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人工呼吸器 モード・設定

  • 2020年5月1日
  • 2021年9月9日
  • 呼吸

人工呼吸器の原理に関して別項で解説させていただきました(こちら参照)。ここではこの原理を踏まえて、ややこしい人工呼吸器のモードと具体的な設定を解説します。

1:モード

人工呼吸器が換気をサポートする方法は「強制換気」「補助換気」の2通りあります。前者は人工呼吸器で強制的に空気を送り込むことで一定の換気量(もしくは圧)を得る方法で、後者は患者さんの自発呼吸を尊重し、それを圧でサポートする方法です。この換気の方法の組み合わせ方により「A/C (Assist/Control)」・「SIMV (Synchronized Intermittent Mandatory Ventilation)」・「自発呼吸モード(CPAP +PS)」の3通りのモードがあります。

更に送気方法(空気をどのように送るか?)は「VCV (volume control ventilation)」・「PCV (pressure control ventilation)」・「PSV (pressure support ventilation)」の3通りがあります。上記のモードにこの送気方法を組み合わせて最終的なモードを決定することになります。

1:A/C (Assist/Control)

A/Cの“Assist”は吸気努力をトリガーし、“Control”は時間をトリガーすることで全ての呼吸に対して強制換気を行います。Controlで設定した呼吸回数の強制換気が入り、呼吸回数が担保されます。それ以外に自発呼吸が出る場合もAssistが吸気努力をトリガーして強制換気が入るシステムです。人工呼吸器の原理の項(こちら)もご参照ください。

例えば、呼吸回数を10回に設定すると、自発呼吸がない場合は6秒に1回強制換気が入ることで1分間に最低10回は強制換気をすることが出来ます。自発呼吸が10回以上ある場合も吸気努力をトリガーとして全てに強制換気が入ります。モードの中で最も完全なサポートが入るので、急性期の呼吸不全などは基本的にこのモードを選択します。

2:SIMV (Synchronized Intermittent Mandatory Ventilation)

SIMVはA/Cと自発呼吸の間に位置するようなモードです。設定した呼吸回数分の強制換気が入りますが、自発呼吸がそれよりも多い場合は、多い分には強制換気は入らず自発呼吸(±PSV)を行います。このため、設定した呼吸回数分の強制換気は担保されつつ、自発呼吸も尊重するというモードです。A/CとSIMVの違いに関しては後で詳しく解説します。

3:自発呼吸モード (CPAP ± PS)

吸気努力をトリガーして自発呼吸で管理するモードです(強制換気はなく、タイムトリガーは使用しない) 。CPAP (Continuous Positive Airway Pressure:持続的気道陽圧方)はずっと一定の陽圧をかける方法で呼吸補助は行わず、PS (Pressure Support)は患者の吸気努力をトリガーして設定した圧をかけることで呼吸を補助します。なので自発呼吸がない状態では使用しません。急性期を過ぎた状態、抜管時など自発呼吸が保たれ呼吸状態が安定している状態で使用します。

この3つのモードに送気方法(VCV, PCV, PSV)を組み合わせことで人工呼吸器の設定が分類されます(以下の通り)。

*A/CとSIMVの違い

A/CとSIMVの違いは特にややこしいのでここで解説します(私もはじめはよく理解できませんでした・・・)。ここでは人工呼吸器の呼吸回数設定を10回として考えてみます。ポイントは
1:設定した呼吸回数より自発呼吸の回数が多い場合、そこに強制換気を入れるか?自発呼吸のまま残すか?
2:呼吸回数最低10回をどうクリアするか?
の2点です。

まず1つ目のポイント「設定した呼吸回数と自発呼吸の関係」に関して解説します(下図)。「自発呼吸がない場合」、もしくは「自発呼吸があるが、設定した呼吸回数より少ない場合」は設定した呼吸回数だけ強制換気が入ります。これはA/C, SIMVどちらも同じです。しかし、自発呼吸回数が設定した呼吸回数より多い場合はA/Cは全てに強制換気を入れますが、SIMVは設定した呼吸回数より上回る分は自発呼吸のまま(±PSV)で強制換気をしません。ここがA/CとSIMVの大きな違いです。

具体例として人工呼吸器の呼吸回数設定を10回/分、自発呼吸の回数がない場合、自発呼吸4回/分の場合、自発呼吸14回/分の場合の例を下に載せます。

次に2点目の「設定した呼吸回数をどうクリアするか?」です(ここは理解しなくても人工呼吸器管理の上では問題にならないので飛ばしていただいても大丈夫です)。A/Cでは最後に呼吸(自発 or 強制)をしてから6秒間(=60秒/10回)自発呼吸がないと、そこで強制呼吸が入るというシステムをとります。こうすることで呼吸回数を最低10回/分以上に保つミッションをクリア出来ます。毎回呼吸(自発 or 強制)をするたびに6秒にセットされたタイマーを押すようなイメージです。タイマーが鳴る前に自発呼吸をした場合は、そこで強制換気が入ります。タイマーが鳴る前に呼吸をしなかった場合は次にタイマーが鳴るタイミングで強制換気が入ります。

これに対してSIMVでは6秒ごとにトリガーウィンドウ(応答期)というものを設定し、この応答期内に自発呼吸が入った場合は強制換気を行い、自発呼吸がない場合は応答期の終わりに強制換気を行うシステムをとります。これにより呼吸回数を最低10回/分以上に保つミッションをクリアできます。トリガーウィンドウ以外の場所で自発呼吸が出る場合は、強制換気は入りません(自発呼吸のまま、もしくはPSV)。A/Cのようにその都度タイマーをセットするシステムではなく、固定のタイマーがありそれが6秒ごとに鳴るようなイメージです。

これを全てまとめると下図の様になります。

実際「SIMVを使わないといけない場面」というのはなく、A/Cと自発呼吸モードだけで管理できるので日常臨床でこのモードを使う機会は乏しいかもしれません。でもきちんと違いは理解しておきたいです。

2:設定

人工呼吸器の設定をする際、各設定項目が「酸素化」・「換気」・「同調性」のいずれと対応しているかを明確にすることが重要です。

■酸素化
FIO2 (Fraction of inspiratory oxygen:吸入酸素濃度)
PEEP (positive end-expiratory pressure:呼気終末陽圧)

換気
吸気圧(PCVの場合)・1回換気量(VCVの場合)
呼吸回数

同調性
吸気時間(PCVの場合)・流量(VCVの場合)
トリガー(圧トリガーもしくはフロートリガー)

まとめると下図の通りです。

一般的な(あくまで患者さんの状態に応じて対応が必要ですが)人工呼吸器の初期設定を参考までに載せさせて頂きます。

3:正常波形

3.1:波形と設定の対応関係

人工呼吸器の管理にあたり、波形から病態を推測することが重要です。そのためには各換気方法での正常波形を理解することから始めます。ここではPCVでの「圧」波形を例として考えます(下図)。自分が設定している項目が実際波形のどこに対応しており、どう変化するのかを視覚的にイメージできることが大切です。

■PEEP: positive end expiratory pressure

PEEPは上図からわかる通り、常に一定の圧を肺胞にかけることで、圧の底上げを行うものです(下駄を履いて背が高くなったようなイメージです)。PEEPが上がった分だけ平均気道内圧が上がるため酸素化改善に貢献します。

■吸気圧 もしくは1回換気量

実際に換気に関与する圧を駆動圧(Driving pressure)と表現します(下式)。
Driving pressure = 吸気圧 – PEEP
PCVでは吸気圧の設定を行いますが、VCVでは1回換気量を設定します。

■吸気時間 もしくは流量

PCVでは吸気時間を、VCVでは流量を設定(それにより間接的に吸気時間を決定)します。

■平均気道内圧

酸素化に関係するのは「酸素濃度」と「平均気道内圧」であり、「平均気道内圧」はとても重要な値です。以下の式で表現されます。これは自分で設定できるものではなく、人工呼吸器の設定をした結果として得られる値です。

このことからわかる通り平均気道内圧を上げるためには、
・PEEPを上げる
・吸気圧を上げる
・吸気時間を呼気時間に比べて長くする
と3つの方法があります。
吸気圧を上げるのは上がり過ぎると肺の圧損傷をきたすリスクが高くなり、吸気時間を長くすると人工呼吸器と患者の同調性が悪くなる可能性があります。それに比べてPEEPは上げた分だけ平均気道内圧が上がり、同調性の問題もないため調整しやすいです。

3.2:正常波形の種類

また人工呼吸器では様々な波形が表示され、今見ている波形が何を反映しているか?を把握する必要があります。横軸が「時間」であることは胸痛ですが、縦軸は「圧(cmH2O)」・「流量もしくはフロー(L/min)」・「容量(mL)」の3つのパターンがあります。送気方法で分類し、VCVでの波形とPCVでの波形をそれぞれ下図にまとめます。

以上人工呼吸管理のモード・設定・正常波形に関してまとめました。

参考文献

・人工呼吸管理レジデントマニュアル 編集:則末泰博先生 執筆:片岡惇先生、鍋島正慶先生
大変わかりやすく人工呼吸管理の注意点やモードなどの解説がされていておすすめです。マニュアルですが、読んでいても生理や最新の臨床研究の結果に関しての記載もあり勉強になります。