細胞外液負荷を優先します。細胞外液の補正前にインスリンを投与することは避けましょう。

Step 1:最初1時間 細胞外液投与による脱水補正

細胞外液:1000ml/hr(最初1時間)

・ついついドーンとbolus投与したくなるようなIVCであっても、ショックでなければbolus投与は避けた方が良いかもしれません(脳浮腫助長のリスクがあるため)。
・生理食塩水とリンゲル液はどちらでもよいとされています(私はその後の管理の点でKなど含んでいない生理食塩水を使用する場合が多いです)。
・必ずインスリン投与前に細胞外液補液を開始します。

Step 2:1時間以降 volume statusの評価+高Na血症の評価をしながら輸液

脱水補正継続の場合:細胞外液点滴継続 250~500ml/hr
補正Na値高値の場合: 0.45%NaCl(half生理食塩水) or 1号液 250~500ml/hr

最初の1時間ではまだまだ脱水が著明な場合は細胞外液点滴を継続します。速度は教科書的には250~500ml/hrですが、体液量の評価が重要です。体液量の評価ですが、エコーでIVCを確認するなどで経時的に追うのが一番だと思います。尿量は高血糖による浸透圧利尿が起こるためvolume評価の指標にはならない点に注意が必要です。

また多くの場合高Na血症を合併するため(血糖値によるNa補正が必要)、細胞外液の補正がある程度すすみ、かつ高Na血症になってくる場合half 生理食塩水への切り替えを検討します。half生理食塩水は施設によっては嫌うところもあるかもしれません(蒸留水は血管内投与禁忌のため)。その場合は1号液で代用しますが、1号液は糖を含んでいるため血糖値上昇の懸念があり管理しづらさがあります(1号液の出番でDKAでの高Na血症のときと透析患者さんでの何となくの輸液くらいしかないかも・・・)。

*Half 生理食塩水の作り方
・直接生理食塩水と蒸留水をまぜるバッグで500mlずつ混ぜる(私の前の施設ではこの方法を使用していました。夜中なんどか自分でがちゃがちゃ混ぜた思い出があります。)
・注射用水500ml + 10%NaCl:24ml (これは私はやったことないのですが載っていました)

Step 3:血糖値 200mg/dL以下の場合

ここでは糖入りの輸液に切り替え1号液もしくは3号液を使用します。投与速度は状態に合わせてですが教科書的には250~500ml/hr程度としてあります。個人的には別にこの速度に固執する必要はなく、適宜調節するので問題ないと思います。

以下に補液のstrategyをまとめます。

2:K補正

K値によるK補充の判断
・K>5.3 mEq/L:K補充必要なし
・3.3<K<5.2mEq/L:K含有輸液に切り替える 補正:10mEq/hr
K<3.3mEq/L:インスリン中止し、K補正を優先 補正:20mEq/hr

K補正液の組成(組成)生理食塩水 500ml +KCl 20mEq混注 (40mEq/L)

K補正はDKA治療において非常に重要な点です。アシドーシスの影響で受診時K値はみかけ上高値を呈しますが(ΔpH:0.1=ΔK:0.5のおおまかな対応関係にあります)、アシドーシスの是正とインスリンによる細胞内取り込みによってKは治療中に急激に低下していきます。このためKが3.3 mEq/L未満の場合は基本的にインスリンを中止して、K補正を優先することが必要です。このようにK補正はインスリン治療と同じくらい重要でK補正を決して軽視してはいけません(私自身もそうだったのですが、DKAの対応を初めてする場合、Kを軽視して失敗する場合が多いと思います)。

K補正にあたって補液ラインとKラインを同じにするか?別々にするか?という問題が生じます。私はKラインを別にして管理するようにしています(そちらの方が管理しやすいので)。基本的には生理食塩水500mlにKCl20mEq混注として、それの速度を調節して管理しています(1号液でもよいですが、これまた糖が入っているためK代謝にも影響がありややこしいので生理食塩水にする場合が多いです)。

3:インスリン

必ず細胞外液点滴をしてからインスリンを補充します。脱水補正前にインスリンを投与しないように注意です。

開始:0.05~0.1単位/kg bolus投与 *bolus投与はしなくてもよいかも

継続:0.05~0.1単位/kg/hr
(日本人は少なめの0.05単位/kg/hrで良いかもしれない)

血糖値減少速度:Δ100mg/dL/hr以下(目標は50~70 mg/dL程度)の低下にとどめる

インスリンの組成:生理食塩水49.5ml + インスリン(ヒューマリンR)50単位(0.5ml) → 1単位/1ml

インスリンに関しては教科書と実臨床でなかなかギャップを個人的には感じる点です。ほとんどのガイドライン、教科書には0.1単位/kg持続投与となっていますが、個人的にはこれだと血糖値が下がり過ぎるケースが多いので0.05単位/kg/hr程度で身長に開始するようにしています(私が初期研修のときの糖尿病科の先生は全例0.05単位/kg/hrでやっていました)。

またガイドライン、教科書には最初にbolus投与の記載が必ずありますが、これも必須ではないとする先生もいます(急激に糖が細胞内に取り込まれることでの脳浮腫懸念)。私は0.05単位/kgでbolus投与することが多いです。

インスリンの組成は上式(生理食塩水49.5ml+ヒューマリンR:0.5ml)で覚えてしまうとよいと思います。DKAだけでなく、重症患者での血糖持続管理も基本この組成ですし、1単位/1mlとなり分かりやすいです(逆にこの組成以外を見たことないですね・・・)。点滴バッグにインスリンを混ぜると速度調節が混乱するため絶対に避けるようにしましょう(これはDKAに限らずです)。

DKAの病態がインスリンの絶対的不足による細胞内飢餓なので、インスリン投与が治療の要です。そして、ここでは血糖値が下がり過ぎないように注意はしますが、治療の目的はケトアシドーシスの補正です(血糖値を下げることが治療目的ではありません)。なのでAGが閉じてきているかどうか?を病態改善の指標として、血液ガスのフォローします(血液ガスのフォローは静脈で問題ありません)。血液中のケトン体をreal timeでその場その場で測定することは出来ないので、代わりにAGを利用します。尿ケトンは先ほども申しあげたようにアセト酢酸をみており、病態のβヒドロキシ酪酸を必ずしも反映していないため指標とはしません。

インスリン持続静注から皮下注射への切り替え

■切り替える条件

・血糖値200mg/dL以下+食事を食べられる状態

・AG<12 or HCO3->18mEq/L or pH>7.30(venous) 左記3項目のうち2項目以上を満たす

上記を満たした場合にインスリン持続注射から皮下注射への移行を検討します。

■インスリン持続注射と持効型インスリン皮下注射開始をかぶせる

持効型インスリン開始後2~3時間後にインスリン持続注射を中止します。つまり両者のかぶるのりしろ期間を設けるということです(”ブリッジング”とも表現します)。これはインスリン持続注射で使用しているインスリンは半減期が短いため(半減期は分単位)、中止するとすぐにインスリン枯渇になってしまい再度細胞内飢餓によるケトアシドーシスになってしまう可能性があるためです。

併用する時間をここでは2~3時間としましたが、決まりがある訳ではありません。最低1時間は併用することが必要ですが、私は不安でいつも2~3時間は併用するようにしています。6時間やるという先生もいらっしゃいます。これもたまに忘れられてしまってケトアシドーシスに逆戻りというケースを目撃します・・・。

■皮下注射インスリン投与量の決定

以下の3 stepで皮下注射のインスリン量を決めます。ここでは持続インスリンが1単位/hrの場合を想定して考えます。

①1日必要量を持続インスリンから推定
=1.0単位/hr x 24 hr=24単位

②1日必要量の80%を皮下注射インスリン総量へ
=24 x 0.8=約20単位

③皮下注射インスリン総量を分配 (以下a, bいずれの方法もあります)
(a): 均等に4等分する方法 :速攻型朝4-昼4-夕4/持効型眠前4単位 *私の前勤めていた施設はこちらの方法(a)でした
(b): 半分持効型、半分速効型にする方法 :速攻型朝3-昼3-夕3/持効型眠前10単位

以下にまとめます。

■食事に関して

食事とインスリンの関係

食事を開始して、でもどれだけ食べられるか分からないけどインスリンをどうしよう?という悩みが出てくると思います。その場合は、速効型インスリン投与のタイミングを食後にして食事量に応じてインスリン量を調節(全く食べられない場合は投与しない)する方法があります。食事摂取量が落ち着いてきたタイミングで、インスリンを食前投与に切り替えれば問題ないと思います。

refeeding syndrome

またこれは食事開始前からも問題になりますが、refeeding syndromeのリスクがDKAは非常に高いため(絶食期間も長い)、Kは普段血液ガスでフォローしてますが、P、Mgも低下してこないかどうかフォローが重要です(特に低Mg血症は低K血症の原因になるため注意)。これは血液ガスで普段測定しないので、連日生化学できちんとフォローすることが重要です。

■DKA治療の何が難しいのか?

初めて1人でDKAの治療をするときはほぼ皆さん混乱されると思います。私は研修医2年目の時に何度か最初1人でDKA, HHSの対応しなければならない状況がありましたが、ことごとく混乱しました・・・。今思い返すとその難しさ・失敗の理由は、
・きちんとK補正を別ルートに分けて管理できていなかった(輸液とK補正がごちゃまぜになってしまう)
・K補正を甘く見ていた
・細胞外液の補液から次の補液のstrategyへどう切り替えてよいか分からない(half生理食塩水もDKA以外では使わないので、そもそもどう作るのか分からない)
・食事開始のタイミングでインスリンをどすればよいか分からない
などがありました。

基本的には同時にK補正・インスリン管理と同時に複数のパラメーターの治療にあたることがDKAの難しさだと思います。DKAは体液量の評価、K補正、血糖値補正、酸塩基の理解と内科医にとって総合力を問われる非常に重要なテーマだと個人的には思います(決して糖尿病専門医だけの疾患ではなく、内科の疾患だ)。正直経験を積むことで出てくる疑問をその都度調べるのが一番の近道ですが、今回自分が経験した疑問点を出来るだけ言葉にして記載させていただきました。

ご意見、分からない点、間違いなどありましたらコメントいただけるとありがたいです。