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関節炎へのアプローチ

1:関節・関節周囲

関節の問題なのか?関節周囲の問題なのか?からまずアプローチします。まずは関節と関節周囲の解剖を解説します。

・関節:関節軟骨・滑膜・滑液
・関節周囲:滑液包・付着部・腱・靭帯・皮膚軟部組織

では関節か?関節周囲の問題か?を区別するにはどうすればよいでしょうか?一般的には以下の点に注目します。

このなかでも私が特に重要と教わったのは、ROMや疼痛の誘発が全方向性か?特定の方向にアクセントがあるか?という点です(旭中央病院での師匠の先生から教わりました)。関節内の問題だとすると基本的にどの方向でも疼痛が誘発されるはずですが、関節外だとするとテンションがかかる方向だけで疼痛が誘発されるはずなので、ある方向では疼痛が強いが、ある方向では疼痛が弱いという違いがあるということです。

もちろん圧痛が関節裂隙の直上にあるかどうか?も重要なポイントで、なんとなく全体的に痛いではなく、どこに特に疼痛のポイントがあるかを身体所見でさぐる必要があります。ここは簡単なようでとても難しく訓練が必要です。私も手関節の可能性関節炎だと思ったら、化膿性屈筋腱炎だったことがあります・・・。

各関節への個別のアプローチは別項で解説します。

2:関節炎へのアプローチ

肝背tの問題と分かったら次はその関節炎の特徴を調べていきます。注目するのは以下の点です。

1:部位 location
2:炎症性・非炎症性 inflammatory or not
3:経過 acute or chronic
4:数 mono or poly
5:対称 or 非対称・近位 or 遠位
6:随伴症状

炎症性、非炎症性の鑑別として役立つのは朝のこわばりの時間です。
・非炎症性:朝のこわばり30分以内・労作で増悪
・炎症性:朝のこわばり30分以上・安静で増悪
このような特徴があります。

単関節炎か多関節炎かは特に鑑別の上で重要です。この単 or 多と経過が急性か慢性化を掛け合わせて下図の様に分類する場合が多いです。どの関節炎も最初は単関節炎から始まるので、経過から判断していくことも重要です。経過の中で関節炎が別の場所に新規に出現する場合もあれば、ある場所の関節炎が消えて、その後別の場所に出現する場合もあります。

関節炎の分布(部位・左右対称か・近位が遠位か)もとても重要です。これは個別の疾患がどの関節を障害しやすいかの知識が予め必要です。例えば、関節リウマチはDIP関節にはこない、ベーチェット病の関節炎は大関節に多い、偽痛風は小関節には起こりにくく膝が一番多いなどです。

次に検査ですが、以下の全てをもちろん毎回出すわけではないですが、病歴所見から以下の検査の中から必要なものを検査に出します。

検査
・Chemi 7・UA・Ca・P・CRP/ESR
・ANA・SS-A・RF・C3,4・IgG・IgM・TSH, FT4・HBV/HCV/ParvoB19
・尿検査
・血液培養:2set *IEも関節炎を呈することがあるため注意
・関節部Xp検査
・関節穿刺(次で詳しく解説します)

3:関節穿刺

個人的には内科医は膝の関節穿刺は出来るべきと思うので、膝の関節穿刺の方法を解説します。(私は膝の関節穿刺は出来ますが、それ以外の部位は出来ないので整形外科の先生にコンサルトして穿刺をお願いしています。)初めのうちはエコー(リニアプローベ)を当てて、関節液貯留と深さを確認してから穿刺する方が安全だと思います。

■方法

・エコーにて関節液の存在と穿刺位置の確認(出来れば)、マーキング
・消毒、穴あきドレープ
膝蓋骨上縁外側と側方縁の交点から穿刺(18G針)(針が細すぎると関節液の粘稠度によっては液体が引けない場合があるため、太い針を使用)

実施上での注意点
局所麻酔はしない場合が多いです(上級医の先生方のをみてもほとんどしていない)
軽度屈曲位がやりやすいです(ひざ下にタオルを入れるなど)

■提出項目 3C (Cell count/Crystal/Culture)

1:一般(細胞数、関節液結晶、糖、TP, LDH, 比重、外観)
2:培養(結晶性が疑われる場合も必ず培養を提出)
3:gram染色、偏光顕微鏡用 *固まる場合はヘパリンをスピッツに入れる

検体取り扱いの注意点
常温で長時間放置していると、糖は下がってしまうため、素早く検体は提出するべきです。
・粘稠度が高い検体だと固まってしまい測定出来ない場合があるため、スピッツに予めヘパリンを少し垂らしておくと予防することが出来ます。
ごく少量しか引けなかった場合は細菌培養検査を優先する。

■関節液の解釈

特に重要なのは細胞数です。5万以上は化膿性の可能性が高いです。結晶性関節炎と化膿性関節炎は共存する場合があるため、結晶が確認されても必ず培養検査、グラム染色は確認します。グラム染色は感度が低いので、臨床的に疑われる場合は抗菌薬治療を培養検査結果が出るまで継続します。

関節液のグラム染色も毎回必ずするようにしましょう。結晶性関節炎の場合もきちんとグラム染色で結晶が貪食されている様子を観察できる場合があります。下図は自験例の偽痛風のグラム写真(関節液所見:細胞数: 56590/μL, 糖: 76mg/dl、培養陰性,CPP +)。

外観もとても重要です。以下は自験例のMSSAによる膝の化膿性関節炎の症例です。この症例は細胞数26600/μLとそこまで高くなかったですが、糖は4mg/dLと著明に低下していました。やはり細胞数だけで化膿性関節炎の除外は出来ないです。

*番外編:偏光顕微鏡の使い方

私も詳しい原理は理解できていませんが、重要な点は光の軸があり、それに対して結晶の長軸方向が水平か垂直か?によって結晶の鑑別が出来るという点です。顕微鏡をみてみると、下図赤矢印で示した場所で軸切り替えることができます。この軸と見える結晶の方向が水平か垂直か?で鑑別をしていきます。

シェーマでまとめると下図の様になります。ABC(allign, blue, CPP)という覚え方があり私もこれで覚えています(Z軸に平行(allign)で青色(blue)はCPPという意味です)。

私の初期研修病院先は偏光顕微鏡も自分で使う指導を受けていたので何度も自分で使いました。

以上関節に関してまとめました。私が旭中央病院でもっとも勉強になったことのひとつが、関節所見へのアプローチです。師匠の先生が神経内科専門でいらっしゃるのにも関わらず、膠原病の知識がえげつなく、関節所見を一緒にとらせていただいた経験が大変貴重でした。そこで学んだ内容をまとめています。参考になりましたら幸いです。